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ハンターになりました

 誤解もとけてようやく街に向かい始めた俺は、リコレットにこの世界へ突然女神ウルシアに連れてこられたこと、住む場所もお金もないことを改めて説明した。

 普通なら信じなかったと言われたけど、ウルシアのおかげで意外とあっさり信じてもらえたようだ。

 役に立つのか役に立たないのか本当に微妙な女神だなぁ……。

 そんな俺の話のかわりにと言っては変だが、リコレットのことも教えて貰えた。

 同じウルシア被害者として仲間意識が芽生えたのかもしれない。


「実は私もヨミさんと同じ十六歳なんですよ」

「へぇ。思った以上に若かったんだ」


「なんですかそれ? 私が子供っぽいって意味ですか?」

「いや、そういう訳じゃなくて」


 顔のススを拭ったリコレットの顔は幼さを残しながらも垢抜けているし、身体だって手足が長くて、スラッとしているように見えるから大人っぽいというかモデルみたいだ。

 まぁ、確かに胸は子供サイズだけど。


「今、胸見たな!? 胸見て子供っぽい思ったな!?」

「ち、違う! エルフって年齢がすごく高いイメージがあったから。実は百歳を超えていても不思議じゃ無いと思っていたんだ。エルフにとっての一年は人間の十年に匹敵するとか言われても、普通にそうなんだって思うし」


「あー、なるほど。確かにエルフは寿命が長いからね」


 リコレットが何故か思い出したかのように手をポンと叩きながら、そんなことを言う。

 自分のことだろうに。と思ったけど、よくよく考えてみれば寿命の比較なんてそんなするものでもないか。


「ふふん、ということは私も齢100を超える深窓の令嬢に見えるという訳だね」


 急に機嫌を良くしたリコレットが平らな胸を張りながら、鼻を鳴らしている。

 だが、突然あれ? と何かに気がつくと、うんざりしたようにため息をついた。


「……百歳越えってババアじゃん。自分で言ってみてすごく残念な気分になった……」


 相変わらずリコレットは一人で喜んだり落ち込んだり忙しいけど、年齢が増えて喜ぶ女性はいないよな。

 衣食住を手配してくれるんだし、ここは礼儀として俺の持っている地球の知識でフォローをしないと。

 ふっ、俺は地球で何百歳も年上のエルフだけじゃない。

 妖狐や吸血鬼だって好いた男だ。

 こういう人達に言うべき言葉は持っている。


「ロリババアの需要は大きい」

「ババア言うなああ! さっきも言ったけどまだ十六歳だよ! 歳の話はもう止め!」


「なんか……ごめん」


 どこの世界でも種族が違ってもババアといわれるのは嫌なんだな。

 これから年齢の話をするのはやめておこう。

 そんな話をしていたら俺達は街についていた。

 高い城門が備わり、城門の横には巨大な槍が壁に何本も埋まっている。

 何か見たことあるような気がするけど、まさかあれは?


「なぁ、あの槍って進行してくる巨大な魔物にでもぶっさすのか?」

「あれ? 良く分かったね。あれはタイタンとか大きい魔物が城門を壊しに来た時に迎撃する槍なんだ。魔法使い百人の魔力を集めて雷撃を放つんだよ。その名も何とそのまんまタイタンキラー」


「へぇー……」


 十メートルくらいの高さはありそうだぞ。

 それくらいの魔物が普通に襲ってくるってことか。とんでもないな。


「後は大砲とか巨大弓とか色々設置してあって、巨大な魔物が出るとハンターがみんな狩りに参加する総力戦がおこなわれるんだよ」

「想像するだけですごいことになりそうだな」


「年に一回あるかないかだから、そんなしょっちゅうは使わないんだけどね」


 年に一回あるだけで十分大変なことだろうとは思ったけど、当たり前になりすぎて感覚が麻痺しているんだろうなぁ。

 地震がしょっちゅう起きているせいで、震度四くらいなら何とも思わないし、震度五くらいなら数日てんやわんやしてすぐ元に戻る日本の感覚みたいなもんかもしれない。

 そんな物騒な門を通り過ぎると、そこには思った以上に栄えた街が広がっていた。


 大きな剣を背中に背負いながら肉を物色する小さなひげ面の男、黒いローブを着て杖を持っている魔法使いっぽい女の子は耳がモフモフしている。

 どうやらエルフだけじゃなくて、色々な種族の人がいるんだな。

 お、完全に犬っぽい人達はコボルとか?


