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ランクアップのご褒美?

「そういえばヨミ、ウルシア様に力を貰ったんだよね? 死んじゃったハンターさん達を生き返らせられる?」

「あぁ、試してみようか」


 そういえば、まだ使ったこと無いし、本当に生き返ることが出来るのか試した方がいいな。

 死んだ時に使おうとして、実は使えなかったなんて落ちがあったらやってられないし。

 俺は三人の死体を一箇所に集めて、手をかかげながら浮かび上がる呪文を口にした。


「さまよう魂よ。肉体を伴い復活せよ」


 すると、キラキラと光の粒が集まって、光の中から三人の身体が飛び出した。

 しかも、ちゃんと意識と記憶も残っているみたいだ。


「あれ? 俺は確か要塞蟹に押しつぶされて……」

「俺達も水に貫かれて死んだはずじゃ……」

「……私達生きてるの?」


 騎士も戦士もアーチャーも生き返っている。

 どうやら蘇生のスキルは成功したらしい。

 本当にチートスキルを貰っていたんだな。

 んー、特に疲れた感じもない。マナ消費無しで使えるのか。本当にチート蘇生術だな。

 なんて感慨にふけっているとヨミが三人の前に手を出した。


「三人を生き返らせたのはこのヨミだよ」

「ありがとう……なんとお礼を言えばいいか……」


 リーダー格なのだろうか、騎士の人がリコレットの手を握り返そうとする――その瞬間、リコレットは騎士の手を避けてニッコリ笑った。


「一人一万ポルで良いよ」

「そんな格安でいいのか!?」


 リコレット!? 何勝手に商売始めてるの!?

 というか、騎士の方も騎士の方でそっちに驚くのかよ!? 金取られることに驚いてよ!? 金取ることに驚いた俺がおかしいみたいじゃないか!?


「その代わり生き返らせてもらったことは内緒で。教会がうるさいからさ」

「ありがとう。本当にありがとう! 教会に頼むと一人十万ポル、いや下手した百万ポルくらいはとられていたのだから……」


 騎士がそう言うと、他の二人も俺の手をギュッと握り締め、何度も何度もお礼を言ってきた。

 エルフのお姉さんに握られるのは悪い気がしないけど、さすがに男に握られ続けるのは嫌だったので、はやく帰って休むよう言って帰らせた。


 生臭いと言わずに手を握ってくれたことに関してはすごく嬉しかったけどね。

 さて、リコレットに後で何と文句を言ってやろうか……。


「すごいねヨミ。本当にウルシア様の力を使えるんだ」

「半信半疑だったけど、これで死んでも安心……なのかは微妙だな。というか、何勝手に商売を始めてるんだよ?」


「うーん、商売人とハンターとしての勘なんだけどね。何か嫌な予感がしたんだ」

「嫌な予感?」


「うん、多分、この三万ポルが生死を分けるような気がして」


 いまいちリコレットが何を言っているのか良く分からないけど、こっちの世界にまだまだなじめていない俺には想像もつかないことが待っているってことだろうか。

 とりあえず、ここは任せた方が良いかもしれないな。


「ところで、この蟹の残骸はどうやって持ち帰るんだ?」

「ギルドカードに討伐ポータルっていうスキルがあってね。生命力がなくなった魔物を転送することが出来るの。こんな感じにね。討伐ポータル起動!」


 一瞬蟹が輝いたと思ったら、光の粒になって街の方へと飛んで行った。

 一緒に飛んで行けば帰りは楽なんじゃないかと聞いたら、死ぬから止めた方が良いと言われた。

 細かい説明は良く分からなかったけど、魂が置いていかれて、肉体だけ飛んで行くせいで死ぬらしい。幽体離脱体験をしようとか、俺と同じように帰りが面倒臭いからと逝ってチャレンジした人が教会に担ぎ込まれて、蘇生される事故が一年に数回あるとかないとか。


 意外と魔法も万能じゃ無いんだなぁ、なんてのんきなことを思いながら帰ったけど、俺はこの後、リコレットを信じて良かったと思い知らされることになる。



「超魔導要塞ルナキャンサーを倒した!?」


 ハンターギルドで報告すると受付のお姉さんは椅子から飛び起きて、俺に詰め寄ってきた。

 やべぇ! 胸が密着してますよ!? 谷間が見えていますよ!

 だ、だが、俺は紳士だ。冷静にクールに立ち振る舞うのだ。


「あ、えっと、その、ハ、ハ、ハンターカードで確認お願いします」


 ……声が裏返った。お願いリコレット、そんな冷たい目で見ないで。

 男の子だから仕方無いの……。胸が急に目の前に来たら、もう仕方ないじゃないか。

 リコレットがやってもきっと反応……するかなぁ?


