ファイルNo.17
トーキョーって、よく分からないものがいろいろある。
たとえば、いまふらっと立ち寄った喫茶店。メニューに「ファイルNo.17」っていうのがあるじゃない。
……コーヒーだよね、これ。
「グァテマラ」の下にあるから、きっとコーヒー。
いやいや。グァテマラってのが何か分からないけど、その上に「マンデリン」があるから、きっとコーヒー。
ごめんなさい。ウソです。さらにその上の上の上に「ブレンド」があるから、きっとコーヒー。
あ。その下の「ブルーマウンテン」でコーヒーって分かるか。
とりあえず、「ファイルNo.17」を頼んでみた。
香り高く、ほの苦く、そして黒かった。ふうん。これが「ファイルNo.17」か。ちょっと気に入っちゃった。マスターに「どんな豆?」って聞いてみたけど、「極秘だから」って、教えてくれなかった。
「飲んだ感想は?」
逆にマスターから聞かれた。
「一に曰く、和ぐを以て貴しとし、忤ふること無きを宗とせよ」
あれ。何だか変な事言った。マスターの方を見ると、にこにことうなずきながら「それで?」。
「二に曰く、篤く三宝を敬へ。三宝はとは仏・法・僧なり」
うわわ。何いってんだろ、自分。マスターを見ると、うんうんにこにこ。恥ずかしさもあって、「とにかく、おいしかったです」とお代を置いて辞した。
ちょっと、トーキョーのことが分かりかけてきたかなと思たら、やっぱりよく分からない。
ふらふらっと立ち寄った別の喫茶店で、「ファイルNo.17」を見つけたのでまた頼んだのだけど、どうも味が違う。
香り高飛車、ほの苦々しく、そして薄黒い。これって、「ファイルNo.17」か?
記憶も曖昧になったようで、貴しをもって和とするのだったか、努力・友情・勝利が三宝かも分からなくなった。
げっそりしたのでそこのマスターとも話さずに出た。
トーキョーがとても分かりやすく、分からないものにあふれているのだと分かり始めた時、二店目の喫茶店についての醜聞を聞いた。
あの店の「ファイルNo.17」は、最初の店のをコピーしていたのだと言う。
だから劣化していたのだ。やはり、分かりやすい。
おしまい
ふらっと、瀨川です。
他サイトの同タイトル企画で執筆・出展した作品です。
志とかもコピーすると簡単に劣化するのかなぁとかそんな感じ?