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時竜と守護者達  作者: 桐谷瑞香
第1章 交易の街の冒険者ギルド
9/40

(幕間)銀髪坊ちゃんは走り出す

 ルシアと一緒に旅をすることになった。

 旅というだけでも嬉しいのに、優しくてかっこいいルシアと一緒なら、もっと楽しいはずだ!

 昔から父さんの仕事の関係で、屋敷から出るのを止められている。出る場合は、護衛の人間を連れていきなさいって言われているけど、そんな人と一緒でのびのびと行動できると思う?

 堅苦しくて嫌になっちゃって、最近は屋敷から脱走するのが日課になっていた。適当に一人でぶらぶらするのも楽しいけど、少し味気ない。

 だから何となく出会った人を捕まえて、連れ回そうとしたけど、良さげな人たちはたいてい町の人。僕がグレイスラーの息子だって知っている人ばかりだった。

 事情を知らない旅人は、厳つい男たちばかりでどうにも近寄りにくい。

 今日も一人で人の目を気にしながら、町を回るか……と思っていると、ひょろっとした小柄な人と会った。どうやら旅人らしい。口調はぞんざいだが、素直に謝ったりと、どこか優しさも感じられる人だ。

 一瞬、この人も自分を狙っている人間かと思ったが、泣いているのを見て、それはないと思った。優しい人間が自分を狙うはずがない。

 そしてルシアの髪を見たとき、それは確信へ変わった。

 顔をじっくりと見ると、とても可愛かった。お父さんの知り合いの女の子と何度か会ったことあるが、今まで見た誰よりも強く目を引いた。

 女を泣かせちゃ、男として失格だ。

 ルシアが笑顔でいられるように、僕は精一杯頑張って、町の中を案内することにした。



 ルシアは旅の途中でここに寄ったらしい。交易の街だから、通り道にする人は多いよね。そしてまた旅立つという。とても残念だった。美味しかった料理の味を忘れるくらい。

 それならルシアと過ごす時間を全力で楽しもう! 彼女の記憶の中に、いつまでも残るくらいに。

 初めから終わりまで、ルシアは明るい顔で町中を見ていた。帽子を脱げば、もっと表情が見えるのにと思った。それを言おうと何度も思ったが、結局言わなかった。

 お父さんから、人が他の人と違うことをする場合は、それなりの覚悟を持っておこなっていると言っていたからだ。

 陽がだんだんと落ちてきた。そろそろ帰らないと、本格的に捜索部隊が出てきてしまう。

 ルシアへのプレゼントを買って、それをあげてから別れよう。

 そして渡したところまでは、よかったのだが……まさかのタイミングでさらわれてしまった。しかも男たちはルシアに危ないことをしようとしている。必死に止めるが、力を持たない僕は無力だった。ルシアの抵抗もむなしく、二人揃って連れて行かれた。

 自分だけが痛い目にあうなら、別によかった。お父さんたちのきまりを破って出てきた罰だから。

 でもルシアは違う。僕が巻き込んだんだ。ルシアだけは助けなきゃ……!

 そう思ったけど、やっぱり力がない僕は叩かれるしかなかった。

 悔しい。ルシアが泣く姿をもう見たくない。

 誰か――と思ったとき、黒髪の男が険しい表情で部屋の中に入ってきた。誘拐犯の仲間の襟を持ち、ぞんざいに壁に叩きつける。

「ルシアはどこだ」

 とても低く、聞く人を震わせる声。この人、相当怒っている。

 彼に向かって部屋の中にいた男たちが、拳をかかげて襲っていった。それをあっさりとかわし、背中を両手で叩く。素手では危険と悟った男が短剣を出すが、それを握っている手首を持ちながら、背負い投げされていた。

 つ、強い。こいつはなんだ……!?

 そいつは僕をちらりと一瞥して、椅子と一緒に縛っていた縄を、奪い取った短剣で切ってくれた。

「キース、こいつを頼む」

 後ろから金髪碧眼の男が息を切らせて入ってくる。

「了解。お願いだから殺さないでね。事後処理面倒になるからさ」

「殺さないようにしているから、剣を抜いていないだろう」

「いや、お前の力強すぎて、素手でも充分殺せるから」

 その言葉には頷ける。床の上で悶絶している人を見れば、一目瞭然だからだ。

 黒髪の男はルシアがいる奥の部屋に行き、激しい音を立ててから、小柄な少女を抱えて出てきた。無事でよかったとほっとしたが、自分は何もできず、この男にあっさりと救出されたことが、どことなく悔しかった。



 そして事件発生から翌日、僕はお父さんに呼び出された。

 帰ってきたときは怒られなかったので、一晩たって落ち着いたところで、怒られるのだろう。おずおずとしながら部屋の中に入る。

「リオ、お前はルシア嬢とは仲がいいのか?」

「いいんじゃないかな? 一日話していても、飽きなかったし」

「そうか。彼女は旅の途中だと言うが、どこに向かっているか知っているか?」

「たしか西にあるクロース村って言っていたよ。知り合いがいるんだってさ」

 お父さんの目が軽く見開いた。何か言ってはいけないこと、言ったかな?