「ヨ・ミ・さ・ん?」

「なんか……ごめん」


 リコレットがわざと一文字区切りで俺の名前を言いながら腕にぴとっと寄り添うように近づいてくる。

 何かを必死にあてようとしてくているみたいだけど、何か固くて俺は目を離しながら謝った。

 お姉さんがいなかったらドキッとしたかもしれない。急に胸が来たのでしたかもしれない。


「なんでよおおおお!?」

「リコレットのも可愛いとは思う。うん、正直ドキッとすると思う。でも……比べたら悪い気がして……」


「それどっちに悪いと思ってるの!?」


 そりゃ、もちろん受付のお姉……。って、しまった。こいつは嘘が分かるんだった。


「リコレットにも悪いと思っているよ」


 嘘はついてない。

 おかげでこれ以上追撃できないリコレットが頭を抱えてうーうー言っている。

 何とか今のうちに話題を変えて逃げよう。


「すみません。お騒がせして。改めて討伐確認お願いします」

「そ、そうですね。確認します」


 椅子に座り直したお姉さんはカードをジッと見つめると、申し訳無さそうに頭を下げてきた。


「ごめんなさい。今回もクエスト報酬は無いです」

「なんで!?」


 またかよ!? おかしいだろ!? ちゃんとクエストボードで手配されている要塞蟹を倒したんだぞ!?


「それがその……今回討伐なされたのはA級指定種の超魔導要塞ルナキャンサーですので……」

「……種類が違うから報酬金が払えないってこと?」


「……はい。ごめんなさい。討伐確認が出来たので、ハンターランクはBにまであげることは出来るんですが……」


 リコレットの嫌な予感が早速的中した。

 まさかのまたタダ働き! あの三万ポルが無かったら無一文がまだ続くところだったのか。

 あいつの商人としての勘は侮れないかもしれない。


「で、ですが、素材の買い取りはおこなっております! ルナキャンサーの甲殻も肉も大変高価な値がつきますから」

「あ、そっか。今回は買い取りがあるのか。それじゃあ、鎧と武器を一通りつくれる素材を残して――」


「肉は一ヶ月! あ、ダメだ冷蔵庫に入らない……うー、もったいないけど一週間分ください!」


 さっきの商人としての勘が良さそうってのは、気のせいだったかもしれない。


 こいつは一ヶ月毎日蟹を食うつもりだったのだろうか。

 試しに聞いてみたら何を当たり前のことを言っているのかと呆れられた。

 納得いかねぇ……。

 そんなこんなで自分達の取り分を残しつつ、ルナキャンサーは解体した素材をうっぱらったお金を山分けした。

 おかげでカードに残された残金が一気に三十万ポルまで膨れあがっている。ちょっとした小金持ちだな。

 でも、ちょっと複雑だなぁ、要塞蟹の方は百万ポルだぞ。なんて思って返して貰ったカードをじっと見ていると、お姉さんが慌てたように声をかけてくる。


「あ、後、ハンターランクがBに昇進したことで特典をプレゼントしますね。龍車無限利用権です。これさえあればどの街でも龍車を借りられて、狩りにスムーズにいけますよ。これで一日に解決出来るクエストも増えて儲けられます」


 龍車? と俺が首を捻るとリコレットが窓の外を指さした。

 その先には馬車の龍版みたいなやつがあって、龍が荷車を引いている。

 ただ、龍といってもサイズは馬よりちょっと大きいくらいで、翼の生えた小型恐竜みたいな感じだ。

 広い平原とか森を歩き回るのも大変だし、せっかく無料券が貰えたんだから今度お世話になってみるのも良いかも知れない。


 けど、そんなことよりも大事なことがある。


「え? 昇進の特典があるのか? いきなりランクCだったから、ランクCまでの特典を貰ってないけど?」

「ランクCまでは特典が無いんですよ。ランクBからがいわゆる一流の冒険者と言われていまして、国も便宜を図るために協力してくれているんです。こんなに早くB級になれる人は初めて見ました」


「そうなの? A級指定種を倒せば良いだけなんじゃないのか?」

「そもそもA級指定種しか狩ってこない人なんていませんでしたから。普通ならC級を二十体くらい倒してからB級に昇進ですからね。早くても3年くらいかかりますよ」


 別に狙ってやっている訳じゃないんだけど……。

 何か偶然にもA級指定種に連続して出会っているだけで、普通にC級とかB級の魔物を倒してクエスト報酬が欲しいんだけど。

 まぁ、三年かかる昇進報酬がかわりに早く貰えたと思えば良いのかな?


「なので、龍車に一人で乗っても大丈夫とは思いますけど、事故には気をつけて下さいね」


 そっか。龍車といっても交通事故は起きるのか。

 トラック事故で死んだ身としては気をつけないとな。やっぱり龍に体当たりされたら死ななくても骨くらいは折れそうだし。


「食べられないように手綱をしっかり握って下さいね」

「おい!? 今なんつった!?」


 乗ってる龍に食われるのかよ!? 

 なんて危険な乗り物貸し出してるんだ!? この世界の人達は頭おかしいんじゃないか!?


「大丈夫ですよ。B級以上の冒険者なら苦戦しないD級指定種の魔物なので、野生に目覚めたら倒しちゃって下さい。とはいえ、卵から育てているので、人間に敵対心を持つことは滅多にありません」

「さっきの注意のせいで全然信用できないんですけど!? というか、さりげなくとんでもないこと言ってるよね!?」


「傷だらけになると本能が目覚めてしまうので、それにさえ気をつければ大丈夫ですよ。事故なんて間違って魔物の群れに入ってしまったとかの不注意が原因ですので」


 ニコニコしながらとんでもないことを言い出すお姉さんをこれ以上見ていられなくて、俺はどんな勧誘もどんな営業もやり過ごす必殺の言葉を準備した。


「……前向きに検討します」

「討伐報酬の代わりとまでは言いませんけど、気兼ねなく使ってください」


 使える気が全然しない……。

 もう一度この世界に転生したくないという人達の気持ちが良く分かった。


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