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時竜と守護者達  作者: 桐谷瑞香
第2章 水竜の神殿を持つ町
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2-4 意図不明の疑い(2)

 ラッセルに支えられ、リオに心配されながら宿に戻ると、神官の息子であり学者アルフィーさんとちょうど宿の廊下で鉢合わせた。布を被った籠を抱えている。

「どうかされたんですか?」

「ちょっと背中を打っただけです。ご心配なさらずに」

 私は笑顔を作りながら言ったが、彼は眉をひそめたままだった。

「湿布とかありますよ。差し上げましょうか?」

「大丈夫ですから、気にしないでください」

 きっぱり言い切り、ラッセルに引きずられるようにして部屋に向かった。

 後ろを歩いていたリオが唐突に止まった。そして眼鏡をかけた灰色の髪の青年に向かって振り返る。

「ねえ、お兄さん。盗まれたことが町の人に知られると大変な物って、何かある?」

「つまり、この町で一番重要なものということですか?」

 リオがこくりと頷く。ラッセルは部屋の前で立ち止まり、少年の様子をじっと見た。アルフィーさんは手を口元に当てて、軽く考えてから口を開いた。

「……水竜の石像が握っている、宝珠かと私は思います」

「あの石……?」

「ええ。とても重要なものですよ。あれがなければ、皆様に加護を与えられませんから」

 ラッセルから離れて、私はゆっくりアルフィーさんに近づく。

「あの宝珠は盗まれていませんよね?」

「盗まれたら、とんでもなく騒いでいます。私が出てきたときは、そんな気配はありませんでしたよ」

「ではもし、あの宝珠が似たような石とすり替えられたら、気づきますか?」

 アルフィーさんの目が大きく見開く。振り返ると、腕を組んで壁に背を付けていたラッセルが背を離していた。

 彼に向かって、言葉を真っ直ぐ放つ。

「ラッセル、神殿に行こう。何かが密かに起こっているかもしれない」

「お前な、その考えは乱暴すぎだ。あまりにも突飛すぎる。そうだとしても確かめる術はない。石なんか、色や形さえ整えれば、似たようなのは作れる。他の石と特別な石を、見極めるなんて……」

「……不可能ではないです」

 アルフィーさんがおずおずと言葉を発する。ラッセルの鋭い視線が向けられると、びくりと肩を震わした。それでも彼は怯まず続けた。

「ただし、その条件を満たしている人間が、いるかどうか……」

「どんな条件だ?」

「水竜と反対の竜の力を持つもの――火竜の加護を受けた人が触れて反発すれば、その石は正しいものとなります。偽物なら何も起こりません」

 私はちらりとラッセルを見ると、彼は頭を右手で激しくかいた。そして横目で私のことを見てくる。

「お前、怪我は?」

「歩ける。心配しなくてもいい」

「……やせ我慢するなよ、オレたちの前では」

 ラッセルはアルフィーさんの前に踏み出すと、彼は半歩下がった。

「お前は時間あるか?」

「な、何でしょうか……?」

「この町に住んでいたことあるんだろう? オレたちの仲間を助けるために、力を貸してほしい。お願いだ」

「僕が貸せる力なんて、何も……」

「この町全体の、おおよその場所くらいわかるだろう。オレも多少回ったが、まだ完全に把握できたわけじゃねえ」

「僕もこの町には久々に来たから……」

 ラッセルの眉がだんだんとしわが寄っていく。このやりとりがもう少し続いたら、怒り始めるぞ。

 キースのことを考えると、早く盗まれたものを確定させて、真犯人を見つけたい。

 ラッセルの視線を遮るかのように、二人の間に入った。

「アルフィーさん、とりあえず神殿まででいいので、一緒に来てくれませんか? 石に触れるとなった場合、関係者が傍にいた方が、誤魔化しやすいので……」

 彼にしかできないことを詰め込みながら言うと、彼の返答が鈍った。これはあと一押しだ。

「アルフィーさんは学者なんですよね。もし反発するとなった場合、その現場を見てみたいとは思わないのですか?」

 彼の立場を踏まえた上で言うと、さらに返答に詰まり、最終的には首を縦に振ってくれた。

「わかりました。神殿までですよ?」

「ありがとうございます!」

 お礼を言うと、彼は荷物を置いて支度をし始めた。



 アルフィーさんに連れられて神殿までの最短距離を歩いたことで、思った以上に早く辿り着いた。町から神殿に通じる道の脇で、自警団の人たちがたむろっているのが見えた。思わず物陰に身を潜める。何やら難しそうな顔をして、話をしているようだ。

