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暗黒都市の名も無き少女  作者: 夕凪渚
4/6

4話 『お見舞い』

もしよければ感想ください

 翌日の朝、2人はアルバイトに行くため家を出て、アルバイト先の店へと向かっていた。


「⋯⋯うぅ。痛いのです」


「モニカ? どうしたんだ?」


  その途中、何やらモニカが手を抑えて痛がっていたため、ヘルフか尋ねると、モニカは苦笑しながら答えた。


「⋯⋯ああ、いえ。昨日重いものをたくさん持ったので手が筋肉痛なのです」


「ああ、そうだったのか」


  女の子なら重いものをいきなり持たされれば筋肉痛になるのも無理はないだろう。

  ヘルフは安堵の息を吐きながら苦笑した。


「⋯⋯そういえば今日はもう1人アルバイトしている女性が来るのですよね?」


「ああそうだ。多分もうあっちは店についてるはずだから早く行こう」


  そういってヘルフは走り出した。それに遅れてモニカもヘルフの背を追いかけるようにして走り出した。

  走り出してから数分後。ヘルフとモニカはアルバイト先の店へとついた。ヘルフは大丈夫だが、モニカはゼーゼーと息をきらしていた。


「おはようございます」


「⋯⋯おはようございます」


「おお、2人ともおはよう。早速で悪いが店の準備を手伝ってくれ」


  ヘルフたちが店へ入るとエイブレットが店の支度をしながら、2人を出迎えた。


「 分かりました。あの、店長」


「ん? どうしたんだヘルフ」


「シャロナはまだ来てないんですか?」


  ヘルフがそう尋ねると、エイブレットは「それがな」といって話し始めた。


「シャロナは今日は体調を崩したらしくて休みだ。シャロナに何か用でもあったのか?」


「い、いえ。でも、あのシャロナが体調崩したんですか?」


「どうもそうらしいな。まぁ詳しくは知らないがな」


  そういってエイブレットは笑った。ヘルフは先に店の準備をしていたモニカにもう1人の女性──シャロナが来ないことを伝えた。


「⋯⋯そうなのですか。それは残念です」


「ああ、俺も残念だ。あ、そうだモニカ。今日、アルバイトが終わったらシャロナの家にお見舞いに行かないか?」


「⋯⋯お見舞い、ですか?」


「ああ、結構近くだからすぐに行けるはずだ」


  ヘルフがそう提案すると、モニカは快くといった感じに首肯した。


「⋯⋯はい。是非行きましょう」


「よし。そうと決まればアルバイト頑張らなくちゃな!」


  そうしてアルバイトを始めてから数時間後、外は既に薄暗くなっていて、空はオレンジ色に彩られていた。


「あー今日も頑張ったな。よしモニカ。早速シャロナの家へ向かおうか。きっといきなり女の子が来ると驚くぞ?」


「⋯⋯そうなのですか。どんな方なのか楽しみです」


  そして2人は近くの街まで出てタクシーを拾った。そのタクシーに乗って5分。2人はシャロナ家の前に降り立った。


「よし、着いた。ポチッと」


  そういうとヘルフはシャロナ家のインターホンを鳴らした。すると数秒の間のあと『どちら様ですか?』という女性の声が聞こえてきた。


「あの、シャロナさんと同じアルバイト先のヘルフです。お見舞いに来ました」


  ヘルフがそう言うと、女性は嬉しそうな声で、


『あら、そう! シャロナのお見舞いに来てくれたのね! 今開けるから待っててちょうだい』


  インターホンから声が途切れた数秒後に扉が開かれ、中からシャロナの母親が出てきた。


「いらっしゃいヘルフくん。その後ろの女の子は⋯⋯」


  シャロナの母親が戸惑っていたため、ヘルフはすかさず紹介をした。


「こいつはモニカ・ホルステンです。さぁモニカ、挨拶して」


「⋯⋯こんにちは。今日はお見舞いに来ました」


  モニカが挨拶をすると、シャロナの母親はモニカとヘルフを交互に凝視してから納得した様子で言った。


「あー! モニカちゃんって、あのヘルフくんの妹さんね! 随分と大きくなったわねー!」


  言ってモニカの頭を撫でるシャロナの母親。しかし、モニカは混乱していた。そう。今シャロナの母親から出た、ヘルフの妹という言葉に。


「⋯⋯あ、あの私はヘルフの妹では──」


「そうです! 僕も妹がこんなに大きくなって兄として嬉しいです!」


  ──ないのです、そうモニカが言おうとしたとき、ヘルフに遮られた。


「さ、中に入ってちょうだい。シャロナは2階で寝ているはずよ」


「はい。おじゃまします。ほら、モニカも」


「⋯⋯あっ、お、おじゃまします」


  そうしてヘルフとモニカは数分のやりとりのあと、シャロナの家へと上がった。

  ヘルフとモニカは2階を上がり、シャロナの部屋の(と思われる)扉の前へと立った。そしてヘルフは扉を2回ノックした。


「こんにちは。シャロナ、いるか? ヘルフだ。お見舞いに来たぞ」


  すると、扉の中から何やらガタンという大きい音がした。そしてしばらくして、中から声が聞こえた。


