作戦会議
会議室に集められたのは五十名のハンターは、どいつもこいつも命知らずの猛者ばかり。
どんな難敵にも金次第で立ち向かう。俺達特攻狩人Aチーム。
なんてノリで受付のお姉さんが司会となって会議は始まった。
「まず溶龍ラーヴァ・エデッセについて唯一の弱点を皆さんと共有したいと思います」
へぇ、弱点なんかがもう解析されていたんだ。
これは絶対に聞き逃さないようにしないと。
「溶龍ラーヴァ・エデッセは龍の一種ですが空は飛びません。這いつくばっての移動が基本で動きは他の龍に比べれば遅い方です。そのため近接武器での対処が可能です」
「飛ばない龍などただのトカゲだな」
「俺達はプロだ。ドラゴンぐらい楽勝さ」
「ふっ、俺達なら瞬きする間に瞬殺だな」
なんて勇ましいおっさんお兄さん達だろう。
会議場はやる気のある言葉でガヤガヤと賑やかになっている。
「俺の盾で攻撃を防ぐから、後ろから攻撃頼むぜ!」
「なら、俺は罠と爆弾をしかけるぜ。龍なんてポンっとぶっ飛ばしてやる」
リコレットなんて先ほど逃げだそうとしていたせいか、かなり気まずそうな顔している。
そもそもこんなえげつない魔物が闊歩している世界で人類が生き残っているのだから、何かしら対処の方法があってしかるべきなんだ。
それを間違えなければ、どんな魔物でも討伐することが出来るはずだ。
「なお、近接攻撃を仕掛ける際は溶龍ラーヴァ・エデッセの吐くブレスに気をつけて下さい。体内に貯め込んだ溶岩を吐き出してくるので、直撃したら一瞬で灰になります」
熱気に包まれていた会場が一気に冷え込んだ。
「それと翼に殴られないように気をつけて下さい。空は飛びませんが溶岩の中を泳ぐために恐ろしく頑丈な作りになっています。大盾による防御を試みたハンターがいましたが、盾越しに腕の骨が折れます」
誰も声を出さない所かお互いに目を反らし始めた。
「また、落とし穴は落ちた所でもともと溶岩の中で暮らしていたので普通に穴の壁を溶かして這い上がってきます。目も悪いので閃光玉は効果がありません」
トラップ系も効果が無いと分かると、どこからか諦めの声が聞こえ始めた。
「罠が効かないんじゃ近接攻撃出来る訳がないだろ……」
けれど、中には勇ましいハンター達がいて、鼻で笑っている。
「ふっ、臆病風に吹かれた者がいるようだな」
「強敵に立ち向かう勇気がないハンターなど、ただのカカシですな」
「当然俺達は行きますよ。プロですから」
頬や腕に傷の跡がある何とも勇ましい三人組だった。
しかも、身体付きもかなり良い。筋肉は伊達では無いようだ。
そんな頼もしい三人組に受付のお姉さんも気分が楽になったのか、微笑みながら話を続ける。
「溶龍ラーヴァ・エデッセの攻撃をくぐり抜けて攻撃を仕掛ける人は重量級武器であるハンマーを装備していってください。溶龍ラーヴァ・エデッセの鱗と皮膚は岩石に覆われていて、刃物による攻撃が効きません。またハンマーの素材もA級の魔物からとれたものでなければ弾かれてしまいます」
「むぅ、それならば城門から大砲や爆弾を浴びせ続けるというのは?」
「以前他の街が試して、尻尾と翼で弾かれたようです」
そりゃ生きている魔物なんだから、それぐらいの抵抗はするわな……。
話をまとめると、攻撃は一切効かないって話しになるんだけど、会議の意味あったのかこれ……。
「口ばっかり達者の素人ばかり集めてもしょうがないだろ……。A級ハンターつれてこいよ……。俺達なんてタダのカカシだよ」
「そうだよ。一億ポルくらいポンと前金で払って退治してもらえよ……」
「実は今日妹が高熱を出したんだ……。動けないから俺がおぶって安全な場所につれていかないと」
ダメだこりゃ……。
完全に戦意が喪失している。
ギルドのお姉さんも何か申し訳無さそうにしだした。
「それと……。氷属性の魔法が弱点だと思われるのですが……」
もうここまで来れば言われなくてもみんな予想がついている。
みんな、死んだ魚のような目をしているもの。
「触れた瞬間に皮膚の熱で氷や水が蒸発するそうです……」
うん、知ってた。
どうしようもない。
攻撃が一切効かないんじゃ、倒しようがない。イベント敗北みたいな強制敗北じゃないか。
「ねぇ、ヨミ、私あることに気がついたんだ」
「リコレット? もしかして、何か倒すアイデアが?」
「そんなに熱い所に住んでいるドラゴンの肉って、料理して食べられるのかな? 火が通らないんじゃない?」
「確かに溶岩の中に住んでいても火が通らない肉なら、普通の台所の火力じゃどうしようもならないよな」
「でしょう? 火を吐くドラゴンの肉も焼いたら、ちゃんとこんがり焼けて食べられるけど、生で食べるのは私でも怖いよ。だって寄生虫耐性なんて特性ないもん」
「そうか。リコレットでも食べられない物ってあったんだな。でも、今大事なのはそんなことじゃないだろう? 今一番大事なのは――」
ここは相棒である俺がしっかりたしなめないと。
この空気でそんなことを言うから友達がいないんだ。それを自覚してもらわないとな。
今、ここで一番言うべきことはあれだろ?
