初めての狩り。狩ったのは魔物? 女の子?
白い光が消えると、目の前には広大な草原が広がっていた。
奥の方には森と山が見える。煙があがっているし、火山のようだ。
どうやら俺は大自然のど真ん中に放り出されたみたいだ。
「何もないなぁ……。そういえば、魂が少ないって言ってたっけ」
だだっ広い草原には人もいなければ、草を食む小動物すらいない。
ん? となると、寝泊まりする場所や食事はどうするんだ?
まさかずっと一人で野宿するなんて原始時代生活をしないといけないのか!?
「ラノベなんかだとここで美少女が颯爽と現れて、道案内してくれるんだけどなぁ。まぁ、そんな都合の良い話しあるわけないよな」
なんてことを呟いたのがダメだったのかもしれない。
後々思い返せば、何でわざわざフラグになるようなことを言ったんだと自分に怒りたいくらいだ。
ドドドドと何か大きなモノが近づく音が聞こえてきたぞ!?
「グルオオオオオオ!」
「いやあああああ!? 何でこんなところにいいいい!?」
低い獣のうなり声と一緒に、甲高い少女の叫び声が森の方から聞こえてきた。
そっちの方に視線を向けてみると、木がバキバキ折れる音が鳴って、火の手が上がっていた。
そして森の入り口らへんで大爆発が起きると、ススで黒くなった少女が吹き飛ばされるように転がり出てきた。
その後を追って、巨大な影が森から飛び出す。
「……ドラゴン?」
反射的にその生物がドラゴンだと思ってしまうほど、見た目がすごかった。
そのドラゴンの見た目の特徴は全身が黄色い鱗に覆われており、腕の代わりに爪のついた翼を持ち、そして頭には立派な長い一本角が生えている。
しかも、メチャクチャでかい!? 俺に突っ込んで来た大型トラックより一回り大きいぞ!? あの一本角だけで人二人分くらいあるって!?
さらに火の玉まで吐く! あれを狩れっていったのかあの女神は!? 頭おかしいんじゃないか!?
「なんでこんなところにロングホーンドラゴンがいるのよおおおおお!?」
少女が巨大な影の名前を叫ぶ。
やっぱりドラゴンだった。マジでファンタジーの世界なのか!
しかも、転移したばっかりで女の子と知り合うことが出来るなんて、俺もリア充への一歩を踏み出せるんだ!
なんて感動する余裕があればなあ!
「そこの人助けてええええ!」
何とススけた少女は俺に気付いて、こっちに向かって曲がってきやがった!
おい! ふざけるな! MPKとかマナー違反も良い所だぞ!?
いや、現実でやられたら死ぬんだし、マナーで済む問題じゃないな!
「こっち来るなあああああ!?」
「足速っ!? 置いていかないでよおおお!」
というか、あれ? 何か知らないけど、俺めっちゃ足が速くなってるような? 距離が離れていっているし、普通に逃げ切れそうだぞ?
「お願いします! 助けて下さい! なんでもするからああああ!」
俺が逃げているせいで見捨てられると思ったのか、少女は必死に叫んでいた。
うぅ、このまま見殺しっていうのも心が痛むなぁ。
そういえば、ここは狩りゲーに近い世界のはずだ。ならば、こういう状況で輝くアイテムがあるはずだよな。
「閃光玉とか落とし穴とか痺れ罠とか持ってないのか!?」
「使い切った! それと魔法も魔力切れで使えないから!」
「こいつ使えねえ!」
「酷い!? というか、君もハンターならあのドラゴンを倒してよ!? 腰の剣は飾りなの!?」
「酷いのはお前だよ!? 剣なんか持ってない――って何か持ってた!?」
言われて初めて気付いたけど、確かに腰に剣がぶらさがっていた。
とはいっても剣だけであの巨体をどうにかなるとは思えないんだけどな……。
ゲームの中のキャラ達ってすごいな! って、感心しちゃうよ。
怖いけど、マジで俺が何とかしないといけないのか。
それに、これはもしかしてチャンスなのではないか?
思い出せ黒倉世壬。物語の主人公はこういう時、立ち向かうことでフラグを立てていくんだ。せっかくのチャンスを不意にするな。彼女いない歴十六年、というかいないまま死んでしまった人生をやりなおすチャンスは今しかないんだぞ。
それに、女神様は何度も死んで大丈夫って言っていたし、身体能力もあがるって言っていたんだ。案外何とかなるんじゃないか!?
