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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 1
14/85

013 リスタート

戻りまして、茅森楓視点です。

 どうも、茅森楓です。


 今まで散々バスケはやらないとかほざいておいて、ここに来てあっさり撤回した半端者の女子高生です!

 よろしくね☆


 ……ホント、半端者やでぇ……。

 紙よりペラペラな私の意思。

 そんなこんなでバスケ部に体験入部を果たした、新入部員(仮)の私です。


 ――構って欲しかったら、逃げてないでさっさとかかって来い。


 ミエミエな挑発の言葉。

 何て単純なんだろう。


 嬉しかったんだ。

 挑発されて喜ぶなんて、おかしな話だけど。

 だけど、こんな私に対して、真っ向から求めてくれる相手がいた。

 言葉にしてくれる相手がいた。


 着替えるため、更衣室に入る。

 手には千秋から渡されたバッグ。


 それは、私が中学時代に使用していたものだった。

 中を見ると、真新しいユニフォームと、使い古したバッシュ。


 わざわざ私の家から持ってきているという用意周到さ。

 ……準備の良い話だ。


 弟の颯太にでも頼んだのだろうか?

 タオル、靴下、いや、インナーパンツまで入ってるし!

 あいつ勝手に人の部屋入りやがったな……帰ったらとっちめてやろう。


 入学するまでバスケ部の存在隠して、脅迫めいた事してまで試合に呼んで、裏ではバッシュやら何やら用意しておいて……全ては千春の想定通りって事かと苦笑いする。


 ……こんな周りくどい事するなら、もっとハッキリ言って欲しかったな。


 着替えをはじめる。

 ユニフォーム、新品だろうか。

 ちょっと小さい。


 ……あれ?