「なら、おそらく彼女は断らないだろうな。――実はリオ、お前を一時的にこの屋敷から遠ざけることに決めた」

「え……!?」

 初耳だ。むしろ、しばらく屋敷から出られないと思っていた。

「以前から言っているように、私の利権や金を狙う者が周囲に溢れている。これからは、それを狙って、お前をだしに使おうという人間も多くなってくるだろう。……一気に事業を拡大したツケだ、迷惑かけてすまない」

「いや、今回の事件は、僕ももう少し気をつければよかったことだから……」

「それでも根本的な原因は私にある。そこで今後も迷惑をかけると思い、いっそのことお前をこの町から離れさせた方がいいと思ったんだ。――クロース村の神殿に、私の親戚の男性が勤めている。神殿は争いを禁止している不可侵な場所だ。そう簡単に侵入してこないだろう」

「つまりここよりも安全だから、そっちに行けってこと?」

「そういうことになる。こっちには友人もいるだろうし、心細くなるのはわかっているが……」

「いいよ、行くよ」

 即答すると、お父さんは驚いていた。

 別にこの町がとびきり好きというわけではない。親しい友達もいないし、勉強も家庭教師をつけて、仕方なくやっている。この環境を維持したいとは思わなかった。

 むしろ新しい世界にでたい。

「その村なら自由に遊んでもいいんでしょう?」

「実際の村の状況にもよるが、たぶん大丈夫だろう。そこに住んでいた人に聞くと、子どもたちは外でよく遊んでいると言っていた。人の出入りも多くない村だから、不審者も入りにくいだろう。それと竜の加護がある関係で、闇獣の被害もない」

「なら決まりだね。どうやって行くの? 馬車でも走らせてくれるの?」

「クロース村まではいくつか危険な箇所も通るから、護衛を雇って、馬で移動してもらうことになる」

「護衛……?」

「お前を助けてくれた冒険者ギルド所属の二人と、ルシア嬢に頼もうと思う」

「ルシアも!?」

 思わず前のめりになると、お父さんは表情を綻ばした。

「ああ、彼女が承諾してくれればな。まあ、彼女もクロース村に行くと言っていたのだろう、おそらく断らないはずだ。……ギルドの二人の実力は確かなものだった。依頼もきっちりと請け負っているし、聞いている限り好印象の青年たちだった。それから判断して、あの三人ならお前に任してもいいと思う。どうだ、リオ。あとはお前の意見だけだが?」

 外に出るだけでなく、ルシアとまた一緒に時間を過ごせるとは!

 絶対に一緒に行くよう、説得してみせるぞ。

 ただ……、他の二人が一緒なのはちょっと嫌だった。たくさんお喋りできないじゃん。でもルシアの身の安全を考えると、しょうがないか。今はお前たちに護らせてやる。

「僕はいいよ、お父さん。あの三人はとても強くて、頼りになりそうだから」



 そしてどきどきしながら、出発の朝を迎えた。

 なんと乗馬で行くらしい。動き安さを重視したそうだ。

 僕、乗ったことがないだけど、大丈夫?

「リオ君は交代で乗せていこう。初めは……ルシアさんでいいかな?」

 ズボンをはき、露出の少ない服を着て、帽子をかぶったルシアは軽く頷いた。馬に乗れる女の人ってあまり聞いたことがないのに、さらに他の人も乗せられるの!?

 可愛いだけでなく、やっぱりかっこいいんだな、ルシアは。

 キースとかいう男に馬に乗らされると、その後ろにルシアが飛び乗った。手綱を手に持って、僕のことを挟んでくる。あれ、やけに近くない……?

「ルシアさん、やっぱり僕のところにリオ君を乗せようか。ラッセルが変な顔しているし……」

「大丈夫だ。ただし戦闘になったら、攻撃はそちらに任せることになるだろうが……」

「むしろ逃げてもらった方が、こっちとしてはやりやすい。子どものおもりは任せたぜ」

 ラッセルが素っ気なく言うと、ルシアは鼻で笑い返した。

「そう言っていると、ラッセルの背中が狙われそうになったとき、助けないぞ?」

「お前にオレの背中を護るなんて、百年早い。せいぜいそいつを道端に落とさないよう、気をつけろよ」

 ……僕、完全にお荷物扱いだな。事実だから否定しないけど。

 それにしてもこの二人、ルシアとやけに馴れ馴れしい。僕と出会う前から会っていたらしく、どこか先を越された感があった。

 でも、ここからルシアとの交流を深めればいいんだ。

 キースを先頭にして、町から離れていく。その後ろを僕を乗せたルシアの馬が走り出し、ラッセルの馬が後を追った。


 初めて出る、外の世界。

 少しの不安と楽しみをまじえながら僕は走り出した。



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