「で、味は? 龍肉ってうまいのか?」
「龍肉は美味しいよ。こうガツンと力がつく感じ」
「おぉ! それは楽しみだな!」
うん、ごめんなさい。みんなそんな目で見ないで。
ふざけていないんだ。リコレットがちょっとアホなんだ。
そんなアホさが今のシリアスな空気を変えてくれると思ったんだ。
マジでお願いします。そんな変な物を見る顔してこっち見ないで!?
ガチャン! パリーン!
いたたまれない視線に思わず立ち上がった俺は机の上に置いてあったコップを机から落とし、割ってしまった。
あー、くそ、余計変な注目を集めて――ん?
「ん? あれ? そうだよな? なぁ、リコレット、火が通らなくて、生でしか食べられない肉なんてこの世界にあるのか?」
「無いよ? 基本的にどんな肉でも肉は肉だからねー。あ、もちろん殻とか鱗とかが邪魔で火が通らないことはあるよ? 龍種とか火に強い種族って大体そんな感じだね」
「それだよ! リコレット! やっぱ一緒にいてもらって良かった!」
俺の閃きに会議場内の視線がもう一度集まってくる。
なんかうさんくさいものを見るような目なのは残念だけど、今の俺はそんな視線どうってことないぜ。
「さっきから固いとか攻撃が効かないって言っていたけど、誰も炎系の魔法はぶつけたことが無いんですよね?」
「は、はい。そうです」
俺の確認にギルドのお姉さんはコクコクと頷いた。
周りの人達は炎なんか効果が無いに決まっているだろうとか言っているけど、無視。
「ま、まさかと思いますけど、炎魔法で倒せるなんて言うつもりですか?」
「うん」
「溶岩の中で生きている龍ですよ? 炎は全く効かないはずです」
「炎だけじゃない。炎も使うんだよ。溶龍を氷水と炎の熱に何度も繰り返し晒すんだ」
「氷も水も蒸発するだけですよ」
「大事なのは繰り返すことなんだ。ガラスってメチャクチャ熱い時に冷やすと砕けるのと同じ原理だよ」
俺の説明に一同は真剣な様子になって話を聞き始めた。
まずは氷を張った落とし穴に落とし、炎の魔法をぶつける。そうして、急速冷凍と急加熱を繰り返すことで龍の表面にヒビを入れていく。
その後、城門前にまで誘い込み、もろくなった表面に大砲を撃ち込んで龍の鱗を完全に壊す。
鱗を壊したら城壁から弓と魔法の総攻撃を仕掛け弱らせて、近接職が殴りにいってトドメを刺す。
あえて剣や槍で傷をつけることによって、後は溶龍自身が持つ炎で自爆してもらう。
「龍が落とし穴から抜け出したら魔法使いのみなさんは全力退避で。基本的に逃げて逃げてトドメを刺すっていう作戦だ」
「な、なるほど。でも、誘い出す囮役は一体誰が?」
「言い出したのは俺だし、俺が行くよ」
「確かにあのスキルなら……。これならいけるかもしれません! みなさん大狩猟の準備をお願いします!」
そのお姉さんの一言で会議場が一斉に沸き立った。
ただ、そんな中、一人リコレットだけが落ち着いた様子で俺の手を引き、そっと耳打ちをしてくる。
「いいの? 囮なんて一番危なくて一番うま味がない役割だよ?」
「うん、知ってる」
「何でそんなに楽しそうなの?」
「んー、そりゃ、ゲームは見るより自分がやる方が好きだからだよ」
それと狩りゲーなんか特に自分でやった方が面白い。
「俺は怪物に神様に大型機動兵器も狩った男だからな」
「ん? 微妙に嘘じゃなくて嘘?」
「気にすんな。さぁて、錬金術師として罠アイテムじゃんじゃん用意してもらうから、逃げるなよ?」
リコレットは一瞬うっと嫌そうな顔をしたけど、すぐにため息をついて仕方無いなぁと受け入れてくれた。
初めての大狩猟、派手にいこうか!




