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第7話普通であって普通じゃない

 いきなり戦えなんて言われて、戦うわけにもいかず、とりあえず説得してみることに。


「あのさ、足怪我しているのに大丈夫なのか?」


「そんなの関係ない。勝つまでが私の仕事」


「仕事って言われてもな。昨日の時点で決着はついたし、それに足を怪我している相手に本気で戦えないよ俺は」


「カエデ君ならきっと勝てるよ。私が保証するから」


「いや、だからそういう事じゃなくて」


 勝ち負け以前に、怪我人と戦えだなんて俺にはできない。それは人としてやってはいけないことだと俺は思うから。


「戦わないと気が済まない。それが主の命令」


「命令って、お前は機械じゃないんだから、少し自分の意思を持てよ。死に急ぐくらいなら、命を大切にしろ」


「……」


 俺の言葉を聞いて、考え出す馬少女。そうだ、それでいい。


「何かカエデ君、格好いい」


「格好いいとかそういう問題じゃなくてさ、俺は嫌なんだよ。弱っている相手にトドメを刺すような事をするのが」


 俺が勝てるかと聞かれたら、何とも言えないけど、こういう無意味な戦いは避けたい。


 そして数分後。


「……分かった。殺せるようになるまで、ここにいる」


 彼女が導き出した答えがこれ。


「う、ん? 何でそうなった?」


「やった。村人が一人増えたー」


「喜んでいる場合か! 」


「それが一番いいと、フォルナ思った」


「どこがいいか、教えて欲しいんだけど!」


「いいじゃない。二人で同じ家に暮らせば。空き家がないし」


「だからどうしてそうなる?!」


 自分を殺そうとしている人と同じ屋根の下とか、誰が望むんだよ。いたとしても、相当Mな人間くらいだぞ。


「分かった」


「お前も納得するなー!」


 ということで、何故か俺は馬少女フォルナ(さっき自分で言っていたので、そう呼ぶことにした)と同じ家で暮らすことに。


(誰か助けてくれー)


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 その日の夜、フォルナ用の寝具などの準備を全て終え、疲れ切ってしまった俺は、ヤケと言わんばかりにルチリアの家で愚痴っていた。


「もう、どうしてもっと面倒くさいことにするんだよ。誰が好き好んで自分を殺そうとしているやつと、同じ屋根の下に住まなきゃいけないんだよ」


「大丈夫よ。何かあったら私達が守るから」


「何かあったらだと遅いんだって」


「まあまあ」


 ちなみにフォルナは現在眠ってしまっているので、今日は何も起きないと安心しているが、明日からが問題な気がしてならない。いつ殺されるか、常に警戒しなければならない日々が俺を待っている。


「別に私も考えなしで、彼女を招いたわけではないのよ」


「何か考えがあるのか?」


「彼女はあの遺跡の地下にいた。つまりあの遺跡について何か知っているかもしれないわ。それに一つ気になる事があるの」


「主の事か?」


「そう。あの遺跡にはまだ他にも誰かいるのよきっと。そしてその主が、魔物と何かしら関係があるのかと私は思っているの」


「でも話してくれるかな彼女」


「それはカエデ君の腕次第よ」


「結局俺次第って事かよ」


 そんな事だろうとは思っていたけどさ。


「でもこの世界って不思議だよな」


「不思議? 何が?」


「ほら、ルチリア達もそうだけど皆人間というよりは、動物に近いからさ。ちょっと不思議だなと思って」


「前にも言ったけど、この島には人ならざる者達が沢山住んでいるの。だからあのフォルナって子が馬だというのは不思議じゃないの」


「じゃあ他から見ると俺の方が不思議ってわけか?」


「村を出てみれば分かると思うけど、皆不思議がると思うわ。まあ、カエデ君は異世界から来た人だから仕方が無いと思うけど」


「まあ、そうだよな」


 この世界では当たり前の事でも、俺にとっては当たり前ではない。それは逆でも言えることで、俺にとって当たり前の事でもこっちの世界では当たり前ではない。つまり俺が普通の人間なのは、この世界では普通ではない。その事実に俺はこれからどう向き合えばいいのか、それはこの後ゆっくり考えよう。


「さてと、そろそろ家に戻るわ。おやすみルチリア」


「おやすみ、また明日ね」


 話も区切りがついたので、俺は立ち上がり外に出る。今日も綺麗な星空だ。


(普通であって、普通じゃない……か)


 俺は本当にこの先もこの世界にいて大丈夫なのだろうか?

 今は村にいるだけだから、何も言われていないけど、ルチリアが言っていた通りこの村を出て街に行ったら、果てしてどんな目で見られるのだろうか?


(まあ、今は考えても意味ないか)


 あくびをしながら自分の家の扉を開ける。


 ヒュン


 そして同時に何かが飛んできたが、ギリギリ避ける事に成功。


「あ、危ねえ」


 再び家の中を覗き込む。丁度扉を開けた先の真っ正面、そこには明らかにフォルナが設置したであろう弓矢があった。


「おいおい、こんなのいつの間に……って、うわっ!」


 家に足を踏み入れた瞬間、またどこからか弓矢が飛んでくる。えっと、これはつまり、俺の家は既にフォルナに占領されたということでいいのかな。


「ふ、ふざけるなー」


 その日俺がようやく眠りにつけたのは、一時間後。全ての罠を解除し、疲れ切ってしまった俺は、翌日の昼頃まで起きれなかった。


 そして案の定、忘れかけていた筋肉痛は再発とともに悪化していました。

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