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第66話分からない答え

 十分後、モカが寝ている部屋から出た俺はため息を一つ吐いた。


 村の移転か。


 それともモカ一人でラビリンズ王国へと向かわせるか。


 二つの究極の選択肢。


 モカは俺が彼女についていく事を最後まで承諾しなかった。村の安全の為にとは言っていたが、恐らく真意はそこにはない。


(モカはきっと雫が自分の為に身体を張った事を気に病んでいるんだろうな……)


 だからその雫に危害が及ばないようにする為にも、ラビリンズ王国へ一人で戻ろうとしている。恐らくその決意はとても固い。


(こんな状況の時、俺はどうすればいいんだ)


 ルチリアだったらこういう時どうしたのだろうかと考えてしまう。特にポチの説得に関しては、俺の方より彼女の方が向いていたはずだ。


(って、今はいない人の事を考えても駄目だよな)


 ついルチリアの事を考えてしまうのは、俺がまだ彼女の死を受け入れられていない証拠だった。もう一ヶ月以上経つのに、俺はまだルチリアが本当は生きているのかと考えてしまう。


 そんな事はあり得ないと分かっているのに、どうしても俺は……。


「俺ってやっぱり駄目なんだな……」


 自分がこんなにも駄目な人間だなんて思いもしなかった。


「駄目人間なんかじゃないよ、楓は」


 そんな俺の言葉を否定するかのように声がする。声の主はこの二日ずっと寝ていた雫だった。


(そう言えば今、モカと雫が同じ家で暮らしているんだっけ)


「よく眠れたのか、雫」


「うん、ぐっすり眠ったからスッキリした」


「なら良かった」


 俺が何気なく座っていた椅子の正面の椅子に雫は座る。こうして彼女としっかりと会話をするのは少しだけ久しぶりな気がした。


「モカさん、目を覚ましたの?」


「ああ、ついさっきな。多分雫と同じくらいだと思う」


「よかった、目を覚ましてくれたんだ」


 やはり心配だったのか安堵の息を吐く雫。俺はその様子を見て、ふとした疑問が浮かんだ。


「なあ、雫とモカはいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」


「ルチリアさんの事件の少し前からだけど、特に仲良くなったのはこの一ヶ月の間かな」


「へえ」


 俺の知らない間にどうやら二人は親友と呼べるくらいにまで仲良くなっていたらしい。


(まあ、同じ家で暮らしてたら、自然と仲良くなるものだよな)


 少しだけ羨ましくなるが、同時に俺の中にはある感情が渦巻いていた。


「……」


「どうしたの急に黙って。もしかして嫉妬しちゃった?」


「違う、そうじゃない」


「じゃあ何?」


「なあ雫、正直に答えてほしい事がある」


「どうしたの改まって」


「雫は……モカが傷ついたら、この前みたいに戦うのか?」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 二日前のあの事件から俺は、雫に対して危機感を感じていた。もし彼女が先日みたいに、モカの為に剣を取って、暴走してしまうような事になれば、幼馴染としては見ていられない。


「それは……分からない。この前はモカさんを侮辱されたから、我を忘れていただけだし」


 雫はそう冷静に答える。けどその言葉の端々は少しだけ震えていた。


「それが今のお前にいは一番危ないんだ。この前は俺が何とか止められたけど、もしあの場所に俺がいなかったら、お前はどうなっていたんだ」


「だから分からないってば。でもあの時も言ったけど、カルマにあの言葉を言われた時からもう何も覚えていないの。気づいたら楓に背負ってもらっていて、とても怖くなった」


「やっぱりそうなんだな」


 あの時の雫は明らかに常軌を逸していた。何とか止めることができたものの、もし次があればその時彼女がどうなってしまうか分からない。


「でもね同時に思った事もあるの。私にも誰かを守る事ができるんだって」


「けどそれは裏を返せば、危険な状況じゃないと、守るないって事だぞ」


「それはそうなんだけど」


「なら雫はこれからやっぱり戦いに出るべきではないと思う」


「え? でも、私も折角鍛えてきたんだから、戦わないと」


「その戦いにリスクがあるなら駄目だ。それにそれを誰よりも望んでいないのは」


「シズクちゃん、ごめんなさい。私があの時縁がを頼んだばかりに」


 彼女の親友であるモカだ。


「モカ、さん?」


 いつから聞いていたのかは分からないが、モカは柱の影から俺達の話を聞いていた。でも黙って聞いてられなくなったのだろう、ついにモカはその影から出てきてしまった。


「ど、どうして謝るんですか? あの時私も戦わないといけない状況だったんですから、モカさんが悪い事なんて一つもないのに」


「でも私が弱いばかりにシズクちゃんは、余計な力を使ってしまったんです。鍛えていたのだって、護身程度のつもりだったのに」


「どうして私が戦うのは駄目なんですか? 楓もモカさんも戦っているのに、私だけ何もできないなんてそんなの……」


「雫、戦うのが普通ではないんだ。戦わない事が普通なんだよ。俺はお前には傷ついて欲しくないし、誰かを傷つけてもほしくない」


「だから戦うなって言うの? 皆が傷つくのをおとなしく見てろって言うの? そんなのおかしいよ」


「そうじゃない。雫、お前には別の形で俺達を助けて欲しいんだ」


「違う形で?」


 それは元の世界にいる頃から彼女が頑張ってきた事。誰よりもずっと頑張ってきた事。それを彼女なら活かせると、俺は思う。


「雫は医者を目指しているんだろ? お前はそれでいいんだ、だからお前が戦う必要なんてないんだ」


「分かんない、分からないよ」


「雫?」


「私、どうすればいいか分からないよ!」


 雫はそう言うと自分の部屋に閉じこもってしまった。


「モカ、悪いけど雫の事」


「分かっています」


 俺はモカに一言だけ残して家を出る。そして俺はまたため息を一つ吐いた。


 どうすればいいか分からないのは俺だった。雫の事、村の事、モカの事。何が正しくて間違っているのか、俺はその答えを見失っていた。


(男として情けないな、俺)


 幼馴染すら説得できないなんて、本当に駄目人間なのかもしれない。

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