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リコレット

 リコレットの家は家というより店だった。

 古ぼけた二階建ての木組みの家で、一階は薬や道具などが並べられていて、二階が生活用の部屋となっている。

 その中の使われていない部屋に案内されると、ホウキを渡された。


「掃除をお願いね。私はその間にお風呂に入ってくるから」

「分かった」


 タダで泊めて貰うんだから掃除くらいは安いものか。

 それに普通なら面倒臭いし疲れる掃除が全く疲れないからな。

 重そうな木箱を二つ三つ重ねてもサクッと持ち上がる。

 マナによる肉体の活性化すごいな。私生活でもかなり役に立つぞ。

 そんな感じで、あらかた部屋の掃除が終わった頃、リコレットが部屋に戻ってきた。


「おー、綺麗になったねぇ」


 その声に振り向くと――。


「うおっ!? すげぇ綺麗になったな!?」


 夕陽に照らされたリコレットが入り口に立っていた。

 スス汚れはすっかり落ちて、綺麗な白い肌が露わになっている。

 服装は白いワンピースの上にお店のエプロンをかけているシンプルな姿だけど、そのシンプルさが一層リコレットの顔の端正さを引き出していた。


「ふふん、顔を洗って出直してきてあげたわ」


 相変わらず無い胸を張って、どや顔をしている。

 そういえば、出会った時に同じようなことを言ったな。


「なら、あれをもう一度言ってくれよ」

「あれ?」


「絶世の美少女錬金術師リコ――」

「やめてえええええ!? あれは死にかけてちょっとテンション上がっただけだから! べ、別に普段から言っている訳じゃないから!」


「そっか。ちょっとテンションが上がっちゃっただけかー」

「そ、そう! だから、もうあのことは忘れて!」


「分かった。絶世の美少女錬金術師リコレット」

「うわあああ!?」


 リコレットが顔を真っ赤にして、しゃがんで恥ずかしがっている。

 想像以上にかわいい。どうしよう。何かに目覚めそうだ。


「それで、絶世の美少女リコレット、下のお店は何の店なんだ?」

「いい加減にしないと泣きますよ!?」


「あー、悪い悪い。んで、絶世の美少女リコレット」

「ヨミさん!」


 さすがにやりすぎたかな。怒った顔も絵になるけど、これ以上やると追い出されそうだし。


「リコレット、下のお店は何の店なんだ?」

「うー……魔法道具屋だよ! 回復薬とか閃光玉とか火炎玉とか狩りに便利な道具を売ってるの」


「ん? 自分で作って売ってるのか?」

「そうだよ。材料をとってきて、調合して、下のお店で売ってるの。今日助けて貰った時も薬の材料を探しに行っていたんだよ」


「そういうのってクエスト依頼を出して、ハンター達に集めて貰うものだと思ってたけど、自分で集めにいくんだな」

「ハンターに依頼を出すのって意外と良い値段するんだよねー。わざわざハンターカードを作って、自分で材料取って原材料費を削っても、生活するのがいっぱいいっぱいってところだから、依頼なんか出したら生活できないんだよ」


 リコレットの生活はあんまり楽じゃないらしい。

 ん? というか、リコレットもわざわざハンターになったんだよな?


「クエストこなしながら、採取すればよくないか?」

「うっ……そうなんだけど……ほら、私スキルの構成が錬金術師寄りの魔法使いだから……魔物に狙われるのはちょっと」


「あー、後衛職だから、前衛職がいないと厳しいのか」


 華奢なリコレットが重厚な鎧を着ている姿を想像出来ない。

 あの布っぽい服じゃ、攻撃を一回か二回もらうだけで死ぬかもしれない。

 それに後衛職は基本的に前衛がいてこそ、真価を発揮出来る職業だしな。


「だったら、前衛職の友達でも呼べば――」


 そこまで言って気がついた。

 そういえば、この子友達いないってギルドのお姉さんに言われていたっけ。


「俺が前衛職やるよ」

「え?」


「邪神を倒すためにも、金貯めて、素材集めて良い装備を用意したい。リコレットは調合の材料を見つけて、調合したものを俺に売れる。利害は一致していると思うよ」

「ヨミさんって不思議な人だね」


 リコレットに呆れたように笑われた。

 ちょっと待て。今回は変なこと絶対に言っていないぞ。間違い無く大まじめな話で笑われる要素なんて一つもないはずだ。


「ちょっとは変に思わない? 森じゃなくて街に一人でエルフが住んでるんだよ? しかも、あんまり上手くいっていないお店をやっているのに、私を全然疑っていないし、嘘もつかないなんて」

「そうか? リコレットは良い人だと思うけど。あれ? この場合は良いエルフなのか?」


「あはは。良い人でいいよ。やっぱりヨミさんは不思議な人だよ。それじゃあ、明日朝一番にクエスト確認しにいこうか」


 そう言って笑うリコレットの顔は夕陽に照らされて、やけに赤く見えた。


「ハーフエルフで人の嘘を見抜いちゃって怖がられた私でも普通に接してくれるんだから」


 そんな呟きが聞こえたけど、俺は聞こえないふりをしておいた。


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