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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 2
37/85

035 1 on 1

 

「くっ……!どうしてエイジばっかりっ!」

「それ何てエロゲ?wwww」

 周りからそんな声が聞こえる。


「ヤりたいとか……い、今の女子高生はやっぱ積極的なんだな……マジで」

 エイジさんが心から引いた顔をしている。


 やるって……?……あぁぁぁぁぁぁあ!


「ち、違うんです!やるってのは一対一(1 on 1)の事で……っ!」


 自分の言い間違いに気付き、慌てて否定する私。

 エイジさんと周囲を交互に見ながら、ぶんぶんと両手を振る。


 ちらりと見えたチカさんが、めちゃくちゃ怖い顔してた気がするが、それどころじゃない。


 そんな私を見て、くっくっくと笑いを堪えるそぶりをみせるエイジさん。


「すまんすまん、皆からかってるだけだから。気にすんな」

 そう言って、持っていたボールを私に手渡した。


「あんま時間取るワケに行かないから、攻守交互で2本先取な」

「っ!ハイッ!」


 そうして、一対一(1 on 1)を受けてもらった。




 先攻は私。

 ゆっくりとドリブルを開始すると、合わせてエイジさんが深く腰を落とした。


 レッグスルーを織り交ぜながら、相手を細かいステップで揺さぶる。

 エイジさんもそれに応じて細かくポジションを調整。

 一定の間合いを取り続けてくる。


 隙がない。

 強引に行くか。


 意を決し、踏み込む。

 ぐっと距離を詰めた私の右肩が、エイジさんの胸にぶつかる。

 押し込むようにそのまま左から突っ込む。


 エイジさんが後退しながらピタリとついてくる。


 左から行くと見せかけ、くるりとターン。


「げっ!」

 エイジさんが、小さく声を出す。


 ボールを右手に持ち、ゴールへ向かってふわりと投げる。

 エイジさんが出したブロックの手を超え、ボールがリングを捉えた。


「「ヒューッ!!」」

 周りで見ていた人たちが歓声をくれる。


「普通にやられてんじゃねーかっ!」

 エイジさんにはそんなヤジが飛ぶ。


「右手でも打てるんか……」

 エイジさんがそんな感想を漏らした。

 良く見てくれてる。

 さっきのゲームで、私が左利きなのを確認していたのだろう。


 攻守交替。

 今度はエイジさんの攻撃だ。


 私と同じように、エイジさんがゆっくりとドリブルを開始。

 腰を落とし、構える。


 レッグスルーを織り交ぜ、一点に私を真っすぐ見つめてくる。

 視線は私を見据えながらも、手元では淀みなく多彩なドリブルワークが披露される。


 じり、じりと、一定の間合いを取り続ける。


 一瞬の静寂。

 そして。


 エイジさんが一気に、踏み込んでくる。

 右から抜きにかかるエイジさんに、遅れずに対応。

 後退しながら進路を阻む。

 胸元にエイジさんの肩が触れ――――。


 その瞬間。


 くるりとターン。


 ボールを持ち替えたエイジさんの左手から、ふわりとボールが放たれる。


「っぅ!」

 この人……っ! 私と同じ真似をっ……!


