017 攻防戦
試合描写が分かりにくくてスミマセン……。
ジャンプボールを制したのは明青。
明青が確保したボールは、二宮二葉、ニコさんへと渡る。
ニコさんが大きな声で指示を出すと、明青の選手たちがそれぞれポジションを取った。
それに対して、すばるはマンツーマンで対応。
ボールを持つニコさんには千春、アウトサイドにポジションを取った藤代瑠雨には姉の千秋が付く。
私は前の試合と同じく20番、インサイドの二人は中村さんと安藤さんがそれぞれ見る。
今回、明青のメンバーは軒並み身長が高い。
インサイドに180以上の選手が二人居るのに加え、瑠雨と20番の人も多分私と同じくらいの身長だから170は超えている。ポイントガードのニコさんも160後半だ。
ウチのチームでは安藤さんが180近いし、中村さんも170半ばはあると思うので、インサイドの高さではそれほど見劣りしない。
ただ、櫛引姉妹が160前後で、特に千秋と瑠雨のマッチアップには10センチ以上の身長差がある。
高さのミスマッチを突かれると、苦しくなる可能性がある。
ドリブルをしながら、きょろきょろと周囲を確認するニコさんが、右サイドへボールを展開。
30番を付けた選手、藤代瑠雨が胸より高い位置でそのパスを受けた。
千秋がハンズアップして瑠雨に正対。
シュートは打たせまいと前がかりにプレッシャーをかけにいく。
その動きを見て、瑠雨が仕掛け、左からのドリブルで抜きにかかる。
重心が前がかりになっていた千秋の対応が遅れ、中央のゾーンへ侵入を許す。
瑠雨に対して、安藤さんがヘルプへ向かう。
遅れて追う千秋と二人で挟む格好だ。
「ルゥー!」
その瞬間、ニコさんが大きな声でボールを要求。
逆サイド、3ポイントラインで待つニコさんへ中距離のパスが飛ぶ。
そのパスを見て、千春がボールをカットしにいく。
近くでは中村さんがシュートを警戒してポジションを取る。
ニコさんはボールを迎えにいくように前に出ながら、首を振って周りを確認。
千春からすれば取れそうで取れない位置。
中村さんからすればヘルプにいくか迷う位置でボールを受けられる。
パスを受けるポジショニングで、二人まとめて無力化されてしまった。
「ほいっ」
余裕を持ってボールを受けたニコさんは、ワンタッチで中央の狭いスペースへ優しいバウンドパス。
思考する暇さえ与えられず、ディフェンス陣は棒立ち状態に陥る。
パスに反応したのは32番の選手、石黒ソフィア。
ゴール下でフリーになった彼女がボールを受けた。
体を広く使ってエリアを確保すると、そのままシュート。
先制点を決められる。
「良いよ! ナイッシュー!」
シュートを決めたソフィアを讃えるニコさん。
「はい集中! ディフェンス! サボんなよー!」
守備意識を締める明青陣に、ニコさんが細かい指示を伝えている。
ニコさんの声は良く通り、指示が明確で聞きとりやすい。
迷いなく自分の意図を伝えられる能力は地味だけど希少で、少なくとも私には欠ける要素だ。
ニコさんの指示が周りに安心感を生んでいるのが伝わる。
味方の選手からすれば、これほど頼りになるガードはいないだろう。
ニコさんを称賛してばかりもいられない。
すばる高の攻撃、ボールを運ぶのは千春。
明青はトップにガードの二人、ペイントエリア両脇に二人、エリア内に一人が構える。
インサイドをガッチリ締める、オーソドックスなゾーンディフェンス布陣に見える。
まずは千春から千秋へ、アウトサイドでパスを回す。
明青のガード二人は強く当たりには来ない。
それを見て、パス交換に混ざりにいく。
