第一章:第二話
コンコンと会議室の扉がノックされた音を、シルファ・フェリオルは目を瞑ったまま聞いていた。
ノック後すぐに扉が開いたらしく足音が二つ会議室の中に入ってくるのが分かったが、シルファは我関せずといった表情で目を開けようともしない。
「国王様、ただいま戻りました」
「うむ、ご苦労じゃった」
若い給仕―確かリアの世話係だったか―の声がし、国王がねぎらいの言葉を掛けたとすればおそらくリアは戻っているのだろう。
これではなおさら目を開けることはできないなとシルファが考えていたとき、
「兄上!」
会議室に凛とした、それでいてよく通る声が響いた。
思わずシルファが目を開けて正面を見るとリアが顔を赤く染め、肩を大きく震わせていた。
「あわわわっ…リ、リア様国王陛下の前ですよー」
隣でメイが慌てているのも気にせずリアは、
「兄上!今がどういう時期か分かっての居眠りか!?」
と、今にも腰に携えた剣を引き抜かんばかりの勢いである。
シルファはどうすればいいものかと国王、つまり父のほうを向き助けを求めたのだが、「自分で何とかしろ」と口パクで伝えてくるだけで何の解決にも至らなかった。
「聞いているのですか兄上!」
「……」
「兄上!」
「…リア、少し落ち着きなさい」
さすがに見るに耐えかねたのか、それとも父としての気持ちが勝ったのか国王はリアをたしなめとりあえずは場は収まった。
(ふうー…修羅場だね)
これまで自分の態度に腹を立ててリアが部屋から出て行くことはあったが、今日みたいに怒鳴ってくることはなかった。
それだけ事態が急を要することなのだろう、と自分が原因であることなど棚に挙げ、シルファは物思いに耽っていた。