「お前の言うことが正しいかもしれねえな……」

 ラッセルが頭を軽く叩いてくる。それを手で振り払った。

「憶測で進める前に、確かめるのが先決と言ったのは誰だ? ……どうやら、あの中にいる集団にさっきキースを連れ去った男もいる。あまり顔を合わしたくないな」

「つまりお前があの場にいた人間だって、気づかれなければいいんだろう?」

 ラッセルがにやりと口元に笑みを浮かべると、私の帽子に手を付けるなり、さっと取り払った。少し長い赤髪が露わになる。それを見たアルフィーさんが目を丸くしていた。

「髪を下ろして、女の口調で話をしていろ。女って結んでいるか、下ろしているかで、随分と雰囲気変わるらしいぞ」

「知ったような口の聞き方を……」

「さあさあ、早く行くぞ」

 ラッセルがアルフィーさんの肩を叩くと、彼は我に戻り、そっと男たちを指で示した。彼らは背を向けて、神殿の裏手側へ向かっていた。

「神殿を回るのは意外と時間がかかります。今のうちに行きましょう」

 アルフィーを先頭にしてラッセルが続き、私はバレッタを外し、髪を流した。そしてハーフアップにして、バレッタで軽く留めておいた。脱いだ帽子はリオの頭に乗せて、平静を装いながら歩き出す。

「お三方は自分の知り合い、ということで話を合わせましょう。その方が追求されにくいですから」

「すまん、ありがとな」

「いいえ。先ほどお願いされたことを、断ってしまいましたから」

 私ことをちらりと見てくる。さっき神殿に来た際のやりとりのことを言っているらしい。あの程度、別に貸しを作ったわけではないのだが。

 神殿の中に入ると、先ほどと同じように、水竜の石像の周りはそれを見に来た人で賑わっていた。前足には、変わらコバルトブルー色の丸い宝珠が握られている。

 そそくさと近づいて見上げたかが、特に違和感はなかった。

 そして人が少なくなってきたところを見計らって、ラッセルを前に出した。手を伸ばそうとした瞬間、声が投げかけられる。

「アルフィーじゃないか。忘れ物でもあったのか?」

 アルフィーさんの父でもある神官が、部屋の奥から出てくる。彼は父の元に歩いていった。

「はい、その通りです。実は忘れ物をしまして……。父上、どうかされましたか?」

 彼が父親の背中を押しながら奥に行かせる。その隙にラッセルは立ち入りを拒むひもをくぐって、軽く珠に触れた。珠がやや揺れ動いただけで、何も変化はない。青い色を帯びた珠が佇んでいるだけだった。

 ラッセルと顔を見合わす。

 アルフィーさんの仮定が本当なら、これは偽物のはずだ。

 もう一度確かめようとしたが、後ろから眉をひそめた老人に一喝された。

「貴様ら、何をしておる! 神聖なる水竜様の前で!」

 私はラッセルを引っ張り、とっさに彼の腕をぎゅっと抱きしめた。

「ご、ごめんなさい。彼がどうしても触ってみたいって言うから……」

「そんなことしても加護は得られんぞ! 貴様みたいなちゃらちゃらした男が、加護なんか得られるか!」

 ラッセルの眉がぴくりと動く。ここで怒鳴り返してしまうのは、非常に分が悪い。彼を軽く睨みつけると、口を一文字にされた。怒りは耐えているようだ。

 私は老人に対して深々と頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした。あとで彼には厳しく言っておきますね」

 やんわりと言いながら、石像から足早に離れる。そしてラッセルを引きながら、神殿の外に出て行った。外に出ると、雲が空を覆い始めたのに気づく。

「――雨、降りそう」

「ああ。……おい、腕放せ」

「ごめん」

 遅れてきたリオが横にぴったりとくっつく。そして軽く私の袖を引っ張ってきた。

「早く行こう。自警団の人たちが来たら面倒だよ」

「そうね。次の動きも考えないね」

 神殿を見ながら、大股で歩き出すラッセルの後ろを歩いて行く。アルフィーさんのことを置いてきたのが気がかりだったが、もともと神殿までと言っていた人だ。お礼はまたの機会にしよう。

