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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 1
18/85

017 攻防戦

試合描写が分かりにくくてスミマセン……。

 

 ジャンプボールを制したのは明青。

 

 明青が確保したボールは、二宮二葉(ふたば)、ニコさんへと渡る。

 ニコさんが大きな声で指示を出すと、明青の選手たちがそれぞれポジションを取った。

 

 それに対して、すばるはマンツーマンで対応。

 

 ボールを持つニコさんには千春、アウトサイドにポジションを取った藤代瑠雨には姉の千秋が付く。

 私は前の試合と同じく20番、インサイドの二人は中村さんと安藤さんがそれぞれ見る。

 

 今回、明青のメンバーは軒並み身長が高い。

 インサイドに180以上の選手が二人居るのに加え、瑠雨と20番の人も多分私と同じくらいの身長だから170は超えている。ポイントガードのニコさんも160後半だ。

 

 ウチのチームでは安藤さんが180近いし、中村さんも170半ばはあると思うので、インサイドの高さではそれほど見劣りしない。

 ただ、櫛引姉妹が160前後で、特に千秋と瑠雨のマッチアップには10センチ以上の身長差がある。

 高さのミスマッチを突かれると、苦しくなる可能性がある。

 

 ドリブルをしながら、きょろきょろと周囲を確認するニコさんが、右サイドへボールを展開。

 30番を付けた選手、藤代瑠雨が胸より高い位置でそのパスを受けた。

 

 千秋がハンズアップして瑠雨に正対。

 シュートは打たせまいと前がかりにプレッシャーをかけにいく。


 その動きを見て、瑠雨が仕掛け、左からのドリブルで抜きにかかる。


 重心が前がかりになっていた千秋の対応が遅れ、中央のゾーンへ侵入を許す。

 

 瑠雨に対して、安藤さんがヘルプへ向かう。

 遅れて追う千秋と二人で挟む格好だ。

 

「ルゥー!」

 

 その瞬間、ニコさんが大きな声でボールを要求。

 逆サイド、3ポイントラインで待つニコさんへ中距離のパスが飛ぶ。

 

 そのパスを見て、千春がボールをカットしにいく。

 近くでは中村さんがシュートを警戒してポジションを取る。


 ニコさんはボールを迎えにいくように前に出ながら、首を振って周りを確認。


 千春からすれば取れそうで取れない位置。

 中村さんからすればヘルプにいくか迷う位置でボールを受けられる。


 パスを受けるポジショニングで、二人まとめて無力化されてしまった。


「ほいっ」


 余裕を持ってボールを受けたニコさんは、ワンタッチで中央の狭いスペースへ優しいバウンドパス。


 思考する暇さえ与えられず、ディフェンス陣は棒立ち状態に陥る。


 パスに反応したのは32番の選手、石黒ソフィア。

 ゴール下でフリーになった彼女がボールを受けた。

 

 体を広く使ってエリアを確保すると、そのままシュート。

 先制点を決められる。


「良いよ! ナイッシュー!」


 シュートを決めたソフィアを讃えるニコさん。


「はい集中! ディフェンス! サボんなよー!」

 守備意識を締める明青陣に、ニコさんが細かい指示を伝えている。


 ニコさんの声は良く通り、指示が明確で聞きとりやすい。


 迷いなく自分の意図を伝えられる能力は地味だけど希少で、少なくとも私には欠ける要素だ。

 ニコさんの指示が周りに安心感を生んでいるのが伝わる。

 味方の選手からすれば、これほど頼りになるガードはいないだろう。


 ニコさんを称賛してばかりもいられない。


 すばる高の攻撃、ボールを運ぶのは千春。

 明青はトップにガードの二人、ペイントエリア両脇に二人、エリア内に一人が構える。

 インサイドをガッチリ締める、オーソドックスなゾーンディフェンス布陣に見える。


 まずは千春から千秋へ、アウトサイドでパスを回す。

 明青のガード二人は強く当たりには来ない。


 それを見て、パス交換に混ざりにいく。

 左サイドの千秋から再び中央の千春、そして千春から右サイドの私へパス。


「行って来い! ルゥ!」

 ニコさんから号令が飛ぶ。


 ボールを受けた瞬間、プレッシャーをかけにきた明青の選手と対峙。


「楓! やっちゃえ!」

 負けじと、千春の声が飛ぶ。


 藤代瑠雨(るう)


