眠る
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明日の約束をするのも嫌がる人間に、どうして将来の話が出来ただろうか。
目が覚めたら居なくなっている妄想に囚われて、彼が隣で眠る時、俺はいつも呼吸が浅かった。
夜中に何度も目覚めては体温を確認する。
数時間前、あんなに肌に触れて奥まで暴いたのに。
不安になる。そんな自分がまた嫌になる。
眠りの波に押されながら、彼の骨ばった背中に額を押し付けた。
一体、何がそんなに不安なのだろう。と考えて、未来が見えないからだと思いつく。
今が有るだけだ。瞬間だけ。
明日どうしたいかと訊いても、「今はとりあえず、」と俺の背中を抱きしめ返す。
愛されていない訳では無い。そういう不安じゃない。
「誓志、背中くすぐったい」
寝ぼけた不満声がくぐもって聞こえてきた。
背中を逸らして逃げようとする男の背骨を追って、前髪をわざとらしく擦り付けるとすねをかかとで小突かれる。
しばらくじゃれあうと、彼は次第に笑い声を立てて「もう、寝らんないよ」と呟いた。
「どうしたの?」
彼はごろりと寝返りを打ち、俺と目線を合わせた。
白目がちな切れ長の瞳は、笑うと目尻にシワが寄って途端に柔らかい雰囲気になる。
俺は彼の笑顔が好きで、この表情をされるととても得をした気分になった。
「いや、さっきの健、可愛かったなって」
「はー、なにいってんの」
今が有れば良いのかもしれない。
今だけ考えてただ幸せでいれば良いのかもしれない。
物事を考えれば心が死に、考えなければ感情が死んでいく。
「誓志?」
「明日、俺の目が覚めるまで隣に居てよ」
彼は一瞬眉を下げて、「わからないよ」と言った。