 とはいえ、見渡す限り俺と同じ人間族が一番多そうだ。

 一人で来ていたら迷子になっているだろうなぁ。


 そんな俺の不安を察してくれたのか、リコレットは俺の手を握って人混みの中を引っ張ってくれた。


「ハンターギルドはこの先の中央広場にある大きい建物だよ。弓の看板が目印」


 言われて見れば弓と矢の描かれた看板が大きな建物にぶら下がっていた。ただでさえ大きい建物の一番上にあるから、街のどこからでも見つけられそうなほど目立っている。。


「すごい目立つんだな」

「魔物の出没情報とかいち早く知りたい情報ってたくさんあるから、旅をするハンターが街に入った瞬間、どこにギルドがあるか分かるようにしているんだよ」


「へぇー、ちゃんと理由があるんだ」


 ただ目立ちたいだけじゃないし、ゲームでクエストを受ける場所だから目立たせておくなんてメタ的な理由でもなかった。

 そして、ギルドの前に連れて行かれると、思わず驚いて声が出た。


「うおっ!? これはまたすごいな」


 ハンター達の狩った魔物が並べられ、倉庫の中へと運ばれていたんだ。

 大きな猪、大の大人くらいある極彩色の鳥といったものから、ゴブリンやオークといったあきらかに魔物というものまである。


「狩った魔物達はここで素材に変えられて、討伐報酬として受け取れるの。その討伐報酬を持って鍛冶屋とか錬成屋に行って、欲しい武器や道具を作って貰うのが基本だよ」

「おー……すげぇ。本当に狩りゲーみたいな世界だ」


「その狩りゲーってのは分からないけど、ハンターにとってその狩りが生活の基本になっているのは確かだよ」


 建物の中に入ると色々な武器を引っさげたハンターでごった返していた。

 その人混みをかきわけて受付に到着すると、メイド服をフォーマルな感じに改造したような制服を着た受付嬢が座っていた。


「あなたリコレット? やけにススけているけど、火山の麓の森で薬草探しだったよね? 一体なにがあったの?」

「それが薬草探しの途中にロングホーンドラゴンが出て来てさ。追いかけ回されたらこうなったよ」


「ロングホーンドラゴンですって!? あの森は初心者ハンターが行く場所よ!? あぁ、急いでランクB以下のハンターに避難警告を出さないと!?」

「あぁ、それなら大丈夫。この人が倒したから」


 リコレットにポンと背中を押されて、俺は受付嬢の前に立たされた。

 確かリコレットの説明ではこの人にハンターカードの申請をすれば、身分証代わりになるハンターカードが貰えるんだよな。

 それがあれば、狩りで稼いだお金が電子マネーみたいな感じでカードに蓄積されて、宿も買い物もカード一枚で出来るようになるから、ここでなんとしても手に入れないと。


「もしかして、どこか別の地区から来たA級ハンター様でしたか?」

「えっと、ハンターカードの発行をお願いします」


「え?」

「え?」


 受付のお姉さんが笑顔で固まったから、俺もたまらず聞き返した。

 俺なんか間違えたこと言ったかな?

 助けて貰おうと思ってリコレットに顔を向けたら、リコレットはあははと頬をかきながら笑っていた。


「リコレット、ここでハンターカードを貰うんじゃないの?」

「リコレット、この人は正気なの? あなた友達がいないからって変な男に捕まったらダメだよ?」


「うん、二人ともその通りだよ。ハンターカードはここで貰えるし、ヨミは正気だよ。というか、さりげなく失礼なこと言わないでよ!? 私の力知ってるくせに」


 だよな? 何も俺は変なことを言っていない。

 リコレットの時みたいに、また何か変な誤解でもさせたのかな?

 それと、リコレットに友達がいないことはスルーしておいてあげよう。俺が変な人じゃないというのもすぐ証明出来るはずだし。


「こ、このハンターカードに名前を書いてください。そ、そうすれば本当か嘘かすぐ分かりますから。ほ、本当だったらハンター試験無しでハンターに登録いたします」


 白いカードの真ん中に名前を書けば後は魔法で色々パパッと出るらしい。

 便利な世界だなぁ。あ、いつもの癖で漢字使って名前を書いたけど大丈夫なのか?


