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Lay-up girls レイアップ・ガールズ  作者: 日野かさね
Lay-up girls 1
12/85

011 シューター

ス、ストックが尽きてしまった……。

 

 練習試合、1セット目の後半は静かな立ち上がり。

 ニコさんのせいでほとんど見れてないけど……。


 時間は残り6分というところ。

 スコアは24-18。

 すばる高が点差を6点差に広げていた。

 バスケでは3ゴール差とも表現出来る。


 順調に得点を伸ばしているすばる高に対し、明青は中々得点を重ねられずにいた。


 その明青の攻撃。


 敵陣左サイド、角度の無いところで、藤代瑠雨(るう)がパスを受け、すぐさまシュート。

 ボールを受けてからシュートを打つまでの動作が非常に速い。


 しかし、ボールはリングに嫌われる。

 ……瑠雨のシュートは序盤全然入らないんだよなぁ。


 そのリバウンドは、すばる高のセンター、5番の安藤さんがガッチリと確保した。


「だぁぁ! クソっ!」


 安藤さんと競った明青の選手が、こちらまで聞こえるほど大きな声で悔しがる。


 彼女は石黒ソフィアという子で、瑠雨と同じ明青学院の中等部出身。

 勿論、私とは何度も対戦経験がある選手だ。


 褐色の肌にベリーショートの髪。

 180cmを超える長身とスラリと伸びる長い手足。

 あの高さとリーチの長さには、私も何度も苦しめられた記憶がある。


 そのソフィアに対して、ここまでは安藤さんが圧倒している。

 本当に凄い、何なのあの人……。


 すばる高のここまでの善戦は、間違いなく安藤さんのお蔭だ。

 安藤さんが居なかったら多分、勝負にすらなっていないんじゃないか。

 前半にセンターを務めた選手も、後半から出てきたソフィアも上背のある選手だけど、インサイドは完全に安藤さんが支配している。

 高さではイーブンなのに、守備では高確率でリバウンドを制し、攻撃ではシュートチャンスを確実にモノにする。

 1セット目の個人スタッツ見たら凄い事になっているんじゃないかな……。

 すばる高では傑出した存在だ。


 その安藤さんが取ったリバウンドから、今度はすばる高が攻める。


 テンポの速いドリブル音を響かせてボールを運ぶのは、後半から出場してきた11番の選手。

 高木 (あおい)、私と同じ一年生だ。


 その高木さんがセンターラインを越え、フロントコートに入ったところでドリブルを停止。

 両チームの選手が対峙し、一時の膠着(こうちゃく)が生まれる。


 手詰まった高木さんが、サポートにきた千春へとボールを預ける。


 その瞬間、センターの安藤さんがボールを持つ千春へするすると近づいていくと、ちょうど千春が対面するマーカーの後ろで、壁になるように動きを止めた。

 スクリーンと言われるプレー。

 その動きを生かすように、千春がドリブルを開始。


 横へスライドしながら、安藤さんと入れ替わるようにインサイドへ侵入を試みる。

 それを追う相手ディフェンスの進路を邪魔するように立っていた安藤さんが、千春がフリーになったのを見てターン。ゴールに向けて走り出す。

 この一連の動きによって、相手のマークにズレが生まれた。


 まんまとインサイドへ侵入した千春。ヘルプにきた相手選手が千春との距離を詰めにいく。


 ディフェンスの注意が千春へ集まる。

 シュートか、パスか。


 千春の選択はパス。

 右アウトサイド一杯に張り出した、櫛引千秋にパスが通る。

 

 妹の千春から姉の千秋へ。

 千秋が完全にフリーの状態でボールを受けた。


 ボールを持った千秋は、一呼吸の余裕をもってシュート体勢へ移行。

 

 両手から放たれたボールは、ゆったりとした放物線を描き、リングへと吸い込まれる。

 ボールがネットを通過し、心地良い音を響かせた。


「キター!」

 千秋が会心の笑顔で、大きく手を掲げてはしゃぐ。


 この日はじめての3ポイントシュートが決まり、27-18。

 点差は9点に広がった。


「ふえぇ! 千秋さん凄いですぅ!」


 私の隣に座る豊後さんも大喜び。豊かな肢体を揺らす。

 その横の北村さんもご満悦。うんうんうん、と何度も頷いた。


 コート上で繰り広げられる、ひとつひとつのプレー。

 ゴールを決めた選手の笑顔。

 それらがどうしようもなく輝いて見えて、魅入られそうになる。


 響くボールの音、コートに擦れて響くシューズの音、選手の掛け声、ベンチからの声援。

 色んな音が私の耳に反響する。


 体育館の匂いと汗の匂いに、懐かしさと尊さを感じる。


 視覚、聴覚、嗅覚が、思い出したかのように足りない()()を求めていた。


「今のプレーなんだけど、ピックアンドロールって言って……」


 私は無理矢理、本来の役目であるプレー解説に戻ろうと、隣の豊後さんと北村さんに話しかけた。

 それでも、コート上のプレーからは目が離せない。

 