左サイドの千秋から再び中央の千春、そして千春から右サイドの私へパス。
「行って来い! ルゥ!」
ニコさんから号令が飛ぶ。
ボールを受けた瞬間、プレッシャーをかけにきた明青の選手と対峙。
「楓! やっちゃえ!」
負けじと、千春の声が飛ぶ。
藤代瑠雨。
お互いの視線がぶつかり合う。
――久しぶり、元気そうで何より。
重心を低く落としドリブルを開始。
右、左と交互にボールをつきながらタイミングを取る。
右、左、右――左からドライブを仕掛ける。
「「――ちっ!」」
私が舌打ちすると同時に、瑠雨からも舌打ちが聞こえる。
簡単にはやらせてくれない。
抜ききれず、右サイド奥へ流れていく。
「茅森!」
ポストに入った安藤さんから声がかかる。
「抑えろソフィ!」
ニコさんの激が飛び、ボールを受けた安藤さんにターンさせまいとする厳しいディフェンス。
「もっかい!」
オフザボールの動き。
進路を変えてリターンパスを求める。
ほとんど手渡しに近い形でボールを受けるが、ゴール前のスペースは無い。
「楓!」
大外、3ポイントラインの前で待ち構える千秋の姿が見える。
左腕を思いっきり振ってパス。フリーで千秋がボールを受けた。
「打たせていいぞ!」
そんな声の中、千秋がシュート。
「「リバウンド!」」
両チームの選手の声が重なる。
シュートはわずかに右に逸れ、リングに弾かれる。
リバウンドはゴール下を固める27番がキープ。
「寄こせ!」
フォローに寄ったニコさんにボールが渡る。
シュートを打った後の流れで、千秋がプレスをかけにいくが、流石のハンドリングで躱された。
「よーしよし、落ち着けお前たち~!」
ボールをキープし、スローダウン。
明青の選手たちがフロントコートへ入るのを見ながら、悠々とボールを運ぶ。
ハーフコートで両チームが見合うと、先ほどと同じく、ボールを右サイドに展開。
そこで待つ瑠雨の元へボールが渡った。
「スクリーン!」
ニコさんからの指示が飛び、明青がスクリーンをセット。
そのタイミングで瑠雨がドライブ。
スクリーンをかけたソフィアも反転してフォロー。
ピックアンドロールと言われる連携でこちらのディフェンスを攪乱してくる。
その動きで、ペイントエリア内で一時的に安藤さんが一対二の状況に晒された。
瑠雨は並走するソフィアにパス。
ボールを受けて、ソフィアがシュート。しかし――
「んなっ!?」
鈍い炸裂音が響く。
シュートは安藤さんがブロック。
まさに超反応で失点を阻止。
「ナイスたま!」
中村さんが安藤さんを労う。
それでも、明青ボールの攻撃は続く。
スローインから再開。
数度のパスを経由して、ボールが私のマークする20番に入る。
「こっち!」
フォローに来た選手がパスを求めるが、その声は届いてないのか、はたまた無視したのか、すぐにドライブを敢行。私を抜きにかかる。
悪いけど、コイツにはもうやられる気がしない。
中央へ切り返すコースを切りながら対応。
進路を限定しつつ、ファウルにならないように、スペースの狭い方へと追い込んでいく。
「っ……!」
「バカ! 一旦戻せ!」
ニコさんから罵声が飛ぶ。
袋小路に追い込まれた20番は、秒にも追われ、角度のない位置から苦しまぎれのシュートを放つ。
精度を欠いたシュートはリングを捉える事すら出来ず、バックボードに当たって跳ねた。
ショットクロックが切れ、24秒バイオレーションが成立。
すばるボールになる。
「何ムキになってんだ! 冷静になれバカちん!」
「……っ、すいません!」
ニコさんに叱責された20番が、悔しげな表情を見せながら横目で私を睨む。
……なんか目の敵にされてる……?