「ヘ、ヘルフ!? なんで来たの!? バイトは!?」


「だからお見舞いって言っただろ? バイトが終わってから来たんだ。あ、そうそう。今日はもう1人連れてきたぞ」


  そういってヘルフは「ほら、挨拶」とモニカに促し、そう言われたモニカは静かに挨拶をした。


「⋯⋯は、初めまして。モニカです。今日は体調を崩したと聞いたのでお見舞いに来ました」


  すると、中からの物音が一瞬静まり、ゆっくりとドアが開き、中から体調不良の女性──シャロナが出てきた。


「⋯⋯じょ、女性? 一体誰よ。学校にも女性の友達なんて⋯⋯」


  終盤をもごもごと喋り何を言っているのか聞き取れなかったが、シャロナはモニカを見た瞬間、扉を勢いよく開け、ヘルフの後にいたモニカに抱きついた。ちなみに扉を開ける際、ヘルフの顔面に思いっきりぶち当たり「んふごっ!」という情けない声が出ていた。


「きゃー! なにこの可愛い子! 名前はなんて言ったかしら?」


  すると、モニカがシャロナから少し距離を取り、目線を外しながら答えた。


「⋯⋯モ、モニカです」


  モニカが言うと、シャロナは顎に手を当て考える仕草を見せた。そして閃いたような感じを見せたのちに言った。


「あー! モニカちゃんって、あのヘルフの妹のね! 随分と大きくなったじゃない! そして何より可愛いわ! 」


  そういってシャロナはモニカをもう一度抱き寄せ頬擦りをした。一方で、抱きつかれたモニカは何やら納得のいかないような顔をしていた。その様子を見て、「はぁ」とため息をつきながらヘルフは言った。


「お前、それお前のお母さんと同じこと言ってるからな? あと、その様子じゃもう体調は良くなったみたいだな」


  ヘルフからそう言われると、シャロナは深く首肯した。


「ええ。朝よりは随分と楽になったわ。わざわざお見舞いに来てくれてありがとうね」


「いいってことよ。今日はモニカの紹介を兼ねてでもあるんだ。こいつは昨日からアルバイトを始めたんだ。だからそんなにがっつかなくてもまた会えるさ」


「本当に!? やったわねモニカちゃん! また明日会えるわよ!」


  ヘルフの言葉にシャロナはすっかりご機嫌をよくしていた。

  しかし、モニカは納得のいかないような顔をしたままだった。


「まぁお前は体調良さそうだし、今日はもう帰る。またなシャロナ」


「⋯⋯さよなら、その、シャロナさん」


「またね! 2人とも! あ! 明日会うの楽しみにしてるわよ! モニカちゃん!」


  目をギラギラさせているシャロナに対し、モニカは苦笑していた。


  そうして2人はシャロナ家をあとにして、タクシーを拾い、帰路について歩いていた。

  2人は歩き始めてからしばらく無言だったが、先に沈黙を破ったのはモニカだった。


「⋯⋯あの、ヘルフ」


「ん? なんだモニカ。シャロナが気に入らなかったか?」


「⋯⋯いえ、そうではないのです。私が言いたいのは、その、ヘルフの妹のことなのです」


  モニカがそういったあと、2人の間には再び沈黙が訪れた。モニカは触れてはいけないことに触れてしまったと俯いていたが、しばらくして、ヘルフがため息をついてから話し始めた。


「あのなモニカ。実は俺の妹は、もうこの世にはいないんだ。生まれつき体が弱くてな。そのまま亡くなっちまった」


「⋯⋯そ、そうだったのですか」


  ヘルフの予想外の返答に、モニカは思わず困惑してしまった。しかし、ヘルフは続けた。


「それで、その亡くなった妹の名前がモニカなんだ。そう。お前と同じ。俺はお前に名前をつけるとき、亡くなった妹から名前を取ったんだ。伝えてなくてすまなかった」


  そういって頭を下げるヘルフに、モニカは大仰に首を振った。


「⋯⋯別にいいのです。そんなことで私は怒ったりしないのです」

 

  ──それに、モニカは続けた。


「⋯⋯私はヘルフが私を妹のように思ってくれたら嬉しいのです。もしそれで昔の妹のことを思い出して、少しでも妹との思い出に浸れたら、それで私は満足です」


「モニカ⋯⋯」


  ヘルフは無意識のうちにモニカの頭を撫でていた。その理由は──昔の妹、モニカのことを思い出したからである。ヘルフにとって妹のモニカは唯一の家族であった。母親は父親と喧嘩をし、家を出ていき、父はその後2人の子供を育てるというストレスからか、ギャンブルにはまってしまい家庭は崩壊した。それから数年、妹はこの世を去り、ヘルフは父親と縁を切り、アルバイトをして生活をし始めた。


「ありがとうな。お前は、俺の妹の生まれ変わりなのかもしれないな」


  そういってニコッと笑うヘルフに対して、モニカも笑って見せようとするが、うまく笑えなかった。


「さ、もう遅いし、早く家に帰って飯にしよう」


「⋯⋯はい。そうしましょう」


  そして2人は足早に家へと帰るのだった。


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