 慌てて高く手を伸ばすが、届かない。

 バサリとネット音を響かせ、ボールが落下した。


 まるで鏡写しのように。

 お前に出来ることは、オレにも出来るんだぞ、と。

 あからさまにアピールするかのように。


 私が見せたプレーを、左右逆にして再現されたのだ。


「エイジー! 大人げねぇぞー!」

 外野からは、笑い交じりにそんなヤジが飛ぶ。


 その通りだよマジで。

 わざわざ同じプレーで返してくるなんて……この人、以外と好戦的だ。


 エイジさんがボールを拾い、私にパス。

 ボールを受けとった両掌に、熱がこもる。



 今度は私の番だ。


 エイジさんと対峙。

 右、左とドリブルで揺さぶりながら、機を伺うがエイジさんはまったく崩れない。


 一旦、距離を取る。

 エイジさんが前に出て、私との間合いを詰めた。


 その瞬間、ギアチェンジ。

 右から強引に抜きにかかる。


 完全に一歩前に出た。


 そのままレイアップシュートを放つ。

 ……しかし。


 私の右手から放たれたボールを、背後から伸びてきたエイジさんの右手がバシンッ!と、弾く。


「あぁ!」

 思わず、声が出る。

 完全に抜き去ったと思ったのに、シュートはブロックで阻止されてしまった。


 攻守が替わり、エイジさんボールに。


 さっきと同じように、エイジさんがゆっくりとドリブルを開始。

 身構え、隙を伺う。


 そんな私を挑発するかのように、目の前では曲芸のようなドリブルワークが披露される。

 目まぐるしく動き、細かくフロアを鳴らすボール。

 リズムを奏でながら、ボールが私の前に晒される。


 取りに来いよ。

 そう私を誘惑するように晒されたボールに、私が食いつく。


 ボールを奪おうと手を出した瞬間、その手をすり抜けるかのようにボールを左手から右手へ持ち替え、右からドライブ。

 慌てて反応し、バックステップでその動きについていく。


 その私の動きを見透かしたようにエイジさんが急ブレーキ。


「っ!」


 勢い余った私は止まれず、その場で尻餅をついた。


 悠々と状態を起こしたエイジさんが、フリーでシュート。

 綺麗な摩擦音を響かせ、ネットを揺らした。


 ブーブー!と、外野からブーイングが聞こえる。


  「ナイスファイト」

 そんな野次の中、手を差し伸べてくれたエイジさんの手を掴み、起き上がる。


  完敗。

  単純な男女差とは認めたくないけど、一枚も二枚も向こうが上手だった。


  「しっかしまぁ、アンタといいチカといい、最近の女子は上手いな」

 そう言って笑うエイジさん。


  「あ、いえ……完敗、でした」

  正直にそう答える。


  悔しさが表情に出ていたのかもしれない。

 エイジさんの笑顔が苦笑いに変わった。


  「まぁ、また時間があったらやろうぜ」


  試合再開するから。

 そう言ってエイジさんが私を促す。


 ぶっちゃけ、もしかしたら勝てるかも……とか思ってたけど、身の程知らずだったらしい。

 何回やっても勝てる気しないわ……くそぅ。


  気落ちしてコート外に出ると、チカさんが私の目の前に立っていた。


 え?

 何か怒ってる?


  目が怖い。

 ちょっと前までは優しいお姉さんだったのに……。

 柔和な表情は一体どこへ。


 そんなチカさんが、ゆっくりした歩みで私の元へと近寄ってきた。

 そして、私の右肩に手を掛けて耳元で囁く。


  「あんまり、エージ君を困らせちゃだめだよ……?」


 ゾクリ、と背筋に悪寒が走る。


  え、何やだ、怖い……。

 チカさんの突然の豹変に呆然としていると、サイゾーさんが呼びかけた。


  「次、エイジのチームで出たい奴いるー?」


  4人編成のサイゾーさんチームは、毎回抜け番のチームから一人助っ人を補充する。


  「はーい!私出たーい!」

  一転してコロっと表情を変えたチカさんが、サイゾーさんに近づきながら両手を上げて立候補する。


  「なんだよ、チカかよ」

  「えー何よ?いいでしょ?」


 そんなやりとりをしながら、サイゾーさんと並んでコート内へと入っていく。

 チラリと、チカさんが私に目線を向け、くすりと笑った。


 うーん……何かよく分からんけど目の敵にされてる……!?


 どうやら、どこかでチカさんのご機嫌を損ねてしまったっぽい。

  怖いなぁ……。

 チカさんには、私がエイジさんに絡んだように見えたのかな?

