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狩りゲー世界への誘い

 俺はポケットの中に入っている財布を握りしめた。

 予約券はある。お金もちゃんと入れた。

 俺は今、狩りゲーの新作を買いに行こうと、夕暮れ時の道を走っている。

 明日も学校があるけど、今日は徹夜して遊ぶぞ。なんてアホなことを考えるくらいにテンションが上がっていた。

 一秒でも速く遊びたいと思って周りが見えてなかったんだろう。

 青信号を渡ろうとした途端、俺の身体は激痛とともに吹き飛んだ。

 そして、遠くなる意識の中、電柱にぶつかって煙を吐くトラックが最後に見えた。

 嘘だろ……。あのトラック……赤信号でつっこんできやがった……。



 ふと目が開くことに気がついて、目をあけてみるとそこは見慣れない天井だった。

 というか、やけに天井が近かった。


「ん? あれ? えぇっ!?」


 天井が近かったのも当たり前だった。

 俺は宙に浮いていたんだ。しかも、足下には自分の身体が寝かされたベッドがある。

 色々なチューブが刺さっているし、どうやら俺はトラックにはねられた後、病院に運ばれたようだった。


「これって幽体離脱?」

「いいや、あの肉体はもうダメだから、幽体完全離脱だね。黒倉世壬クロクラヨミ君」


 俺の名前を呼ぶ声がすると思ったら、俺の隣に突然羽衣を着た女の子が現れたのだ。

 何かほんのり光ってるし、半透明だし、この子まさか?


「君も幽霊?」

「失礼だなぁ。私を幽霊と一緒にしないでよ? これでも神様よ。魂の女神ウルシアって言うの。まぁ、地球は私の管轄外だから知らないでしょうけど」


「……はぁ」


 この子は頭がおかしいのかな?

 いや、そもそも初対面の人に君も幽霊と尋ねた自分も大概おかしいか。

 というか、俺は本当に死んだのかな? 下に見える俺の顔にはまだ白い布をかけられていないし、このまま身体に戻ればもしかして生き返るんじゃ?


 ピッピッピ……ピー。


 ダメだ。たった今死んだわ……。心臓と呼吸が完全に止まったわ。

 うわぁ……、せめて最新作をプレイしてから死にたかったなぁ……。


「さぁて、黒倉世壬君。君は狩りゲーの新作を片手に、居眠り運転をしていたトラックにはねられ、無念に無残に死んだ訳だけど、ここで一つ提案があるのよ」

「え?」


「剣と魔法の世界で巨大な魔物狩りをするつもりはないかな?」

「え? あのゲームみたいに?」


「そう。私の管轄する世界は相手を倒すと、そいつの持っている生命力を自分の力に変えることが出来るんだ。いわゆる経験値とステータスアップみたいな感じだね。そして、スキルや魔法も覚えることができるんだ」


 なるほどなるほど。なんだかとってもゲームっぽい世界だ。

 でも、それじゃあ、ただのRPGでは?


「ふふ、安心してよね。倒した魔物の身体を武器の強化に使ったり、防具を作ったりと、狩りをすることで色々な特典があるのはまさに狩りゲーだよ」

「へぇー、面白そうだけど、俺も戦えるの? 俺運動苦手だよ?」


「あぁ、それは大丈夫。向こうの世界にはマナが満ちあふれていてね。マナのない環境で育った君がマナを取り込めば、身体が一気に活性化されるはずだ。しかも、ただでさえ強化される肉体がレベルアップでどんどん強くなる。それこそ、君の死因であるトラックに衝突されても怪我しないくらいの強靱さも手に入る」


 マジか。異世界半端ないな。

 興味を持ってしまった俺の顔を見て、女神ウルシアはさらに気分を良くしたようだった。


「それと、魂の少なくなった世界に来て貰うんだ。地球で生きた記憶は残すし、簡単に死なないよう特典をあげるのさ」

「特典?」


「そそ。私から君にあげるのは魂と肉体の復元能力。自分の仲間が死んだ時に生き返らせる魔法だよ。あぁ、もちろん自分にも効果があるよ。死んだ後、どうしても勝てないと思ったら街まで逃げて、身体を復活させることが出来るんだ。何度だって死に放題、挑戦し放題だなんて滅多にない特典だよ?」


 女神様の手には霊魂維持と肉体復元と書かれたカードが握られていた。

 その二つを手に入れるということは、いわばリトライ権が手に入るようなものだ。


 死んでも生き返るのなら、どんなに危ない敵を相手にしても俺の人生は終わらないだけじゃない。最悪、死んでは襲いかかるゾンビアタックだって出来る。


「ね? ね? せっかくだしやってみない? せっかく買ったのに遊べなかったゲームのかわりにさ? 初期武器に面白いモノもあげるしさ」


 そう言われて、俺は女神のカードに手を伸ばして受け取ってしまった。

 話を聞いているうちにちょっと楽しみになったんだ。

 でも、ふと思ったことがある。


「そこまで言うなら試しにやってみても良いけどさ、何でそんな魂が足りないの?」

「邪神ラディクス・スケルスに街ごと食い荒らされているっていうのもあるし、危険な魔物はそこら中にいるし、そもそも狩りで命を落とす人が多いからかな」


「え? 邪神?」


 なんか一気に物騒なことになってきたぞ? もしかして、結構やばいことに足突っ込んだ?


「そそ。君達転生者の最終目的は邪神の討伐。討伐出来たら何でも願いを叶えてあげるよ。例えば、トラック事故を無かった事にして、人生やり直すとかね? それじゃあ、がんばって!」

「ちょっと待って! 邪神ってどんなやつなの!?」


「人間を指先一つで殺しちゃう魔物だよ。大丈夫、君なら勝てる! ハンティングライフを楽しむついでにサクッと倒しちゃってよ」


 なんて適当な女神!?

 こんな女神の言うことにつきあったらろくなことにならない。

 でも、もう遅かった。目の前が真っ白な光に覆われちゃったんだ。


「新しい人生にいってらっしゃーい」

「ちょっ!? 待って! やっぱ無しで! チェンジで!」


 もっと早くに言うべきだったと軽く後悔した。


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