第6話筋肉痛と神と槍術
翌日、案の定筋肉痛の状態で朝を迎えた俺は、朝から体をまともに動かせずにいた。
「いてて、やっぱり無茶はするもんじゃなかった」
しかも今日から訓練が始まるというのに、こんな調子では先が思いやられる。
「大丈夫? 辛そうだけど」
「そりゃあ辛いけど、自業自得だからしょうがない」
「調子に乗ってあんなに作るからよ」
「男のくせに情けねえな」
「そういうお前だって、男みたいな口調しているだろ」
「お、オレ、私は昔からの癖なだけだ」
「それならそれで構わないけど」
ずっと気になっていたが、ポチは何故わざわざ一人称を私に言い直ししているのだろうか? それは機会があったら今度聞いてみよう。それよりもこの筋肉痛だ。何とかならないだろうか?
「今日の訓練やめておく?」
「いや、昼間でにはなんとかするから、訓練はするつもりでいてくれ」
「分かった。でも無茶だけはしないでね」
「ああ」
そんな感じで朝を終え、俺は午後の為に昼になるまでずっと部屋にこもっていた。
(筋肉痛で引きこもりだなんて、聞いたことがないよな普通)
あ、五時間ずっと大工している方がおかしいか。というか普通って何だ?
(昨日の馬といい、遺跡といい、謎なことだらけだよな)
この世界に来てからもう三日。この世界は未だに謎が多い。しかも村から出ていないので、この島がどんな風になっているかも分からない。そして俺がこの三日間一度も忘れていないのが、俺をこの世界に送ったあの声の主だ。一体何が目的で、俺の願い(?)を叶えたのだろうか? 謎ばかりが残る。
『そんなの妾の気まぐれに決まっておるじゃろ』
「そうか、気まぐれか……って、おわぁぁ」
突然あの声がしたので、ビックリして座っていた椅子から落ちてしまう。
「なんだよいたのかよ」
『随分失礼な事を言うのう。妾は言ったじゃろ? いつでもお主を見守っておると』
「いや、確かにそんなこと言っていた気がするけどさ。まさかこの世界にまでいるとは思っていなかったんだよ」
『いるのは当たり前じゃ。妾はこの世界にを守っている神と言っても過言ではないからのう』
「声だけのやつがよく言うよ」
というか自分で神と名乗るのって、大概痛い奴だよな。
「というか世界を繋ぐ者っていう設定はどこにいったんだ?」
『設定言うでない。現に妾はお主の願いを叶えたじゃろうが』
「こんな世界に飛ばしておいてよく言えるな。俺はこんな危ない世界に来たいだなんて思ったことがない!」
『つくづくお主は失礼な人間じゃの。お主がはーれむというやつを望んだのじゃろうが』
「こんなハーレムは望んでないぞ俺は!」
せめて普通の人間でハーレムを作りたかったよ。
『まあお主をこの世界に呼んだのは、もう一つ理由があるのじゃが、それはまたのちに話すとするから、せいぜい楽しむのじゃな。ハーレム生活を』
「あ、おい、まだ話は終わってないぞ」
呼びかけてみるが、反応がなくなった。どうやらいなくなったらしい。
(てか、神なら名前くらい名乗れよ)
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自称神と再会した午前を終え、午後からはいよいよ訓練が始まった。
「まずは持ち方なんだけど、基本的に利き手の方で槍の先端を持ってあげて、もう片方の手は柄の部分を持つの」
「こんな感じか?」
ルチリアに渡された槍は、彼女が使っている物より比較的短めな物で、初心者の俺でもある程度扱えそうな物だった。
「というかルチリアのそれ、身長とほとんど変わらないじゃん。使いにくくないか?」
「うーん、もう長く使っているから、すっかり慣れちゃったかな。カエデ君だっていつかは使えるようになるわよ」
「いつかは、ねえ」
そのいつかは、いつになるのだろうか? というかその前に俺はこの世界から去りたいんだけど。
「とりあえず持ち方はそれで大丈夫だから、次に攻撃のやり方の種類なんだけど、実は柄の持ち方によって使い方が変わって来るの」
「柄の持ち方によって?」
俺の槍のイメージって長く持って突進していくようなイメージしかないんだけど、他にもあるのだろうか?
「カエデ君のその持ち方だと、突きとかそういうのが主な攻撃方法だけど、柄の部分を短く持つと至近距離での戦闘ができるんだけど、私はあまり使わないかな」
「ふむふむ」
その後もルチリアの授業は続いた。槍は突き以外にも攻撃のやり方があるらしく、俺には到底できそうにないものもあった(例えば槍を回したりするとか)。下手したら怪我しかねないものばかりで、少し怖かったが、基本的な動作は大体教えてもらうことができた。
「よし、今日はこのくらいかな」
そんな感じであっという間に時間は過ぎ、終わりを迎えたのは夕方。昨日といい、今日といい、時間が過ぎるのはあっという間で、退屈しないで一日を過ごせていることに少し感激している。
「お疲れぇルチリアちゃん。終わったばかりで悪いんだけど〜、お客さんだよぉ」
「お客? 私に?」
「カエデさんにも、関係あるみたいだから〜、来てぇ」
「え? 俺も?」
俺にも関係があるとしたら、思い当たるのが二つなんだけど、どちらもあり得ないんだけどな。
「ルチリア、連れて来たぞ。お前達にお客さんだ」
ポチがそう言いながら、連れて来たのは……。
「って、またお前かよ」
「まだ殺してないから、終わってない。ここまで追ってきた」
「その執念深さ、あんたすごいわね」
案の定昨日の馬少女だった。まだ足を怪我しているらしく、到底戦いを申し込むには問題があるように見える。
「仕方がないから、カエデ君早速だけど特訓の成果を見せる時よ」
「いやいや、いくらなんでも無理だからな!」