5話 『初めて写真を撮った日』
翌日の朝。
いつも通りヘルフとモニカはバイトへ出かけている。
「どうだバイトは? 大分慣れたか?」
「⋯⋯はい。大分慣れてきました。でも重いものを持つのはまだ苦手です」
そう言って苦笑するモニカに、ヘルフも苦笑を返した。
そんな話をしていると、ほどなくしてアルバイト先へついた。
店へ入っていくと、店長――エイブレットとシャロナが店の準備をしていた。シャロナは店の準備に集中していたが、ヘルフとモニカが来ると一目散にモニカのもとへやってきて抱きついていた。
「あーん! モニカちゃーん! 待ってたわよー! 昨日会ってからずっとモニカちゃんのこと考えてたの。これってもしかして恋かしら?」
「⋯⋯そ、そんなことはないと思います」
実際そうだとしたら百合展開間違いなしである。
「おいシャロナ、もうバイト始まるぞ。早くそこをどけ」
通路にいるモニカをシャロナががっちりと抱きしめているため、通れないのだ。
「んもう、分かったわよ。どけばいいんでしょどけば」
「そうだ、どけばいいんだ」
皮肉混じりな言い方をするシャロナにヘルフは同じように返した。
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「あー疲れたー! 今日も一日頑張ったわ!」
バイトが終わり、店を出たシャロナは伸びをしながらそんなことをいった。
「お疲れシャロナ。はいこれ」
「ん? お! お水! ありがとう! 気が利くのね!」
ヘルフはシャロナに水を渡した。こういうところに気が利く男だ。
「気が利く、か。まぁお疲れ様って意味だよ」
ヘルフはそう言うと苦笑した。
「あ、そうそう!」
水を飲み終えたシャロナが何やらバッグから取り出している。一体何を取り出すのだろうか。
「ジャーン! 一眼レフカメラよ! どう!? すごいでしょ!」
そういって辺りをパシャと撮るシャロナ。
「それがどうしたんだ? 景色を取るために買ったのか?」
「まぁそうね。私、写真撮るの好きなの。だから、景色とかも撮るわ。今日とるのは景色じゃないけどね」
そういってシャロナはヘルフとモニカから距離をとった。
「一体なにを撮るんだ?」
「はーいそこ! ならんでー!」
シャロナがヘルフとモニカに指示を出してくる。――どうやらヘルフとモニカのツーショットを撮るつもりのようだ。
「って俺たちを撮るならそう言えよ⋯⋯。モニカ、写真は撮ったことあるか?」
「⋯⋯いえ。1度も撮ったことないです」
そう言ってモニカは首を横に振った。
写真を撮ったことがないのも無理はない。
暗黒都市出身のモニカはカメラにも触れたことがない。唯一写真という概念は知っているようだった。
「そうか。今から撮るのは写真だ。俺たち2人で映ろう! ツーショットだ」
「⋯⋯つーしょっと?」
「いいからいいから。さ、俺の隣に並んで!」
「⋯⋯こう、ですか?」
今のヘルフとモニカの距離は体が当たる寸前の所である。
「はーい、2人とも手繋いでー!」
「だってさ。どうする?」
笑顔で尋ねてくるヘルフに対し、モニカは首肯した。
「⋯⋯は、はい。手繋ぐの初めてで緊張します」
「大丈夫。俺もだ」
そして2人は手を繋いだ。モニカの手は少し震えていたが、ヘルフがぎゅっと優しく握ってやった。
「お、おふたりさんいい感じね〜?」
「お前がしろって言ったんだろ!」
指示されなかったらこんなことはしないだろう。だが、もし支持されなかったら一生手を繋ぐ機会は訪れない気がした。ヘルフはもう一度モニカの手をぎゅっと握った。
「はーい! じゃあ撮るわよー! はいチーズ!」
――パシャという音とともに写真が取られた。その写真には、手を繋ぎながら恥ずかしそうに顔を染めるモニカと、緊張した様子でこちらを見ているヘルフが映っていた。
「あらあら〜2人とも〜。こんな近くでこんなぎゅって手を握っちゃって」
「だからお前がしろって言ったんだろ!」
ヘルフがそう怒鳴ると、「はいはい」といってあしらわれた。
「はい、この写真はあなたたち2人の写真よ。大切にしてね」
そう言ってシャロナは写真をヘルフとモニカに渡した。とてもよく映っている。
ヘルフはそれをじっくり見たあと笑顔で言った。
「ああ。大切にするよ。ありがとな、シャロナ」
「うん! あ、あたしそろそろ帰るね! バイバイ!」
そうとだけ言い残し、バッグに一眼レフカメラをしまって颯爽と去っていった。
「俺らも帰るか」
「⋯⋯はい、そうしましょう」
2人はもう一度写真を見合わせて笑いあった。――初めての写真がモニカにとってはとても嬉しかったのだ。
2人は笑いあったあと、家を目指し、歩いていった。