014 アゲイン!!
「ドンマイ! 集中しよう!」
キャプテンの中村さんから声を掛けられる。
め、面目ない……。
攻守交代。
明青ボールとなる。
気持ちを切り替えて自分のマークにつく。
私の担当は20番のビブスを付けた選手。
その彼女に近づくと、意外なことに話しかけられた。
「あなたが茅森楓?」
「え、あ、ハイ」
何? 何の確認?
と思いつつも、素直に答える。
身長は私と同じくらいだろうか。
多分、1セット目の前半に出てた選手だ。
名前は分からないが、あのメンバーの中では一番動きが良かったので印象に残っている。
おそらくは外部入学生だろう。
「噂に聞いてどんな選手かと期待してましたが、大したことありませんね」
いきなり、そんな捨て台詞を吐かれる。
うぐ……あんな凡ミスを見られた手前、反論出来ない。
瑠雨か誰かに何か聞いたんだろうか……期待に応えられず、すいません……。
弱気になってはいけない。
まだまだこれからこれから。
彼女にボールが入り、真正面から対峙。
一対一のシチュエーションになる。
深く腰を落とし、相手の動きに備える。
肌にビンビン伝わってくる。
ここは勝負一択、絶対にパスは無い。
20番が右、左と持ったままボールを動かす。
次の瞬間、右から一気に加速して抜き去りにきた。
――やばっ、完璧に遅れた。
反応が遅れてあっさり抜かれる。
私が振り切られて味方のヘルプが入るが、うまく掻い潜られ、そのままゴールを奪われた。
サクッと失点。
今のは完全に私が悪い。
「おい」
いきなり呼ばれる。声の主はヤンキーの那須さんだった。
「お前……、大丈夫か? 聞いてた話と全然違ぇんだけど」
「す、すいません!」
威圧感が凄い。
怒ってるわけじゃないんだろうけど怖いです……。
でも、全然違うというのは当たってる。
頭の中にある動きのイメージと、身体の反応に乖離がある状態。
簡単に言うと、イメージ通りに身体が動いていない。
今迄こんなにバスケから離れた事は無かったから、こんな感覚も初めて。
なんとかアジャストしたい。
すばるボールで再開。
もう一度、葵からボールを貰う。
感触を確かめながらドリブル。
――うん、思い出してきた。
再びレッグスルーにチャレンジ。
……今度は成功。
ひゅー、とベンチから冷やかすような声が聞こえた。
フロントコートへボールを運びきり、千秋にパス。
バスケットボールが重く感じた。
周囲を見渡す。
味方の位置を把握しながら、どこでボールを受けるかを探す。
スペースを掴む感覚。
一度、左サイドコート奥にポジションを取る。
その間に千秋と葵の間でパス交換。
ペイントエリアの中に中村さんが侵入、そこへ葵からパスが出る。
中村さんが、ディフェンスに身体を預けながらボールをキープ。
その瞬間、ボールを受けに中央のスペースへ動く。
「こっち!」
パスを要求。
要求通りのパスが中村さんからきた。
体勢十分でボールを受ける。
遅れずにマークがついてくるが、構わず右からドライブ。
「……っ!」
左耳に相手の息がかかる。
二歩目で強引に相手より先に前に。
三歩目で完全に抜き去る。
中にはディフェンスが二人。
その内の一人がヘルプに来ようとしたタイミングで急ブレーキ。
ボールを持ち替え、ジャンプシュートを打つ。
入った。
そういう感触のあるシュートだったが、ボールはリングに触れることなく、その手前で落下。
……。
ボールはゴール下を守る明青の選手へ。
攻守が切り替わり、あっという間に速攻を食らう。
レイアップを決められ失点。
8-25。
コートの外からは誰かの笑い声が聞こえる。
……くそぅ。
でも、今の感触は良かった。
シュート以外はイメージ通り。
頭の中で描くイメージと、身体の感覚が徐々にリンクしていっている実感がある。
あともう少し。
忘れないうちにボールを触りたい。
次の攻撃。
相手陣内へ葵がボールを運ぶ。
「パス!」
パスくれ!
と、声に出して要求。
葵がパスをくれる。同じようにボールを受けに近づいてきていた千秋が苦笑いしていた。
左サイドでボールを受け、ゴールに向かって正対。
私には相変わらず20番の選手がマークについている。
息を吐き、呼吸を整える。
一対一。
ドリブルを開始。
ボールを晒すように手前に出す。
食いついてこい。
重心を落とし、ボールを低くバウンドさせながら右手、左手と交互に持ち替える。
じりじりとプレッシャーをかけながら、タイミングを計る。
右手に持ち替えた瞬間、スピードアップ。
右から抜きにかかる。
これにはディフェンスが遅れずついてくる。
進路を塞がれ、予定変更。
バックステップで距離を取り、そのままシュート体勢。
ディフェンスのブロックは間に合わない。
そのまま、ジャンプシュートを打つ。
ゴールに向かって放物線を描くボール。
でも、これは入らない。
打ち終わった瞬間、敵と味方が入り乱れポジションを争うゴール下に突っ込む。
予想した通り、ボールはリングに嫌われた。
ジャンプ一番。
最大限伸ばした両手。
リバウンドボールを奪い取る。
そのまま着地。
インサイドには人が密集している。
私の取ったボールを狙って、相手選手の手が伸びてくる。
それを躱すと、ゴール下を掻い潜って左サイドから右サイドへと出る。
ゴールから遠ざかるようにドリブル。
ペイントエリアを出たところで、ボールを持ち替えた。
懐かしい感覚が蘇る。
今まで何百回、何千回と繰り返したプレー。
アゲイン――。
ここからがスタートだ。
くるりと、腰を捻り反転。
身体が軋む。
ボールを高い位置でキープし、シュート体勢へ移る。
回りきった視界が、再びゴールを捉えた。
そのゴールを遮るように、ディフェンスがブロックの手を伸ばしてきている。
その手は私には届かない。
ブロックを避けるように体を少し後ろに倒しながら、跳ぶ。
シュートはボールを放てる、最小限のスペースがあれば良い。
――フェイダウェイシュート。
高く放たれたボールが、リングに吸い込まれていく。
ボールがゴールネットを通過して、落ちていく。
心地良い音が、私の胸一杯に広がった。




