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アヴェク・トワ  作者: 白夜 讃良
2/2

不思議な部屋

ふと珈琲の香りが鼻をくすぐり、私は目を覚ました。真っ白いシーツと、背中を包み込むふかふかとした感覚に、自分はベッドに寝ているのだと察した。しばらく深い茶色の天井を見つめていた。まだおぼろげな記憶を探り、自分の置かれている状況の把握に勤しんだ。コンコンとノックの音が聞こえ、咄嗟に「はい。」と応えた。

「お目覚めになりましたか?」

入ってきたのはあの男の人だった。手に、ふわふわの湯気をたたせたマグカップと可愛らしいティーカップののったお盆を持っていた。

「ココアとレモンティー、どちらになさいます?」

「あの・・・」

「あぁ、そういえばまだ自己紹介がまだでした。」

男の人はベッドの脇にある丸いテーブルにお盆を乗せ、王子様のように跪いた。そして、こちらを見上げ微笑んだ。

「私、ここカフェ・スヴニールの店主、レーガンと申します。」

レーガンはさぁ、とお盆を差し出した。

「あ、ココア、いただいていいですか?」

私はマグカップを手に取った。レーガンはティーカップを手に取り窓辺のソファに座った。レーガンは朝日を受けて彫刻のように美しく光を放っていた。ふぅとレモンティーに息を吹きかけるその姿に目が離せなかった。

「さて、サラさん。今日からどうしましょう?」

レーガンの言葉にハッと我にかえった。そうだ、ここに私の帰る場所は無いのだ。私はココアに目を落とした。ふわふわと上がる湯気が私の目を温める。ぼやんと視界が揺らいだ。

「・・・私は・・・どうすればいいのでしょう?」

なまあたたかい雫が頬を伝ってココアに波紋をつくった。

レーガンはベッドの横にしゃがみこみ、私と視線を合わせた。

「サラさん。私昨日から考えていたのですが、ここに住んではいかがです?私ひとり暮らしですが、部屋は余るほどあります。」

と、にっこり微笑んだ。

「そんな!いいんですか?」

「ええ、構いませんよ。ただし条件があります。」

レーガンはいたずらっぽい笑みを浮かべひとさし指を立てた。

「条件?」

「ここで働いていただきます。家賃は給料から差し引きということで。」

「でも、私カフェで働いた経験なんてありませんよ?」

「そんなこと気になさらないで。働けば次第に覚えますよ。」

レーガンはさっと立ち上がり残ったレモンティーをくっと飲みほした。

「どうです?働いていただけますか?」

レーガンのもとに置いてもらわなければ私はここで生きていけないだろう。

「分かりました。私をここに置いてください。なんでもします!」

レーガンは私の言葉に満足そうにうなずいた。

「では、今日はカフェはお休みにしてサラさんのお部屋の片付けといきましょう!」



私は家の中を一通り見て回り、二階の南側の出窓がついた部屋を選んだ。店に置いていた少ない荷物をもって部屋に戻ると、青い部屋のドアに金の字で『sara』と彫られていた。

「いつの間に・・・?」

私が不思議そうに字を見ていると、レーガンが隣に立っていた。

「気に入ってもらえましたか?」

「これ、いつの間に彫ったんですか?とても綺麗な金色ですね。」

「ふふふ。それはよかった。」

レーガンは得意げに笑いドアを開けた。

「・・・っ!?」

そこには綺麗な家具の数々が誇らしげに並んでいた。

「なんで!?さっきは無かったのに!」

私は家具をひとつひとつ見て回った。大きな窓の傍に暖かそうな深紅のベッド。その脇にはステンドグラスのスタンドライト。反対側の壁際には木製の大きな机とその上に乗った花を象ったランプ。その横にはたくさんの本が並べらんだ背の高い本棚。そして、

「ピアノ!」

私は壁際にあるピアノに駆けつけた。それはグランドピアノではないが、深い茶色で、猫脚の楽譜立てに美しい彫刻が施された立派なピアノだった。

「サラさんはピアノがお上手なようなので、用意させていただきました。」

「どうしてそれを?」

「さぁ、なんででしょう?」

レーガンは意味ありげな笑みを浮かべ、ピアノをさらりと撫でた。

「それでは。私は明日の仕込みをしますので、用があればおりてきてください。」

そう言ってレーガンは部屋を出ていった。

不思議な感覚を覚え、私はぼうっと立っていた。






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