1話 『名も無き少女との出会い』
なんか思いついたので書いた作品です。もしよければ感想ください
「ヘルフ、今日はもうしまいにするか」
空を見上げながらヘルフのアルバイト先の店長──エイブレットがそう告げてきた。大柄で筋肉ムキムキな人だ。
「え、なんでですか?」
「ほら、空を見てみろ」
そういってエイブレットは空を指さす。
それに従ってヘルフも空の方に目をやる。すると、見上げた目にぽつと一滴の滴が落ちてきた。
「冷たっ。ん? 雨か?エイブレットさん、雨とやめることにどう関係が?」
ヘルフがそういうと、エイブレットは大仰に肩をすくめて言った。
「お前、傘持ってきてないだろ?」
「あ」
言われて気づいた。今日は傘を家に置き忘れてしまっていたのだった。まさか雨が降るとは思わず、朝から気にかけていなかったからだ。
「なるほど。それで雨がひどくなる前に帰れと、そういうわけですね?」
「ああ、そうだ。お前のひょろい体を心配してでもある。今日は忙しかったからな。さっ、そういうことだから帰れ。また明日頑張ってくれよな!」
そういってエイブレットはヘルフの背中を2回ほど叩いてから店の中へ戻っていった。
「店長は優しいなぁ。俺に気を使ってくれるなんて。さ、お言葉に甘えて帰るとしますか」
店長がいなくなって、1人でそんなことを呟き、ヘルフは家の方角へと頭をおさえて走っていった。
「くそっ。なんでこんな降ってきたんだ!」
アルバイト先の店から走って5分。今ヘルフは物凄い勢いで雨に打たれながら走っている。走る度にヘルフの体に大きい雨の粒が当たっている。しかし、今の季節は冬。冬の寒さに加えこの雨となると、さすがに厳しい寒さになる。
「こうなったら少し落ち着くまで雨宿りするしかないな」
ヘルフは雨宿りをするため、猛烈な雨に打たれながらも雨宿りができる場所を探した。
そして──
「あった! ここなら大丈夫だろう」
数分間探し続け、やっと見つけた場所は長椅子がある良スポットだった。
ヘルフは疲れきっていたため、ため息とともに腰を落ち着かせた。
それからどのくらいの間雨宿りをしていただろうか。長い間していたのは確かだが、雨は一向に止む気配は無く、むしろ強くなっていってる気がした。
「⋯⋯寒い。いつになったら止むんだか⋯⋯」
ヘルフが両手を擦り合わせそう呟いたとき、ヘルフはあるものを目にした。そのあるものを目にしたときにはもう、そのあるものの近くへ移動していた。
「おい、こんな格好で何してるんだ? 風邪引くぞ?」
そのあるものとはひとりの少女だった。髪は白色、白のワンピースを着ているが、そのワンピースは薄汚れていた。全体的に薄汚れた少女が長椅子の端で蹲っていたのだ。
その少女は、ヘルフの言葉を聞き顔を上げた。しかし、その瞬間、少女はまるで怖いものでも見たかのような顔になり耳を塞いで何度も謝っていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「お、おい。俺は何もしてないぞ? 落ち着け! 落ち着けって!」
ヘルフが怒鳴るも、少女には聞こえてはいないようだった。
「⋯⋯うーん、分かった。ちょっと待ってろ」
ヘルフはそういうと、豪雨の中、家の方角へとまた走っていってしまった。
数分後
「落ち着いたか?」
突然の低い声に、体をビクッと反応させ少女は顔を上げた。するとそこには先ほどと同じ顔の人物──ヘルフがいた。片方の手で傘をさし、もう片方の手には閉じた状態の傘が握られていた。
「悪いな。何も言わずに帰っちまって。お前が急に錯乱しだしたから驚いた」
そういいながらヘルフは少女の隣に腰掛けようとした。が──
「近寄らないで!!」
少女はその場から立ち上がり、ヘルフと距離をとってしまった。顔は先ほどと同じで恐怖に満ちていた。
「わ、わるかった。そんな警戒しないでくれ。俺は悪者でもなんでもない。むしろ人助けがしたいヒーローなんだ」
ヘルフがそういうと、少女は少しだけ表情を和らげ、距離を離して長椅子に座った。
「ああ、お前がそれでいいならそれでいい。少し話したいんだ」
ヘルフの言葉を聞き、少女はまだ完全には解けていない警戒の目でヘルフを見た。
「お前、こんな所で何してたんだ? しかも雨が降ってて涼しい中、ワンピース一枚で」
ヘルフが問いかけると、少女は深呼吸をし、膝の上でぎゅっと拳をにぎってから口を開いた。
「⋯⋯捨てられたのです」
「捨てられた? 何を?」
「⋯⋯物ではないのです。私自身が捨てられたのです」
少女はそういって膝を抱えて俯いてしまった。ヘルフはさらに追求をしたかったが、少女の様子を伺い、追求を断念した。
と、ヘルフは思い立ったように立ち上がり、少女に向かってこう言った。
「そうだ。お前、俺ん家来るか?」
「⋯⋯えっ?」
突然の発言に少女は目を丸くしていた。しかし、ヘルフの目には嘘偽りの感情が無いように思えた。
「お前が嫌なら無理強いはしない。だけど、もしお前が来るって言うなら歓迎する。どうだ?」
「⋯⋯え、えっと」
少女は内心迷っていた。こんな男について行っていいのだろうか。この男に何かされるのではないだろうかと不安だった。断ろう。そうも思った。しかし、断ったところで捨てられた少女に帰る場所などない。
だが、ヘルフの目には穢れの感情も下心もないように思えた。そして彼女は決断した。
「⋯⋯い、行きます」
「そうか! それなら良かった。変な男とか思われて断られるかと思ったよ」
そういってポリポリと頬をかく仕草を見せるヘルフに、少女は自分が考えていたことが全く同じで内心困惑していた。
「じゃあ早速帰ろう。ほら、傘」
「⋯⋯あ、ありがとうございます」
傘を受け取った少女はその場で傘をバサッと開けた。2人は家へ帰るべく、豪雨の中傘をさしながら歩いていった。