そう思って剣を抜いた瞬間だった。
「いやー、ヨミ君、いきなり大物に当たるなんてラッキーだね。ロングホーンドラゴン、危険度A級指定種じゃん」
「さっきの女神さん!? って、解説している場合じゃないでしょ!?」
いきなり女神が現れたせいでメチャクチャ驚いたけど、身体は動かなかった。
というか、ドラゴンも逃げている女の子も動いていない。
何が起きたのか女神に聞いてみたら、忘れていた説明のために時を止めたとあっさり言った。
神様ぱないな。
「その剣の使い方を教えていなかったからね。そいつは転生者に配られる無銘という名前の武器でね。魔物に突き刺すと魔物の肉体を食べて、新しい武器に生まれ変わるんだ」
「なにそのチート武器!?」
「良い特典でしょう? 開始早々A級の装備が手に入るんだからね。マナを吸い込んで身体能力も上がっているし、さぁ、がんばって!」
そういって女神が笑って消えた瞬間、時が流れ始めた。
とても信じられないことだけれど、信じないとやってられない。
死んでも生き返ることが出来る。というのも本当なんだよな!? 死んで生き返らなかったらあの女神に文句言ってやる!
「あぁ! もう! やってやらああああああ!」
俺はやけくそになりながらロングホーンドラゴンに向けて飛び出した。
「「はやっ!?」」
すると、少女だけじゃなく、自分でもびっくりするくらい素早く走れた。
何か知らないけど、めっちゃ身体が軽い!? しかも、思ったように動く!
おかしいな。さっきまでびびりまくっていたのに、負ける気がしない!
「うおおおらあああ!」
俺は突っ込んで来たドラゴンの角をジャンプして避けると、そのままドラゴンの額に剣を突き立てた。
「グルアアアアア!?」
すると、剣が突き刺さったところから鱗が剥がれ落ち、剣に血肉を吸い込まれたかのようにドラゴンの身体が朽ちていく。
そして、ドラゴンの叫び声が止んだ後には、ドラゴンの骨すらも溶けて吸い込まれた。
「……倒せた?」
手の中にあった剣はいつのまにか姿を変え、スラッとした白い刀に姿を変えていた。
ドラゴンの立派な一本角から削りだしたような見事な見た目だった。
しかも、メチャクチャ軽い。刀なんて振り回したことのない俺でも簡単にブンブンと触れてしまうほどだ。
そんな刀に思わず見とれていると、先ほどまで逃げ回っていた少女の声が近づいて来た。
「すごいね君! あのロングホーンドラゴンを倒しちゃうなんて実は凄腕のハンター?」
全身すすけていたけど、よくよく見るとかなり整った顔で可愛いなぁ。黒い灰をかぶった髪の毛も所々綺麗な金色が見える。
ん? 耳もとんがっているけど、いわゆるエルフなのかな?
けど、果たして初対面で種族についてあれこれ聞いて良い物か? 第一印象でこれからのイベントが決まるんだし、ここは慎重に探りを入れていって。
「あぁ、そうだよね。まずは自己紹介だよね。私はエルフのリコレット。D級ハンターにして、絶世の天才美少女錬金術師だよ」
リコレットはそう言うと平らな胸を張った。
なんてこった……。探りを入れる前にペースを握られて、俺の想定していた受け答えが全て飛んだ。
「あ、やっぱりエルフなんだ。俺は黒倉世壬。えっと、その、よろしく」
「あ、あのー……恥ずかしいのでスルーせずツッコミを入れて欲しいんだけど……」
リコレットは急に恥ずかしくなったのかすすけた顔を赤くしてもじもじしている。
ただでさえ可愛いのに、こういうあざとい仕草をすると破壊力がやばい。煤けてなかったらやばかったかもしれない。
まったく、俺が紳士じゃなかったら何を突っ込まれたか分かったもんじゃないぜ。
「顔を洗ってもう一度出直して下さい」
「酷い!? しかも本気で言ってる!? うぅ、軽い冗談だったのに……そんなに怒らなくても」
何か誤解させたみたいですごく落ち込まれた!?
「い、いや、違う!? 顔がススで汚れていなかったら、本当に可愛いんだろうなって思って! 綺麗になった姿でもう一度言って欲しいというか」
「え? そ、そうですか? えへへ」
良かったぁ……機嫌が直ったみたいだ。
女の子と喋ったことなんてほとんどないから、緊張で自分が何を言ったのか分からなくなるなんて情けない……。
けど、落ち着けよ俺。これからが大事なところなんだ。
ここでミスったら全てが終わる。思い出せ。本とゲームで培ってきたフラグ管理能力をっ!
「リコレットさん、さっき助けてくれたら何でもするって言ったよね?」
「え? い、言いましたけど?」
「だよな。聞き間違えじゃないよな? 何でも言うこと聞くんだよな?」
「な、なんでそんなに目が必死なんですか!? 近いです! 顔が近いです! 何か怖いですよ!? 私に何をするつもりですか!? はっ!? まさか私をこのまま身体を」
「違う! そんな山賊みたいなことはしないって。俺はただ――」
「ただ?」
「君が今夜寝る場所を教えて欲しいんだ! そこに一緒にいくから!」
「衛兵さああああん! 助けてくださあああい!」
何故だ!? 何で俺はリコレットに逃げられたんだ!?
今夜の宿を教えて貰おうとしただけなのに!?
こんな危ない場所に一人おいて行かれてたまるか! 人里への手がかりは絶対に逃さないぞ!