037 アフターナイン
視点変わります。
楓達と別れた後の、エイジ達の話です。
「「「かんぱーい!」」」
とある居酒屋にて。
バスケサークル『ハイ・ファイブ』の面々が威勢よくビールジョッキを掲げる。
「ぶはぁwwww、最高」
「この為に生きている気がするぜっ」
「すみませーん! ビールおかわりー! お前らは?」
「あ、オレもビール!」
「オレもオレも」
「ビール3つ追加でー!」
あっという間に杯を空にした偉丈夫達は、直ぐに2杯目を要求する。
「おい、お前らちょっと抑えろよ……オレは金がねーんだ」
勢い任せにビールを呷る面々に対し、赤味がかった長髪の男、エイジが文句を零した。
「さすニートwwww」
「おい、俺はニートじゃねぇ。ちゃんと働いてるぞ」
「バイト民、乙wwww」
「オメーも対して変わらねーじゃねえかっ!」
そんなエイジを、一際恰幅の良い男、糸井がからかう。
二人のやりとりを見て、席を囲む面々の笑い声が重なった。
そんな始まったばかりの酒席に。
「お疲れ様っ!」
店員に案内されやってきたのは、一際背の小さな女性。
幼い外見とは裏腹に、バッチリと施されたメイク。
ハニーブロンドの髪を両サイドでまとめたツインテールがピクピクと動く。
「あー疲れたわっ! もう限界っ! あ、ビール2つ持ってきて頂戴!」
彼女は羽織っていた上着を脱ぐや、空いている席にどかりと座り、自分を案内した店員に対して慣れた口調で注文を告げた。
「大変そうですね、レイラさん」
近くに座る男が、そんな彼女の労をねぎらう。
「そうなのよっ、いくら優秀な私でも、テスト期間前は仕事を捌ききれないわねっ! ビールはりーあっぷ!」
レイラと呼ばれた女性が騒がしく店員をせっついた。
間もなくして、レイラの手元にはなみなみと注がれたビールジョッキが2杯届けられる。
「一杯飲んでから次を頼めよ……」
「うるさいわねヒモニート! こんなの秒よ秒! すぐ無くなっちゃうわよ!」
「おい、オレはヒモじゃねぇしニートじゃねえ」
「バイト民、乙wwww」
隣で抗議する男を無視して、レイラがすくりと立ち上がる。
その両手にビールジョッキを携えて。
「ま、とりあえず乾杯しましょ。 おつかれー!」
「「「おつかれー!」」」
そうして、本日二度目の乾杯が交わされた。
**********
「で、どーだった? ウチの子は?」
軟骨のから揚げを摘まみながら、レイラが話を振る。
「楓ちゃんだっけ? 上手かったよなぁ?」
レイラの問いに、『ハイ・ファイブ』の面々が一様に同意する。
酒の肴は、急遽参加した女子高生の話題に移った。
「っていうかホントにレイラちんトコの部の子なん?wwww あのレベルが居るって、実は結構強いんじゃね?wwww」
「あの子はウチでは別格ね。そりゃウチにも一人二人は上手い子がいるけれど、あの子はレベルが全然違うわ」
そう言って、レイラがビールを呷る。
ぐびりと喉を鳴らし、心地よさそうにジョッキを空にした。
「まぁ、確かに上手かったな……チカとマッチアップしても遜色無かったし。でも、そんなんじゃ周りから浮くんじゃねぇの?」
「浮きまくりよ。 正直、何でウチの高校に来たのか分からないレベルだもの。 条件馬の中に一頭だけGIレベルの馬が混じってるようなもんねっ」
「何で例えが競馬なんだよ……」
豪快に笑うレイラに、問いを投げたエイジがこめかみを抑えて項垂れた。
「で、楓ちゃんがさぁ、何を思ったかいきなりエイジに一対一を挑んでさwwww」
「そうそう、あれは面白かったなぁ」
楓の話題が続く。
レイラを囲む男達が、その時の様子を楽しそうにレイラに語った。
