027 朝焼けのロックンロール
五月病、というのがあるらしい。
四月に新しい生活をスタートさせた新入生や新社会人が、その新しい環境にうまく馴染めず、はたまたその生活への不安から一時的に解放されるゴールデンウィークという長期休みを挟むことで、その休み明けに、溜まった疲れや精神的なダメージが一気に爆発。
その結果、身体や心に不調を起こす……というような症状だったはず。
これ、あまりにも報われない病すぎません?
私みたいなメンタル弱者のコミュ症にとって、環境の変化は死活問題。
まして私たち高校生にとって、出だしは特に重要だ。
四月にスタートダッシュを決め損ねると、取り返しのつかない三年間を過ごす可能性もあるわけです。
具体的にはぼっちとか。
いや別にぼっちは悪くないけど。
そんなワケで気を張って頑張って、やっとこさ乗り越えた四月の先に、五月病とかいう訳わからない病に陥るとか……酷くない?
頑張った人に対する仕打ちがそれかよって。
頑張ったんだからもっとハイな気分にさせてよ。
まぁ五月じゃなくても、毎週月曜日に似たような症状に陥ることはありますよね。
あぁ……学校行きたくねぇ……爆破してぇ……みたいな。
張り切ってローになって爆破して灰になる。
そんなゴールデンウィーク明けの月曜日。
スマホのアラームと共に目を覚ました私。
ぶっちゃけ絶好調である。
学校?
楽しみで仕方ないですね!
ベットから勢いよく飛び出して、自室からリビングへ。
ドアを開けると、いつものように愛猫のカリーが私の足に体を擦り付けてきた。
「おはよ、カリー♪」
愛猫のカリーが「みゃぁ」と、返事をしながら前足を私の足に絡ませる。
いつもの朝ご飯の催促。
猫大好きマグロ缶の置いてあるキッチンへ向かい、戸棚からマグロ缶を手に取る。
パキッっと蓋を開ける音がすると、カリーがパタパタと尻尾を床に叩きつけるように動かした。
時刻は五時。
母も弟の颯太もまだ夢の中。
マグロ缶の中身をカリー用の器に移して床に置く。
待ってましたとばかりにカリーがハフハフと食べだした。
冷蔵庫を開けて、麦茶を取り出す。
コップに麦茶を半分ほど注ぎ、ぐいっと飲み干した後、一度自室に戻って着替える。
上はTシャツ、下はスポーツ用レギンスとハーフパンツ。
耳にはワイヤレスのイヤホンを装着。
小銭入れとカードキー、スマホを持ち、向かう先は玄関。
ランニングシューズを履き、そのドアを開けた。
エレベーターは使わず、階段で地上階へ。
マンションから外に出ると、冷ややかな風が頬を打つ。
日中はだいぶ暖かいこの時期も、朝はまだ少し肌寒い。
顔を出したばかりの太陽が、オレンジ混じりに辺りを照らす。
朝のランニング。
体力不足を感じて始めた日課だ。
スマホをいじって、曲を流す。
最近、友達からオススメされたアーティストの曲だ。
何でも、最近人気のある男性アーティストらしい。
ジャンルで言えば、ロックンロールというやつだろうか。
音楽に疎く、あまり音楽を聴くこともなかった私だけど、マイブームといっていいほどハマっている。
ここまで耳に馴染んだのは、この朝のランニングのお蔭かもしれない。
心地よい音楽が、外界の音を遮断する。
たったそれだけで、見慣れた景色が、まるで映画のワンシーンかのように思えるから不思議だ。
そして私は走り出す。
耳から伝う音、初期衝動が、私の心と足を突き動かした。