 そんなつもりは無かったんだけど。



 センターサークルを囲むように人が集まる。

  次はイト君さんチームとサイゾーさんチームの対戦だ。


  「んじゃ、はじめるか」


  頭にタオルを巻いたエイジさんが、ボールを持ってセンターサークルに立つ。

  審判をやってくれるらしい。


  「はーい!私ジャンパーやりたい!」


 ここでもチカさんが立候補。


  初対面の時、つまり施設の入り口で迎えられた時は大人な雰囲気な人だと思ってたけど、今は大分印象が異なる。

  無邪気というか、どことなく子供っぽい。


  「楓ちゃん、やろーよ」

 サークル内に立ったチカさんが、不敵な笑みを浮かべながら私を誘う。

 とことん私に突っかかりたいようだ。


 そこまであからさまに絡まれると、さすがの私も怖さを超えてイラつきを覚える。何なん?この人。


 その誘いに視線で応え、無言でサークル内に進み出る。


  変な空気を察したのか、エイジさんが苦笑いを浮かべた。


 そのエイジさんを挟み、チカさんと対峙。


  身長は多分、私の方が少しだけ高い。

 ただ、目線はほとんど同じだ。


 お互いの視線がぶつかる。


  「んじゃ、開始な」

  気怠そうにそう宣言したエイジさんが、垂直にボールが投げ上げる。


  高く上がったボール目掛けて、私とチカさんが同時にジャンプ。

  目一杯に手を伸ばす。


  先にボールに触れたのは、チカさんだった。


  嘘!?負けたっ?

 タイミングは悪くなかったハズなのに。


 ジャンプ力にはそこそこ自信がある。

  少なくとも女子で自分と同じか、より背の低い人にはジャンプボールで負けたこと無かったのに。


 チカさんがタップしたボールを、サイゾーさんチームの人が受ける。


  「パス!」


  着地するや、ボールを要求しながらチカさんが駆け出す。

  要求通り、チカさんにパスが出る。


 ワンテンポ遅れて、チカさんを追う。

 ボールを受けたチカさんの進行方向に立つが――。


 すぐにドライブで仕掛けてきた。


  強引なっ!


  低い体勢で右から抜きにかかる。

 そのドライブを対面で受け止めにいく。

 ギリギリのところで、進路を防いだと思った瞬間――。


 くるりとターン。

  一転してボールを左手に持ち替え、身体を起こす。

 その動きに必死に食らいつくが、わずかに反応が遅れた。


  淀みない動作から、左手に持つボールがリングに向けて放たれる。


 それはついさっき、私とエイジさんが一対一で見せたプレー。

 まるで、自分にもそれくらい出来ると主張するかのように。


 かあっと脳が熱くなる。

 こんなトコでも張り合ってくんのかよっ!?


  咄嗟に左手を目一杯伸ばし、ブロックを試みたが届かない。


  私の手を無事に超えたボールが、リングを捉えた。


 ゴールを決めたチカさんがクスっと笑う。

 そしてそのまま自陣のコートに戻らず、私の前に立ちはだかった。


 上等だ。

 売られたケンカは買う。

 茅森の血筋は、やられたらやりかえすのが鉄の掟だ。


「ボールください!」

 食い気味にボールを要求。

 チカさんを睨み、早速ドリブルで突っかける。


 後退しながら、チカさんが応戦。

 今までの彼女とはまったく異なる、本気のディフェンス。

 私からボールを奪おうと身体を激しく寄せてくる。


 負けるか!



「……おーいwwww、お嬢さん達ぃ……オレらも居るんだよぉ……?wwww」


 イト君さんが何か言っていたが、もはや耳に入らないくらい頭に血が上っていた。



プチ解説コーナー!


レッグスルー

自分の股下でボールをバウンドさせて通すドリブルテクニック。試合中もよく使われます。

体育の成績が1とか2の人は出来た時めっちゃ嬉しい。

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