021 楓
短いです。
ボールがネットを通り、心地よい音が響いた。
「しゃあ!」
拳を握りしめる。
25-30。
私の3ポイントシュートがリングを捉え、再び5点差。
ここでブザーが鳴る。
明青がタイムアウトを請求。
ブザーを合図に、コート上選手たちが、次々にベンチへと引き下がる。
味方の背中を追うように、ゆっくりとベンチに向かって歩き出した。
試合が中断した途端、鼓動が身体中に鳴り響く。
まるで両足に鉛でも付けたように、一歩一歩の足取りが重い。
両腕は重力に引っ張られ、だらりと下がる。
肺は酸素を求めて呼吸を乱し、息を吸う度に胸が熱くなった。
スタミナの残量が枯渇しかけている。
考えてみれば当然。
去年の夏から今日まで、ほとんど運動らしい運動もしていなかったんだ。
にも関わらず、ここまで激しく動けば、身体は悲鳴を上げて当然。
……ちょっと、張り切りすぎたかも。
それにしても、ここまで体力が落ちてるとは思わなかったなぁ。
ブランクって怖い。
明日からまた、ランニングでもしようかな。
それでも、頭は興奮したままだ。
身体中のパーツが私に警鐘を鳴らし、休め休めと催促してくる。
なのに頭の中は、早く早くと試合の続きを求める。
ボールに触れたい。
ドリブルしたい。
シュートを打ちたい。
ネットを擦り上げる、あの心地よい音を聞きたい。
ベンチに戻っても私は椅子に座らなかった。
一度座ってしまうと、二度と立てなくなるような気がして怖いのだ。
誰かから渡されたドリンクを、思うように動かない左手を必死に動かして口元へ運ぶ。
そして一気に口の中へと流し込んだ。
ベンチでは千春を中心に作戦が話し合われている。
話が聞こえていないわけでも、理解出来ないわけでもないけれど、
耳に入ってくる言葉は頭の中で次々に消えていく。
ボールを奪って、走って、飛んで、身体が動かなくなるまで力を振り絞る。
そうやって点を取る。点を取って、取って、取りまくる。
そんで……あれ? それでどうなるんだっけ?
点をいっぱい取った先に、何が待っているんだっけ。
かえで。
誰かが私の名前を呼ぶ。
「楓!」
「っふぇ?」
「っ……ちょっと……、大丈夫?」
気が付くと、千春が心配そうに私を見つめる。
千春だけじゃない。
みんなが私を見ていた。
「……オイ、そいつ、限界じゃねぇのか?」
誰かがそんな事を言う。やめて。
「楓……大丈夫か? 無理なら交代するか?」
誰かがそんな事を言う。やめてよ、私はまだこんなもんじゃない。
「いえ……、大丈夫っ……です。 代えないで下さい」
お願いだから、代えないでください。
再びブザーが鳴り、タイムアウトの終了を告げる。
さぁ、待ちに待った試合の続きだ。
楽しい時間がまた始まる。
私は、バスケが好きだ。