 **********


 館内に戻る。

 既に第2セット目の試合がはじまっていた。


 一応着替えたんだけど……。


「おかえり~、ってあれ?」

 戻ってきた私の格好を見て、千秋が反応する。


「下、どーしたん?」

「いや、入ってなかったんだけど……」


 上はユニフォーム、下は制服のスカート。

 スカートの下からはスポーツ用のインナーパンツが覗く。


 バッグの中に、ハーフパンツが入ってなかったのだ。


「あっれ~?」

 そんな声を出して何やら上の方に視線をやる千秋。


「……入れ忘れたかも?」


 テヘっと舌を出す千秋。おい。


「え……どーすんすか?この格好……」

「私の長ジャージならあるけど?」


 ジャージかぁ……練習なら良いんだけど、試合となるとなぁ。

 出来ないことは無いんだけど、膝まで覆い隠すジャージは正直動きにくい。


「まぁ……このままでもいいか」

 中にインナー履いてるし。


「えぇ……それはさすがに()()()()でしょ」

 そう言って千秋が笑う。何だよ狙いすぎって。


「あ、やっぱりマズいかなぁ? 練習試合とは言え相手も居るし……」

 ちらりと顧問の麻木先生を見る。

 相変わらず貧乏ゆすりしながら爪を噛んで試合観戦中。凄い形相だ……なにやだ怖い。


「わたし! 聞いてきてあげるよ!」


 そう言って手を挙げたのは、三年の佐々木由利さん。

 え? 誰に? と、問う前には既に立ち上がり駆け出していた。


 向かった先は明青学院のアシスタントコーチのところ。

 いや、試合中なんだけど……このタイミングでよく行けるな……。


 こちらの方を指さしながらなにやら話す由利さんが、やがて両手で大きなマルを作りながら戻ってきた。


「オッケーだって!」

 そう言って笑顔を見せる由利さん。


「あ、ありがとうございます……」

 とりあえず礼を言っておく。


 ユニフォーム問題が解決したところで、得点板に目をやる。


 第2セット目の前半は残り5分を過ぎたところみたいだ。

 スコアは4-13。

 早くも点差が付いている。


 明青は瑠雨が1セット目の後半に続いて連続出場中。

 石黒ソフィアの姿もある。他にも、前半に出てた180cm台の長身選手が出てたりと、かなり平均身長の高いメンバー編成だ。


 対するすばる高のメンバーは、安藤さん、ギャルの竹谷さん、ヤンキーの那須さん、ギャル2号加藤さん、それに千春というメンバー編成。


 正直、このメンバーでは厳しいだろう。

 流石の安藤さんも180cm台二人が相手ではキツかったか。


 まぁ……練習試合だし、本来はそんな勝敗を気にするもんでも無いんだけど。


 どうにも身体が疼いて落ち着かない。

 そわそわしながら椅子に着くと、この試合は出ていないキャプテンの中村さんから声をかけられた。


「茅森さん、後半からいける?」

「あ、はい。 大丈夫です」

「うん、じゃあアップしといてくれるかな? 試合中だからボールは使わせられないんだけど……」


 怪我だけはしないようにねと促され、コートの脇で簡単なストレッチを行う。



 その途中、ゆっくりと、胸に手を当てる。

 鼓動が早い。

 こんなにドキドキしているのは、はじめて試合に出た小学生の時以来かも。




 **********


 2セット目の前半が終了。

 8-21。



 部員がベンチで集まる。

 顧問の麻木先生……は完全に目がイってる。

 何なの先生……どんなキャラなの……。和む。


 というわけで、今回もキャプテンの中村さんが話を進める。


「茅森さん、ポジションはどこ?」

「あ、えっと……一応どこでも出来ると思います」

 中村さんに聞かれ、そう答える。


「なら……茅森さんにはフォワードお願いしようかな。 後半のメンバーは、センターが私、飛鳥と茅森さんがフォワード、千秋さんと、葵がガードでいこう」


 そう簡単にポジションを伝える。

 名前を呼ばれたメンバーがそれぞれ頷いた。


 インターバルの2分が終わる。

 いよいよだ。


 コートに出ると、2セット目から審判役を担当している男子バスケ部員、小島渚が私に気付く。


「…………!」


 そして何故か呆然と口を開けていた。


「お、おまっ! なんつー格好してんだよ!」


「へ? いやぁ……なんか下のパンツ忘れたみたいで」

 ペロリとスカートの裾を摘まんで見せる。


「あげんな! スカートあげんな!」

 そう言って顔を真っ赤にする渚。


「やだなぁ、ちゃんと下にインナー履いてるよ?」

「そういう問題じゃねえ!」

 そんな怒んなくても……。


「……出るのか?」

 渚が、小さな声でそう聞いてきた。

「うん」

「そうか。 ……頑張れよ」



 第2セット目、後半がスタートする。


 っと、その前に言っておかなきゃ。


「高木さん」

 笛が吹かれる前に、私は高木さんを呼び止める。


「んー? どしたぁ?」

 振り向いて私に反応する高木さん。

 試合でポイントガードを務める彼女にはお願いしておかなければいけない事がある。


「実は私、ボール触るのも久しぶりでさ……、序盤に軽くボールに触らせて貰えるとありがたいんだけど……」

 そう伝えると、高木さんが目を細めてニパッと笑う。


「らじゃ! それから、私の事は葵って呼んでよ。 試合中は、その方が呼びやすいっしょ? 楓」

 ニシシと笑う。

「うん、分かった」

「おけー、じゃ頑張っていこーぜぇ」

 そう言って突きだされた拳に、遠慮がちに私も拳を合わせる。


 笛が鳴らされ、明青ボールで試合がはじまる。


 スローワ―から出されたボールを葵が受ける。

 そしてすぐに、私へパスが来た。


 ボールを受ける。


 バスケットボール特有のざらざらとした感触。

 ズシリとした重みを感じる。久しぶりの感覚だ。


 ゆっくりとドリブルをはじめる。


 ダン、ダン、ダン――。


 ついたボールがコートで跳ねて私の手に戻り、ついては跳ねてまた私の手に戻る。

 そうやってドリブルをしながら前に進む。


 フロントコートには明青の選手が五人揃っている。

 ポジションを取り、私たちを迎える準備ができていた。


 残念ながらこの後半には藤代瑠雨の姿は無い。

 私は明青のコートを見る。

 そして、無意識に股下にボールを通した。

 やり慣れたレッグスルー……は、コントロールを誤り、そのままコートの外、明青側のベンチへと転がっていった。


 ピッ―。


 短く笛がなる。

 ターンオーバー。

 攻守交代。


 視線の先で、転がってきたボールを瑠雨が拾う。

 コート内外に、言いようのない静寂が訪れた。


「ぷ、くくく……ぎゃっはっはっ!! マジかよオイ! 嘘だろっ?」

 その静寂を、同じくベンチから見ていた石黒ソフィアの爆笑が切り裂く。


 瑠雨は拾ったボールを無表情で審判に渡す。


 ……恥ずかしすぎるっ……。


 こうして私のバスケは、最低のリスタートを切った。



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