 今回の無茶な行動により、あれは偽物とわかった。

 だがいつから偽物はあそこに置かれているのだろうか。先ほど私たちが見たものが、本物だったという保証すらない。

 また、誰がどのタイミングで偽物と気づいたのだろうか。

 謎は深まるばかりで、ほとんど事態は進展していなかった。



 町に戻り、ラッセルは無言である場所に向かっていた。行き先を聞くと、「オレたちのホームだ」と言うだけ。

 隣ではリオが不機嫌そうな顔をしている。

「リオ?」

「……一瞬本物の男女みたく見えたのが、僕としてはすごく腹立たしかったよ」

「はい?」

 むすっとしながら、私を追い抜かしていった。

 昔叔父に聞いたのだが、何かを誤魔化す際は、家族か夫婦の関係が一番いいと言われたのを思い出し、それを実行しただけなのだが、何か気に障ることでもしただろうか。

 あそこでおじさんに騒がれては、元もこうもない。ささやかだが、演じる必要はあった。

 ラッセルに連れてこられたのは、ウィルロード町の冒険者ギルドだった。マルカット町よりも小さく、出入りしている人も少ない。

「マルカット町は流れ者が多かったが、この町はあまりギルドの人間は訪れねえんだ」

「なぜ?」

「仕事が少ないからだよ。ギルドに頼むよりも、自警団に頼んだ方が速く事を終わらすことができるらしい。それだけ自警団の人数が多いって事だろ」

 扉を押すと、こざっぱりした風景が広がっていた。ギルド職員が欠伸をしながら机の前で座っている。ラッセルのような人は他にいないようだ。

 彼は真っ直ぐ進んでいき、ギルド職員の前にある机の上に両手を付いた。

「おい、ここに盗み関係の依頼はきていないか?」

「きていませんよ、ラッセルさん。今朝も言ったでしょう。この町は今まで貴方たちが旅してきた町のように、依頼がひっきりなしにくる場所ではないって。何か情報がほしいのなら、自警団の人に掛け合うのが一番いいです」

「その自警団が信用ならねえんだよ……」

 はあっと溜息を吐きながら、視線を右に向ける。そこにはどこの宿にもあった、祭りのポスターが張ってあった。

「――そういや、祭りの最後に、水竜をこの地に下ろすって聞いたが、どうやってやるんだ?」

 職員がかけていた眼鏡を軽く直す。

「水竜の石像は見たか? あそこに青色の宝珠がある。それを加護を受けた人間が触れると、そこから水が吹き出てくるんだ。それが水竜を下ろすってことらしい」

「……自分が加護を受けていると宣言する場なんて……誰がするだ」

 ラッセルの語尾が強くなる。職員は肩をすくめた。

「加護を得られる人間は特別な人だ。それこそ名誉なことだぞ。町総出で祝って、披露することになる。多くの人間が、その立場になりたいと言っているぞ」

 黒髪の青年はあからさまにため息を吐いた。熱演しながら言った職員はむっとしていたが、ラッセルは気にもせず、前髪を軽くかきあげた。

「まあいい……。今年は誰がやるんだ?」

「まだ決まっていない」

「は?」

 うろんげな目で職員を見下ろす。

「だからまだ正式には決まっていないんだよ。祭りの前夜に水竜を下ろして加護をもらうことで、初めて決まる。つまり今日の夜か。加護を下ろすと神殿が神々しく光るから、いつも祭りの直前にやるんだよ」

「誰がそれをやるかは、だいたい検討は付いているんだろう?」

「いや、部外者はさっぱりわからない。神官と本人、そして家族しか知らされない」

「まあそうだよな。……本人は喜んで引き受けているのか?」

「当たり前だろう。水竜の力を受けるんだぞ。誰が嫌がるんだ?」

「いるんだよ、そういう人間も」

 ラッセルは呟きながら右手をぎゅっと握りしめていた。

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