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  作者: ナメロウ
2/5

工業街の女ヴィーア・ファンハール

あとがきにて簡単な補足説明を入れさせていただいてます。

読んでいただけるとよりこの世界が分かっていくと思いますのでよろしければ....。

15年前....

場所:工業都市モールタル


目を開けると背中から腰にかけ嫌な感覚が走った。

時計に目を向け朝4時半、珍しく早起き...すぎるが原因は汗で体が冷えたかららしい。

ベットから起き上がり作業服へと私はいそいそと着替え、前からオヤっさんに奨められていた朝方のモールタルの景色を見に家の天井窓から屋根へと登り街中を見渡すことにした。

窓を開けた瞬間に入り込む朝の冷気は肌に刺さることなく優しく私の体温を包み込みながら奪っていく。

身震いしながらも屋根へと座ると、圧巻、17年この街から出たことがない私にとっては朝霧かかるモールタルの風景はとても神秘的に見えた。

いつの間にか出た日により工場の屋根の油は宝石のような光を放ち灯がついていない街はそのいつもよりも明るく輝いているのだ。

その風景に釘付けになっていると、下から声が聞こえた。

「ヴィーア、飯だぞー。」

嗄れた太いオヤっさんの大きな声は三階建てのこの家の1階からも屋根まで聞こえてくる。

急いで下まで降りると焼きたてのパンにベーコンと卵を乗せた普通だが、これ以上に食欲をそそるものはないと言いたいほどに美味しそうな朝食が並んでいた。

「ヴィーア、お前珍しく自分で起きてたんだな。前に言った朝の景色みてたのか?」

「そうだよ。とってもきれいだったよ。まさかむさくるしいこの街が朝はあんなに綺麗だとは思わなかった。」

ちょっと興奮気味に私が言うと、

「お前、あの景色は日頃の男達の努力によって生み出されたものだからな。おっさん共を馬鹿にするんじゃない。」

と呆れ顔でオヤっさんは言った。

「はいよー。」

笑いながらそう答えてご飯の後片付けをし、工房に向かう準備をし始めた。

オヤっさんは第2魔科学工場の工場長でそこそこ偉い。

そこそこ偉いから工場内で仕事をするってよりかは取り引きだかなんだかをすることが多く、その代わりに私が工場のみんなに言付けを伝えたりする。

私も女ながらに働くけど男共の中に混ざって出来るほどパワーもないから大体は補助だ。

でも、工場の人達は皆親切だしやってて毎日が充実してる感じがあるからこの仕事は楽しい。

オヤっさんに拾ってもらった恩もあるから私はこの工場のために頑張らないと!

「ヴィーア、工場の連中にこれを伝えといてくれ。」

ひとしきり伝えることが書いてあるメモをオヤっさんから受け取り私は工場へと出発した。

モールタルは基本的に工場があり隣には工場長の家がある。

作業員の人達には集合住宅が用意されていてほとんどの人達(私みたいな人もいる)を除きみんなそこに住んでいる。

街全体でものを作っているようなものだ、だから効率が良くここまで発展したんだろうし。

「急がないと。」

すこし朝ゆっくりしすぎたせいで始業まで時間が少しなことを気づき走って向かった。

工場につくと

「お、ヴィーアちゃん。今日も遅れずにご苦労さま。」

「遅れそうになって焦ったよー、おはようタマル。」

優しく迎えてきてくれたのは作業員のタマル。

丸坊主の筋肉モリモリマッチョマンの彼は私が幼い頃工場に遊びに来た時には遊んでくれたり私が仕事を始めたての時も面倒を見てくれたりと、彼にも色々とお世話になっている。

「どうせまた寝坊かなんかしたんだろ?」

「違うよ!今日は4時半に起きたんだから!」

事実だからしょうがないのだけど彼は事あることにからかうのが好きらしい。

「そうかー、何を見たんだ?」

「朝方のモールタル。とってもきれいだったよ、オヤッさんにはアレが男達の努力の結晶だー!的なことを言われたけど。」

「そりゃあ、良かったな!この街の景色はほかの町に比べりゃきったねぇが朝だけは誇れるいい景色だからな!」

タマルもそう誇らしく言い胸をはった。

「そういや今日はオヤっさんからメモうけとってないのか?」

タマルに言われて私はハッと思い出しタマルにメモを渡そうとポケットから出すとメモはすっかりクシャクシャになっていた。

「あらら.....。」

タマルは呆れたようにそのメモを受け取ると渋々とメモを読み始めた。

「オヤっさんの字が汚ぇのは分かるが.....このクシャクシャはきついぜぇ.....今度から気をつけてくれよぉ。」

「ごめんなさい...。」

さてさてとタマルは仕事をしに戻った。

始業の時間はとっくに過ぎていて、私も急いで仕事へと向かう。

少しドジはしたがこれが私ができる最大のことでオヤっさんに出来る唯一の恩返し。

タマルに教えて貰ったことだけど私は孤児だったらしい。

20年前、王都の北部の山の鉱脈で見つかった緑色の丸い石、通称魔法石が話題になった。

発掘者がそれを握ると色は赤く変色し熱を発した。その熱は次第に高くなり発掘者の前に小さな火の玉が出来たのである。

何も無い空気中で火ができる、しかも浮いたままで...当時の上部の科学者達はこの話を嘲笑したそうだが変わり者達がこれを研究し始め、火の他にも水、地形変化、周辺の緑化など外部への影響と身体能力の強化、身体の変化など内部への影響が起こることが分かり媒質の魔法石を使う人により効果が様々なことが起こることがわかると各方面からの注目が集まり、そこで始まったのが魔科学。

それまででは法則によって有り得ないとされていた事も魔法石により可能になり、今までは機械を使っていた部分も魔法石により大幅に削減。基本無理に行使しなければ壊れない半永久的触媒によりこれまでの工業とは一風変わった産業として始まったのだ。

ただ一つ問題点がありそれは魔法石への耐性の有無だった。

無理な行使は触媒、使用者共々に影響が起こるとされているけど、耐性が無い人は通常使用においてもその能力が正常に働かなかったために体内から火が発生したりと色々と問題が起こった。

なので、魔法石の粉を指先に振りかけることで耐性の有無を確かめるらしいのだけど私は無かったらしい。

当然まだ赤ん坊だった私はこれからお金がかかり育てるのが大変だ、その上に魔法石への耐性がないとなれば当時の孤児の受け取り手の大多数である魔科学ビジネス関連の人達は使用を考えていたこともあり、私を引き取ることは無かった。

そのはずなのだけれどオヤっさんは私を引き取りここまで育ててくれた。

それに、そんな奴らに引き取られるより私は全然幸せな暮らしが出来ている。

だから私は感謝し続けなければいけないのだ。

こんな小さな仕事でも私に出来ることなのであればしていくのだ。

その決心をまた胸に私は仕事に向かうのだ。



モールタル(その一):王都支配地域において最大の工業力を有する街。魔科学が発展する前から街は栄えていたが魔科学発見後においては各国の上流所得家達もこの街に進出。さらにその規模は大きくなり現在では魔科学の道に進む者たちの学校もありと工業街の面のほかちょっとした学び舎の街ともいえる。

魔法:魔法石を触媒にすることにより様々な効果を発揮することを人々が便宜上言いやすくしたもの。現在はむしろこっちの方が主流である。

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