攻守が切り替わって、すばる側の攻撃。
ハーフコートで守る明青は、先ほどと変わらず中を固めるゾーンディフェンス。
ただ、ゾーンで守りながらも私にだけは瑠雨がマンツーマンでついてくる。
これが非常に鬱陶しい。
ゾーンの間でボールを受けようとしても瑠雨が付いてくる。
欲しいタイミングでボールが受けられない。
その変わり、アウトサイドでは比較的楽にボールを持てる。
いや、持たされている。
私は巧妙に試合から消され、中はガチガチに固められ、いたずらにショットクロックが進行。
結局手詰まりになり、千秋が外からシュートを打たされる。
リングに嫌われたリバウンドは、明青が確実にキープ。
点の取れない、重苦しい展開。
明青の攻撃。
ボールは三度、瑠雨のところへ。
千秋との高さのミスマッチを生かし、瑠雨を起点に攻めるという意図が見える。
アウドサイドでボールを受けた瑠雨が、ドリブルで千秋を揺さぶる。
ドライブを警戒した千秋が、思わず瑠雨と距離を取った。
――まずい!
これまでの瑠雨のプレーが、千秋の脳裏に焼き付いてしまっているのだろう。
シュートを警戒して近づけばドライブ、ドライブを警戒して距離を取ってしまえばシュート。
要は完全に翻弄されている。
千秋との距離が離れたのを見て、瑠雨がシュート体勢に移行。
そしてシュートを放つ。
これが決まってしまう。
0-5。
瑠雨の確変状態は3セット目も健在。
「先生!」
ベンチに座る顧問の先生をジェスチャー付きで呼ぶ。本来は私が求めるべきじゃないけど、このまま放っておくと一方的な展開になりかねない。
「タイムアウト」
それを見た先生が頷き、審判にタイムアウトを申告。
要求は受理され、試合は一時中断。
両者の取り決めで、前後半ニ回づつ認められたタイムアウトを、早々に使う。
「ゴメン……」
ベンチに戻って開口一番、千秋が力無く謝る。
まだ始まったばかりだというのに、汗が凄い。
「……で、どうするのかしら?」
麻木先生が切り出し、私の方を見る。
お前が取ったタイムアウトでしょ?っという事らしい。
先生から何か策が出る事は無いっぽい。
……仕方ない、あんまり時間もないし。
「……まず、私と千秋……先輩のマークを替えてください」
まずは守備。
今の千秋と絶好調の瑠雨では、残念ながら分が悪すぎる。
このままでは千秋のとこからやりたい放題やられる。
「……私なら瑠雨を何とか出来ると思います。千秋先輩は20番のドライブだけケアしてもらえれば、外からのシュートは気にしなくていいと思うので」
「20番がインサイドでボール受けにきたら?」
安藤さんが聞いてくる。千秋からしたら、マーク相手が20番になってもミスマッチな事には変わりない。
「基本は千秋先輩に頑張ってもらうしかないですけど、そこは安藤さんと中村さんでカバーしてもらうしかないかと」
私の意見に中村さんが頷く。
個人的に20番にはあまり脅威を感じない。瑠雨に好き勝手やられるよりは良いと思う。
「それから、攻撃ですけど……」
明青のゾーンディフェンスは、外からの攻撃は許容しつつ、徹底してインサイドを守る狙い。アウトサイドのシュート成功率が低いウチのチームに対して的確な守り方だ。
加えて、私だけへのマンマーク。唯一、どこからでもシュートが決められる私に対しては瑠雨が執拗についてくる。
ゾーン攻略には定石もあるが、その方法を説明する暇も、練習なしで実践するスキルもこのチームにはない。仮に向こうのゾーンディフェンスの完成度が低いとしても、ぶっつけで攻略出来るほど簡単ではない。
というわけで、今取れる戦術はひとつ。
「フロントコートに入ったら、ボールは全部私に下さい」
一点突破。
戦術わたし。
……あれ?どしたの?
みんな、キョトンとした顔してる……。
タイトル修正しました。