「へーっ……アンタ、ちゃんと手加減したんでしょーね?」
レイラが隣に座るエイジの頭を軽く叩く。
「痛っ! 何すんだコラ。……当たり前だろ」
「いや、結構本気でやってただろ」
エイジの答えをイジリながら、ガハハと笑う面々。
その中の一人が、さらに話題を進める。
「そんで、それを見たチカちゃんがヤキモチ焼いちゃって大変よ。 挙句、試合中なのにオレらそっちのけで二人でやり合っちゃって」
「女子高生にモテモテで羨ましいですなぁ?wwww」
そう言って、またガハハと笑う男達。
そんな周囲の茶々を苦々しい顔で受けながら、エイジが話す。
「まぁ……チカには良い刺激になったんじゃないか? いつもより楽しそうにしてたし」
しみじみと、そう語るエイジ。
「アンタも何だかんだ言ってチカには甘いわね」
「まぁ、チカはエイジの愛弟子みたいなもんだしなぁ?」
「愛人の間違いじゃないか?」
お馴染みのネタとでも言うような調和で、ガハハと下品なユニゾンを奏でる。
そこから話題はチカの近況に移る。
「で? チカは元気にやってるワケ?」
レイラがやや離れた位置に座るチカの兄、サイゾーに話を振る。
「ビミョーですかね……とりあえず学校には休まず行ってるみたいですけど。 バスケ部は早速サボりまくってるみたいで。 西先輩が部内でフォローしてくれてるみたいですけどね……。 L@INEで泣いてましたよ……周りの子に示しがつかないから何とかしてくれって」
そう言って、はぁと溜息を付く。
「あぁ、西君ね。彼、幕英の顧問なんだ?」
レイラが会話を紡ぐ。
サイゾーは頷き、話を続ける。
「西先輩は中学時代のチカも知ってますからね……。 私情挟ませちゃって申し訳ないけど、兄貴としては色々フォローしてくれて助かってます。 まぁ……今はマトモに学校行ってくれてるだけで御の字ですよ」
そう言いながらも、再びはぁと溜息を付く。
その溜息が周囲に伝播したのか、他の面々からも溜息が漏れた。
「勿体ねぇよなぁ……チカちゃん。 あの才能が世に出ないんじゃ」
普段は人を小馬鹿にしたような口調の糸井が珍しくマトモな口調で呟くと、周りが示し合わせたように同調する。
「マジで取り組んでくれれば、相当イイとこまで行くと思うんだけどなぁ」
「そろそろ心を鬼にして、ウチのサークル出禁にでもするか?」
「いやでもそれで怒ってバスケ辞めちゃったら、尚更オレ達が後悔しねぇか?」
う~ん……と、口々にチカの事を憂う若者たち。
ひとしきり唸った後、全員がエイジの方を見やる。
「何故オレを見るっ!?」
そしてまた、ため息のハーモニーが生み出された。
**********
夜は更け、時刻はもうすぐ日を跨ごうかという頃。
長々と続いたサークルの二次会はお開きとなる。
「ちょっとアンタ達! 何勝手に帰ろうとしてんのよっ! 次行くわよ次っ! 勝手に帰る奴は死刑よっ!」
エイジの腕に抱きつきながら、ぎゃあぎゃあと喚くレイラ。
暴虐な女董卓と化したレイラを見て笑いながら、一行は終電間際の電車へと急ぐ。
「じゃ、あとは頼んだわーエイジ」
「タクシー止めといたから」
「おい!」
そんなレイラとエイジを置いて、他のメンバーはそそくさと退散。
その場にレイラとエイジだけが残された。
「お客さーん、乗らないんですかぁ」
エイジの目の前に停車したタクシー。
その助手席の窓が開き、奥から運転手が、若干イラついた声色でエイジを促す。
「……はぁ」
がくりと、肩を落としたエイジが観念したように自身の腕に縋り付くレイラを抱えた。
「ホラ、帰るぞ、姉ちゃん」
完全に泥酔しきった姉を無理やり後部座席に押し込み、麻木エイジは小さく溜息を付いたのだった。