 お互いの視線がぶつかり合う。


 ――久しぶり、元気そうで何より。


 重心を低く落としドリブルを開始。

 右、左と交互にボールをつきながらタイミングを取る。


 右、左、右――左からドライブを仕掛ける。


「「――ちっ!」」


 私が舌打ちすると同時に、瑠雨からも舌打ちが聞こえる。

 簡単にはやらせてくれない。

 抜ききれず、右サイド奥へ流れていく。


「茅森!」


 ポストに入った安藤さんから声がかかる。


「抑えろソフィ!」

 ニコさんの激が飛び、ボールを受けた安藤さんにターンさせまいとする厳しいディフェンス。


「もっかい!」


 オフザボールの動き。

 進路を変えてリターンパスを求める。


 ほとんど手渡しに近い形でボールを受けるが、ゴール前のスペースは無い。


「楓!」


 大外、3ポイントラインの前で待ち構える千秋の姿が見える。

 左腕を思いっきり振ってパス。フリーで千秋がボールを受けた。


「打たせていいぞ!」


 そんな声の中、千秋がシュート。


「「リバウンド!」」

 両チームの選手の声が重なる。


 シュートはわずかに右に逸れ、リングに弾かれる。


 リバウンドはゴール下を固める27番がキープ。


「寄こせ!」


 フォローに寄ったニコさんにボールが渡る。


 シュートを打った後の流れで、千秋がプレスをかけにいくが、流石のハンドリングで(かわ)された。


「よーしよし、落ち着けお前たち~!」


 ボールをキープし、スローダウン。

 明青の選手たちがフロントコートへ入るのを見ながら、悠々とボールを運ぶ。


 ハーフコートで両チームが見合うと、先ほどと同じく、ボールを右サイドに展開。

 

 そこで待つ瑠雨の元へボールが渡った。

 

「スクリーン!」


 ニコさんからの指示が飛び、明青がスクリーンをセット。

 そのタイミングで瑠雨がドライブ。


 スクリーンをかけたソフィアも反転してフォロー。

 ピックアンドロールと言われる連携でこちらのディフェンスを攪乱してくる。

 

 その動きで、ペイントエリア内で一時的に安藤さんが一対二の状況に晒された。


 瑠雨は並走するソフィアにパス。

 ボールを受けて、ソフィアがシュート。しかし――

 

「んなっ!?」


 鈍い炸裂音が響く。

 

 シュートは安藤さんがブロック。

 まさに超反応で失点を阻止。

 

「ナイスたま!」

 中村さんが安藤さんを労う。

 

 それでも、明青ボールの攻撃は続く。

 スローインから再開。

 

 数度のパスを経由して、ボールが私のマークする20番に入る。

 

「こっち!」

 

 フォローに来た選手がパスを求めるが、その声は届いてないのか、はたまた無視したのか、すぐにドライブを敢行。私を抜きにかかる。

 

 悪いけど、コイツにはもうやられる気がしない。

 

 中央へ切り返すコースを切りながら対応。

 進路を限定しつつ、ファウルにならないように、スペースの狭い方へと追い込んでいく。

 

「っ……!」

 

「バカ! 一旦戻せ!」

 

 ニコさんから罵声が飛ぶ。

 

 袋小路に追い込まれた20番は、秒にも追われ、角度のない位置から苦しまぎれのシュートを放つ。

 精度を欠いたシュートはリングを捉える事すら出来ず、バックボードに当たって跳ねた。

 

 ショットクロックが切れ、24秒バイオレーションが成立。

 すばるボールになる。

 

「何ムキになってんだ! 冷静になれバカちん!」

「……っ、すいません!」

 

 ニコさんに叱責された20番が、悔しげな表情を見せながら横目で私を睨む。


 ……なんか目の敵にされてる……?