「えっと……これ古代文字?」

「あ、クロクラヨミって読みます」


「ちゃんと公用語で書いて欲しかったです。あ、でも、ちゃんと表示が浮かび始めましたね」


 言葉は通じるし、文字も勝手に頭の中で日本語に変換されるんだけど、さすがに書いた日本語は異世界で通じないのか。

 古代文字とか言っているし、もしかして分かる人もいるのかもしれないけど、何か書く時はリコレットに頼む方がよさそうだ。


「うっそ!? 本当にロングホーンドラゴンの討伐記録が残ってる!?」

「おっ、あんな倒し方でもちゃんと記録されていたんだ。チュートリアル扱いで無かった事にされるかと思ってたけど、ラッキー」


 ギルドのお姉さんが椅子から飛び上がるほど驚いていた。

 女神がくれたチート武器であのドラゴンは今腰に刺さっている太刀になったんだけど、あれで討伐扱いだったんだな。


「え、えっと、ハンターランクは通常ランクEから始めるのですが……、ロングホーンドラゴンの討伐を鑑みて、ランクCで登録させていただきます」

「ありがとうございます」


 カードを受け取ると、そこには確かに俺の名前と大きく赤い文字でCと刻まれていた。

 ん? よく見ると他にも何か色々情報があるな。

 スキル一覧とか職業って書いてある。今の所俺の職業はセイントプリーストだった。

 俺が自分のハンターカードと睨めっこしていると、リコレットが横からカードをのぞき込んできた。


「スキルの取得傾向で職業が決まるんだよ。魔法系を多くとれば魔法使い、道具錬成系を多く取れば錬金術師って感じで」


 あれ? それならなんで俺がセイントプリーストなんだ? プリーストっていわゆる僧侶職だよな。俺はいつのまに回復魔法を覚えたんだ?


「何か既にセイントプリーストになってるんだけど?」

「「え?」」


 リコレットだけじゃなくて受付のお姉さんまで俺のカードをよく見ようと、身体を寄せてきたせいで、両腕におっぱいが――。

 いや、ギルドのお姉さんが引っ付いてくる左腕だけだな。右腕は服がこすれているだけか。


「いてて!? リコレット何でつねるのさ!?」

「これから成長するから!」


 何故バレたんだ!?


「というかリコレット、この人どこで見つけたのですか!? 蘇生の奇跡じゃないですか!? しかも、身体無しで魂だけで復活できるなんて……」

「そんなすごいの? ゲームだと大概三回までの蘇生が回数無限っていうのは確かに便利だなとは思ったけど」


「奇跡に強い教会の中でも一握りの聖職者しか使えない上に、メチャクチャな額の寄進をふっかけられるって有名なんですよ!? あっ」


 口が滑ったと言わんばかりに受付のお姉さんは口を塞いだ


「あぁ、大丈夫。俺は教会の人間じゃないから。だから、気にしないで」

「あはは……私としたことがついうっかり……」


 教会の人が蘇生するのにお金をとるのはゲームだと割とあるし、そんなもんだろうな。

 とりあえず、これでこの世界で生きていくための身分証明書はゲット出来た。


「そういえば、討伐報酬のお金も貰えるってリコレットから聞いたんだけど、お金が入ってないんだけど?」

「その非常に申し上げにくいことなんですけど……。今回はクエストとして報酬金が提示される前に討伐してしまったのでクエスト報酬がお支払い出来ず、素材の買い取りも素材自体がなくなったとリコレットから聞いたので、今回お金はお支払いができません。ごめんなさい」


 なんてこった。

 まさかクエスト受注しないと魔物を討伐しても報酬が貰えないなんて思わなかった。

 ゲームでもよくある落とし穴だよなぁ……。


「で、でも、ロングホーンドラゴンを倒せる実力があるなら、すぐお金は貯まりますよ! 大丈夫です!」


 と言われてもなぁ。今すぐお金がいるんだよなぁ。

 どうしよかな? ここで貰えるお金を今後の生活のあてにしていたんだけど。

 これじゃあ無一文な上に宿無しだ。いくら街だとはいえ、野宿は嫌だしなぁ……。

 仕方無い。ここはお願いするしかない。


「リコレットお願いがある」

「あー、分かりましたよ。家に空き部屋はありますから泊めてあげますよ」


「マジか! 助かる!」

「ちなみに何をお願いしようとしたか、一応聞いてみても良いですか?」


「え? 宿代を貸して欲しいって言おうとしたんだけど……」

「あれっ!? どうせまた、リコレット今夜は一緒に寝てもいいか? とかセクハラめいたこと言うつもりだったんじゃないの!? しかも、本当に嘘ついていないなんて!?」


「お前、俺をなんだと思ってるの!?」


 しかも、何か周りの人達がひそひそと話しながらこちらをチラチラ見てくる。

 リコレットが男を知ったとか、リコレットから誘ったとか、何か完全にやっちゃった感溢れるコメントがそこかしこから聞こえた。

 


「しまったー……。変な誤解をみんなに受ける前に先手を打ったつもりだったのにー……」

「お前のせいで俺達変な目で見られてるからな!? このむっつりエルフ!」


「え? ……うわあああ!? 違うのおおお! 私むっつりじゃないからああああ!」


 リコレットがいまさら大声を出していたことに気付いたのか、気まずそうな受付のお姉さんの顔を見ると、涙目になってその場にしゃがみ込んでしまった。


 しかも、周りのハンター達はあの子むっつりだったのか、とか、今度店にいったらからかってやろうとか、言っているし、本当にどうしてこうなった。

 こうして、しばらく俺はリコレットが落ち着くまで、リコレットの頭をなで続けた。


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