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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 1
26/85

025 エピローグ

茅森 楓視点

 

 限界を迎えた両足がイメージ通りに動かず、私は前のめりに倒れてしまう。

 その瞬間、モノクロだった私の視界には色彩が戻る。



 コートの床に這いつくばる私。

 その手から、ボールがこぼれていく。

 跳ねながら、私から遠ざかっていくボール。

 その行方を追う私の視界を、真っ白なバスケットシューズが遮った。



 視線を上げた先に、濃紺のユニフォームを着た背中が映る。

 11番と書かれた背番号。

 見慣れたポニーテールの髪型。


 転がるボールを拾い、ドリブルを始める選手。

 遠くなる背中がボールを突くたび、その振動が床を伝って私の手のひらに響いた。


「行けぇ! 千春!」


 その背中に向かって叫ぶ。


 ゴール前に位置を取っていたディフェンスの選手が、千春との距離を詰めにかかる。


 それを見て、千春がドリブルを止め、シュート体勢に移行する。


 両手にボールを構え、迷いなくシュートを放った。


 ディフェンスの選手が、目一杯にブロックの手を伸ばす。


 そのブロックを間一髪で超えたシュートが、放物線を描き、リングに向かっていく。


 ――入れ。


 ただ、祈るような気持ちでその軌道を追っていた。



 ガンッ!


 ボールが、リングを叩き揺らす。


 リングに弾かれたボールが宙を彷徨い、誰もいない場所に落ちて高く跳ねた。



 ビ―――――ッ。


 一際長いブザー音が鳴る。


 試合終了。

 練習試合、最後のセットが終わった。


 スコアは33ー33。


 千春は、シュートを放ったその場に立ちつくし、天を仰いでいる。


「……同点、か……」


 そんな千春を見つめながら呟く。


「よっ……とっとっわわわ!」

 立ち上がろうとしてバランスを崩す。


 相当に足にきている。

 今まで自覚していなかったダメージが一気に押し寄せてきた感じだ。


 尚も立ち上がろうと、コートの上で四苦八苦する私の視界に、再び真っ白なシューズが映る。

 顔を上げた私の元に、手が差し伸べられた。


「……お疲れ……っと!」

 その手を取り、力を込めて立ち上がる。


「……ゴメン、外しちゃった」

 第一声は謝罪。

 繋いだ手のひらが熱い。


「……ううん。 しょうがない、さ」

 そう返して、彼女の肩に手を回す。


 センターサークルを挟んで、両チームの選手が並び始めている。


 千春の肩を借りながら、ゆっくりとその並びに加わる。


「「ありがとうございましたっ」」


 整列。

 そして明青の選手と挨拶を交わす。


 挨拶後、はじめに私たちの元に来たのは藤代瑠雨だった。


「……練習不足」


 それだけ言い捨て、瑠雨はぷいっと背中を向けて自軍ベンチへ引き上げていく。


 相変わらず、キャラのぶれない奴だ。

 千春と顔を見合わせ、笑った。


 瑠雨と変わる様に歩み寄ってきたのは、二宮二葉、ニコさんだった。


「いやぁぁ、まさか同点とはなぁちくしょう。せっかく試合出たのにあんま役に立たなかった感じ? 意味ねーわ」


 そう言って千春に右手、私に左手を差し出す。

 ダブルシェイクハンドしながら笑うニコさんに、千春が返した。


「いえ……ニコさんはやっぱり凄かったです。 あたしは……何も出来ませんでした」

 試合中、特にディフェンス時にはニコさんのプレッシャーに晒された千春だからこそ、その凄さを肌で感じたのだろう。


 千春の言葉に、ニコさんがうんうんと頷いた。


「ま、千春は精進するこったな! んじゃ!」


 そう言うと、私たちの手を離し、くるりと背を向ける。


「あ!」


 背を向けたのもつかの間、わざとらしい声を上げて向き直ったニコさんが私に近づく。

 そして、私の耳元に手を添えた。


「……このチームでバスケを続けるなら、お前は必ず後悔するぜ。 ……人を育てるのは環境だ。 そこんとこ、よく覚えとけよ。 楓」


 耳元で囁き、今度こそ自軍ベンチへと引き上げていく。


 ……あの人のキャラもぶれないな。


「……戻るか」

「うん」


 千春の肩を借りながら、ベンチへと戻る。


「…………千春」


「うん?」

 私の呼びかけに、千春が応える。


「……バスケって、面白いな」


「ぶはっ、今言う? それ」


 そう言って笑う千春。



 ――ありがとう。



 心地よい疲労感に揺られながら。


 最大級の手のひら返しで。


 私は、千春に感謝を告げた。





 **********


 月曜日。

 週明けの教室。


 終業を告げるチャイムが鳴る。


「あー痛たたた……」


 私は筋肉痛と闘っていた。

 両足、両腕に留まらず、首、背中、腹筋まで痛い。


 これでもだいぶマシになった方だ。

 昨日はもっとヤバくて、一日中ベットの上で要介護状態だった。


 わずかに身体を動かすだけで、ピキピキと電撃が走る為、座って姿勢を保つのも辛い。


 一日この痛みと格闘した疲労も重なって、ぐでりと机に突っ伏した。


「大丈夫? 楓ちゃん」


 そんな私に声を掛けてきたのは、同じクラスの峰藤咲希。

 最近、仲良くなった友達だ。


「……ダメかも。この席から離れる事すら今のは私には苦行だよ……」


 顔だけ横向きにして、咲希ちゃんへ言葉を返す私。

 本当に辛いんだよ。


「おーい、楓」


 そんな私の背後から、馴染みの声。


「なんだよー」

 顔も向けず、呼びかけるに返事する。


「うわぁ、やる気ねぇなー。 放課後くらいシャキッとしなさいよ」

 そう言って、ガツガツと私の席を蹴る衝撃が伝わる。

 やめろ! 揺らすな!


「で、例のやつは書いてきたんか?」

 そんな問いかけ。


 返事を返さず、顔を机に突っ伏したまま、ゴソゴソと

 机の中を漁る。


「ん」


 くしゃくしゃになった紙を取り出すと、右手でその紙を掲げた。


「どれどれ……よしよし、ちゃんと書けてるじゃないか。 偉い偉い」


 その紙を私の手から取り上げ、バシバシと私の背中を叩く。

 だから揺らすんじゃない!


「で? どーする? 辛いんなら私が代わりに出しとくけど?」

 そう尋ねる声。


 私は突っ伏していた姿勢から起き上がり、背もたれに手をかけながら半身に座り直す。

 そして、後ろの席の人物に顔を向けた。


「……いや、自分で出しに行くよ。 ……一応、練習見たいし」

「うしし、そーかそーか。 ホレ」


 千春が、私の手から取り上げた紙を私に返してくる。

 その紙を受け取り、目を通す。


 入部届


 私は、【女子バスケットボール部】に入部することを希望致します。


 学年 :【1】年【C】組

 氏名 :【茅森 楓】



 記入欄に、そう書かれた紙をポケットにしまい、立ち上がる。


「うっし、じゃあ、行きますか」


「うん」



 国府台昴高等学校、女子バスケットボール部。

 昨年、出来たばかりのこのチームで。


 今日から。

 私のバスケがスタートする。




一章締めです。

駄文ですが、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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