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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 1
22/85

021 楓

短いです。

 

 ボールがネットを通り、心地よい音が響いた。


「しゃあ!」

 拳を握りしめる。


 25-30。


 私の3ポイントシュートがリングを捉え、再び5点差。


 ここでブザーが鳴る。


 明青がタイムアウトを請求。


 ブザーを合図に、コート上選手たちが、次々にベンチへと引き下がる。


 味方の背中を追うように、ゆっくりとベンチに向かって歩き出した。


 試合が中断した途端、鼓動が身体中に鳴り響く。


 まるで両足に鉛でも付けたように、一歩一歩の足取りが重い。

 両腕は重力に引っ張られ、だらりと下がる。

 肺は酸素を求めて呼吸を乱し、息を吸う度に胸が熱くなった。


 スタミナの残量が枯渇しかけている。


 考えてみれば当然。

 去年の夏から今日まで、ほとんど運動らしい運動もしていなかったんだ。


 にも関わらず、ここまで激しく動けば、身体は悲鳴を上げて当然。


 ……ちょっと、張り切りすぎたかも。


 それにしても、ここまで体力が落ちてるとは思わなかったなぁ。

 ブランクって怖い。


 明日からまた、ランニングでもしようかな。


 それでも、頭は興奮したままだ。


 身体中のパーツが私に警鐘を鳴らし、休め休めと催促してくる。

 なのに頭の中は、早く早くと試合の続きを求める。


 ボールに触れたい。

 ドリブルしたい。

 シュートを打ちたい。

 ネットを擦り上げる、あの心地よい音を聞きたい。



 ベンチに戻っても私は椅子に座らなかった。

 一度座ってしまうと、二度と立てなくなるような気がして怖いのだ。


 誰かから渡されたドリンクを、思うように動かない左手を必死に動かして口元へ運ぶ。

 そして一気に口の中へと流し込んだ。


 ベンチでは千春を中心に作戦が話し合われている。

 話が聞こえていないわけでも、理解出来ないわけでもないけれど、

 耳に入ってくる言葉は頭の中で次々に消えていく。


 ボールを奪って、走って、飛んで、身体が動かなくなるまで力を振り絞る。

 そうやって点を取る。点を取って、取って、取りまくる。

 そんで……あれ? それでどうなるんだっけ?


 点をいっぱい取った先に、何が待っているんだっけ。


 かえで。


 誰かが私の名前を呼ぶ。


「楓!」

「っふぇ?」

「っ……ちょっと……、大丈夫?」


 気が付くと、千春が心配そうに私を見つめる。

 千春だけじゃない。

 みんなが私を見ていた。


「……オイ、そいつ、限界じゃねぇのか?」


 誰かがそんな事を言う。やめて。


「楓……大丈夫か? 無理なら交代するか?」


 誰かがそんな事を言う。やめてよ、私はまだこんなもんじゃない。


「いえ……、大丈夫っ……です。 代えないで下さい」

 お願いだから、代えないでください。


 再びブザーが鳴り、タイムアウトの終了を告げる。

 さぁ、待ちに待った試合の続きだ。


 楽しい時間がまた始まる。


 私は、バスケが好きだ。



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