第一章:獅子の牙 第一話
ミラルカ城城内。
通路に敷かれた赤い絨毯の上を王立魔法騎士隊の鎧を身につけた一人の少女が荒々しい足取りで歩いていく。
その少女は王家の紋章が刻まれた髪飾りをしており、それは同時に少女がミラルカ王家の血筋ということを表していた。
「まったく!あの兄上には困ったものだ!」
何か気に入らないことでもあったのか、憤然とした表情で愚痴をこぼす少女の名はリア・フェリオルという。
細く柔らかなその黄金の髪や美麗なその容姿からは確かに王家のものが持つ特有の高貴さが伺えた。
「お、お待ちくださいリア様!」
声に振り返るとリアのよく見知った給仕係の少女が慌てた様子で駆けてくるのが見えた。
「どうしたメイ?」
「こ、国王様が会議に戻られるようにと」
「兄上があんな調子では戻る気にもならないな」
「リ、リア様〜」
メイと呼ばれた少女は息を切らしながらそんなこと言わないでくださいよ、と言わんばかりにリアに泣きついた。
「戻ってくれないと国王様に怒られちゃいます〜」
「ああ、もう…!分かったから離れろ!」
「ふええ…」
泣きながら離れるメイの頭をよしよしと撫でてやるリア。
その姿には給仕と使えられるもの以上の親密さがあった。
「その…お前に泣かれると困る」
「すみません…」
「い、いやっ!謝らなくてもいい!」
またふええ、となりかけたメイを見てリアは思わずどもる。
ミラルカ王家の姫として、また国内で無敵と称される女騎士として国民的指示を集めているリアもメイの涙には弱い。
「…戻るぞ、メイ」
「…!は、はい!」
会議室へと向かうためにきびすを返した自分の後ろを慌ててついてくるメイを見て、最初からこうすればよかったな、と苦笑するリアだった。