 コートでは、9点差を追う明青がボールを回しながらゴールの機会を伺う。

 ボールは再び藤代瑠雨の元へ。


 マークがいようがお構いなし。

 今度は左45度の位置から3ポイントシュートを狙う。


 だが、ボールはまたしてもリングに嫌われ、大きく弾かれた。


 そのリバウンドボールは、たまたま良い位置にいた千春が掴む。


 千春はすぐさま、自身のやや前方で待ち受けていた高木さんへパスを出す。


 ボールを受けた高木さんが、スピードに乗ってドリブルを開始。

 追いすがるディフェンスを振り切り、出足良く速攻を仕掛ける。


 速い。


 あっという間にフロントコートへボールを運んだ高木さんが、その勢いのままレイアップ。

 見事にゴールを決めた。


 すばる高の連続得点で、ついに点差は二桁の11点まで広がる。


 ハイタッチしながら帰陣するすばる高の選手たちと、次のオフェンスへ切り替える明青の選手たち。


 その狭間で、瑠雨だけがシュートを打った位置のまま立ち尽くしていた。

 今のシュートの感触を思い出しているのか……、胸元で小さくシュートフォームを作り、何かを呟いている。


 本来なら、シュートを外した時点ですぐに切り替えて、ディフェンスに移るべきだ。


 でもそんな瑠雨に対し、明青側の選手達は何も言わない。

 後半から出てきた明青の選手五人は、私も良く知る選手達。

 つまり、瑠雨と同じく中等部出身のメンバーだ。


 彼女たちは、藤代瑠雨という選手がどういう選手なのかを良く知っている。

 その上で、何も言わない。


 今、たった一度守備をサボった事なんて些細な事だと。

 決してサボっているわけでも、気を抜いているわけでもない。


 そういうプレーヤーじゃないんだ、あいつは。


 私にも分かる。

 あれは瑠雨にとって必要なプロセス。


 見返りは必ず、数字となってチームにもたらされる。


 しばらくその場に留まり続けた瑠雨だったが、やがて顔の向きを変え。

 攻め上がってきた味方の選手たちに対し、両手を重ねて謝るポーズを見せる。


 それから、再び動き出した。


 明青のポイントガードが、ドリブルしながら周囲を伺う。

 対するは高木さん。コート上にいる誰よりも小さい。


 対面に立つ相手と比べて、20cm以上の差がある。

 抗いようもなく、中央へのパスコースが空いてしまうのだ。


 当然、そこを突かれる。

 さほど苦も無く、中央へ走りこんできた選手へパスが通る。


 ポスト役となった石黒ソフィアにボールが入ったのをスイッチに、一斉に明青の他の選手が動き出す。

 その流れるような動きに、すばるのマークが乱れた。

 中央へ絞っていた中村さんが裏を取られ、走りこむ選手へソフィアからのパスが繋がる。

 ボールを受けた明青の選手は、そのままゴールの真下を通り過ぎ、今度は左アウトサイド、角度のない位置へ張り出した選手にパス。


 中、中、外、と速いパスワークでさらに揺さぶりをかける。


 半歩遅れて千秋がボールホルダーへ向かうが、食いついたとばかりにノーステップで再びパス。

 瞬間、すばるの選手は全員がボールウォッチャーとなっていた。


 ボールの行く先で待つのは瑠雨。

 遅れて千春がマークに走る。


 打たせてもいい。

 そんな空気をすばるの選手達から感じる。


 事実、すばるのディフェンスは中央を固めて次のプレーに備えようとしていた。


 パスで揺さぶられてインサイドを破られるより、アウトサイドから打たせてセカンドボールを確保する。

 今日の瑠雨の3ポイント成功率がゼロである事を見たうえでの判断だろう。


 だが、千春はそれを良しとしない。

 瑠雨に何度も打たせる事の意味を良く知っているからだ。


 でも、もう遅い。


 ボールを受けた瑠雨がシュートを打つ。

 受けてから、シュートを放つまでの間隔がほとんどない。


 指先から放たれたボールが、直線的な軌道でゴールへ向かう。

 藤代瑠雨特有の、特徴的な軌道。


 ゴールへと向かうボールは、吸い込まれるようにリングを通過。

 唸りをあげるようにゴールネットを捲しあげた。


 29-21。

 明青が3点を返す。


 ゴールを決めた瑠雨は、シュートの帰趨を見届けると、すぐに自陣へ戻っていく。

 その表情には確信が見て取れる。


「ドンマイ! 一本行こう!」


 千秋が声を張り、すばる高ボールでリスタート。


 高木さんがゆっくりとボールをフロントコートへ運び、チャンスを伺いながらアウトサイドでパスを展開していく。

 インサイドではソフィアが安藤さんを牽制しながら守る。自由にはやらせない構えだ。

 すばる側に攻め手が無いとみるや、明青の選手がギアを一段上げて厳しくチェックをかける。


 そのプレッシャーに押されたか、高木さんから中村さんへのパスが乱れる。

 明青はその隙を逃さない。

 パスをカットしマイボールへと変えた。


 そして今度は自分たちがゆっくりとボールを運ぶ。