 攻守が切り替わって、すばる側の攻撃。

 

 ハーフコートで守る明青は、先ほどと変わらず中を固めるゾーンディフェンス。

 ただ、ゾーンで守りながらも私にだけは瑠雨がマンツーマンでついてくる。

 

 これが非常に鬱陶しい。

 ゾーンの間でボールを受けようとしても瑠雨が付いてくる。

 欲しいタイミングでボールが受けられない。

 

 その変わり、アウトサイドでは比較的楽にボールを持てる。

 いや、持たされている。

 

 私は巧妙に試合から消され、中はガチガチに固められ、いたずらにショットクロックが進行。

 結局手詰まりになり、千秋が外からシュートを打たされる。

 

 リングに嫌われたリバウンドは、明青が確実にキープ。

 点の取れない、重苦しい展開。

 

 明青の攻撃。

 ボールは三度、瑠雨のところへ。

 

 千秋との高さのミスマッチを生かし、瑠雨を起点に攻めるという意図が見える。

 

 アウドサイドでボールを受けた瑠雨が、ドリブルで千秋を揺さぶる。

 ドライブを警戒した千秋が、思わず瑠雨と距離を取った。

 

 ――まずい!

 

 これまでの瑠雨のプレーが、千秋の脳裏に焼き付いてしまっているのだろう。

 シュートを警戒して近づけばドライブ、ドライブを警戒して距離を取ってしまえばシュート。

 

 要は完全に翻弄されている。

 

 千秋との距離が離れたのを見て、瑠雨がシュート体勢に移行。

 そしてシュートを放つ。

 

 これが決まってしまう。

 0-5。

 

 瑠雨の確変状態は3セット目も健在。

 

「先生!」

 ベンチに座る顧問の先生をジェスチャー付きで呼ぶ。本来は私が求めるべきじゃないけど、このまま放っておくと一方的な展開になりかねない。


「タイムアウト」


 それを見た先生が頷き、審判にタイムアウトを申告。


 要求は受理され、試合は一時中断。

 両者の取り決めで、前後半ニ回づつ認められたタイムアウトを、早々に使う。


「ゴメン……」

 ベンチに戻って開口一番、千秋が力無く謝る。

 まだ始まったばかりだというのに、汗が凄い。


「……で、どうするのかしら?」

 麻木先生が切り出し、私の方を見る。


 お前が取ったタイムアウトでしょ?っという事らしい。

 先生から何か策が出る事は無いっぽい。


 ……仕方ない、あんまり時間もないし。


「……まず、私と千秋……先輩のマークを替えてください」


 まずは守備。

 今の千秋と絶好調の瑠雨では、残念ながら分が悪すぎる。

 このままでは千秋のとこからやりたい放題やられる。


「……私なら瑠雨を何とか出来ると思います。千秋先輩は20番のドライブだけケアしてもらえれば、外からのシュートは気にしなくていいと思うので」


「20番がインサイドでボール受けにきたら?」

 安藤さんが聞いてくる。千秋からしたら、マーク相手が20番になってもミスマッチな事には変わりない。


「基本は千秋先輩に頑張ってもらうしかないですけど、そこは安藤さんと中村さんでカバーしてもらうしかないかと」


 私の意見に中村さんが頷く。

 個人的に20番にはあまり脅威を感じない。瑠雨に好き勝手やられるよりは良いと思う。


「それから、攻撃ですけど……」


 明青のゾーンディフェンスは、外からの攻撃は許容しつつ、徹底してインサイドを守る狙い。アウトサイドのシュート成功率が低いウチのチームに対して的確な守り方だ。

 加えて、私だけへのマンマーク。唯一、どこからでもシュートが決められる私に対しては瑠雨が執拗についてくる。


 ゾーン攻略には定石もあるが、その方法を説明する暇も、練習なしで実践するスキルもこのチームにはない。仮に向こうのゾーンディフェンスの完成度が低いとしても、ぶっつけで攻略出来るほど簡単ではない。


 というわけで、今取れる戦術はひとつ。


「フロントコートに入ったら、ボールは全部私に下さい」


 一点突破。

 戦術わたし。


 ……あれ?どしたの?

 みんな、キョトンとした顔してる……。



タイトル修正しました。

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