 アウトサイドでボールを回しながら、じっくりとチャンスを伺う。

 先ほどのすばる高とは違い、そのパス回しには余裕が見られる。


 そしてタイミングを見計らって仕掛けてきた。


 起点は同じく、ポイントガードの部分。

 高さの面で、どうしても高木さんのところがミスマッチになってしまう。


 ハイライトを見せられているかのように、インサイドへボールが配給されてしまう。


 そして再度、ボールは外へ。

 そこで待ち受けるのは、やはり藤代瑠雨だった。


 さっきゴールを決めた位置とは反対。

 だが、3ポイントラインからはやや離れた距離。

 しかも今度は体勢十分の千春がマークについている。


 それでも瑠雨は、構わずシュートを打つ。

 千春のブロックをすり抜けて、ボールがゴールへ向かう。


 これが入る。

 29-24。

 二連続での3ポイント。


 にわかにすばる側のベンチがざわつく。


 こうなると止まらない。

 止められない。


 勢いそのまま、明青がすぐさま敵陣でプレスをかける。

 ボールホルダーの千秋へ向かって厳しいチェックに行く。


 千秋は焦りから、パスミスを犯してしまう。


 ターンオーバー。

 あっという間に攻守が逆転。


 ハーフライン手前でパスを奪った瑠雨が、ドリブルで右サイドを突く。


 慌てて戻るすばる高の選手を手玉に取るように、3ポイントライン手前でくるりとターン。

 ゴール方向を向くと、迷わずシュート。


 まさか、という雰囲気がすばる側に流れる。


 ……あれが入っちゃうんだよなぁ、あいつは。


 私が思う通り、瑠雨のシュートは三度、ネットを揺らす。


 29-27。

 瑠雨のプレーに、すばるの選手が飲まれていく。


 ショットクロック24秒を目一杯使ったすばるの攻撃は、苦しい体勢から無理やりシュートを打たされて終わる。

 リバウンドを明青が掴む。


 コート上に不思議な緊張感が充満する。


 明青がパスを回す。

 選手が目まぐるしくポジションを入れ替えながら隙を伺う。

 剥がされないよう、すばるの選手も必死に食らいつく。


 そして、瑠雨のところにパスが入る。

 そのタイミングを狙ったように、今度は二人がかりでマークに行った。


 元々のマーカーである千春と、ヘルプに入る千秋。

 櫛引シスターズが、ダブルチームで瑠雨を挟みに行く。


 千秋がマークしていた選手がフリーになるが、捨てた格好だ。


 それでも瑠雨は怯まない。

 マークなどお構いなしに、強引にシュートを打つ。


 今度は崩した。

 千春も千秋も、手ごたえがあったはずだ。


 しかし、リングは待っていたかのようにボールを迎え入れる。

 ネットを擦り上げる乾いた音を響かせ、ボールがコートへ落ちていった。


 四連続のスリーポイント。


 29-30。

 2分間にも満たない出来事。

 11点あった点差が、簡単に覆された瞬間。


 ――ぞくり。

 私の背中に震えが走る。


 ――熱い。

 体温が上昇していくのを感じる。


 一人でゲームをひっくり返した少女が、私をちらりと見る。

 そして、右手で小さくガッツポーズを作った。





 **********


 ビ―――――ッ。


 ブザーが鳴らされる。

 練習試合の1セット目が終了した。


 31-37。


 終わってみれば、明青学院の勝利。

 最大11点あったすばる高のリードは、藤代瑠雨の連続ポイントであっけなくひっくり返された。


 ――悔しい。

 私は、人知れず興奮していた。

 自分でも良くわからない感情が迫り出してきて、泣き喚きたくなる。


 抑えきれない感情のまま、殊勲の活躍をした少女、瑠雨を見た。


 コート上で、千春と何か話している。

 私がそうであるように、千春と瑠雨も元チームメイトだ。

 私と瑠雨と違って、二人は仲も良かったハズ。

 色々話もあるだろう……。


 熱に冒された頭で、しばらくボーっと二人を見ていた。

 おもむろに瑠雨と目が合う。


 すると、瑠雨がいきなり歩き出して。

 真っ直ぐすばる側のベンチ、いや、私の方へと向かってくる。


 ??


 この時、私の頭の中はぐちゃぐちゃで、何も考えられない状態だった。

 この後言われる事を想像するなんて無理な話。


 何の準備も出来ていない無防備な私の脳天は、鉛玉が当たった鈍い炸裂音を伴って打ち抜かれる。


 瑠雨が私の目の前に立つ。

 椅子に座る私を見下しながら、吐き捨てた。


「いつまでイジけてんだ、この腑抜け。 そんなに皆に構って欲しいのか? そんな事したって、誰もかえでなんか見ないし。 構って欲しかったら、逃げてないでさっさとかかって来い」


 ば――か。


 最後におまけの罵りを付けて、瑠雨が明青側のベンチへ引いていった。



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