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第47話手に残る感触と残る後悔

『アライア、しっかりしろアライア!』


『コウ……ヨウ?』


 禁断の扉が開かれてしまったものの、奇跡的に生き延びたアライアは、彼女を呼ぶ紅葉の声で意識を取り戻した。


『私……とんでもない事を……』


『詳しい話はあとで聞く。それよりも俺達もここから出ないと、いつ襲われるか分からないぞ』


『私が逃げるわけには……責任がある』


『そんなこと言っている場合か! 償うのは後にだってできるから、今すぐ行くぞ』


『カエデ……カエデは?』


『既に逃がしてある。後は逃げるのは俺達だけなんだ。だから……』


『ごめんねコウヨウ。私やっぱりいけない……』


 彼女が逃げないのは償うとかそういう理由ではなかった。もう自分に生きる未来がないと分かっていたのだ。


『黙っていようとはなかったの。でも私の身体はもう……』



『まさかお前……』


『ありがとう、私を愛してくれて……』



「それってもしかして、病気だったのか?」


『この世界にはね、獣化病というのが存在しているの。あなたは知らないのは当然だけど』


「獣化病?」


 名前から察するに、もしかして獣人が人としての理性を失ったりする事だったりするのだろうか?


『獣人はこうして言葉を話せて、普通に生活をできるけど、元は獣。だからいつその理性を失ってしまうか分からないの』


「でもそれは病気なのか?」


『病気、とは言えないかもしれないけど、理性を失う事は本来ならあってはならない事。でも私はそれにかかってしまった』


「だから逃げなかった、いや逃げられなかったのか」


『そう。でもあの人は、それを知っても私から離れようとはしなかった』


「じゃあ父さんも、母さんと一緒に……」


『あなたには残酷な話だったかもしれないけど、それが本当なの。そして私が今こうしてあなたを呼んだ理由は一つ』


「理由?」


 何もないはずなのに、突然音がする。その音は目の前からした。


(ま、まさか……)


『この城から出てしまう前に、私を……殺してほしいの』


 ■□■□■□

「そんな、楓にそんな事をするなんて……」


「出来るとか出来ないかとかではなく、それをしなければならないのです。それがカエデをあの場所へ誘った意味なのですから」


 モカから聞いた話、それは楓が実の母親をその手で殺さなければならないこと。あまりに残酷すぎるその話に、私は思わず涙を流してしまった。


「でもどうしてそれをモカが知っているの? モカはこの島の住人でもないんでしょ?」


「実は私、聞かされていたんですよ。アライア様から」


「聞かされていた? 何を」


「いつか彼はもう一度この世界に来た時こそ、私の本当の命が終わる時なんだと」


「何でそんなことを」


 それだとまるでどころか、未来予知をしていたような言い方だ。そんなの親として一番考えたくないことのはずなのに、どうして楓の母親はそんな事を。


「表には出ていませんが、実はこの世界には私達獣人が最も恐れている病気があります」


「病気?」


「それは私達が理性を失い、完全な獣になってしまうこと。それは予兆も何もなく突然起きるの」


「何……それ。じゃあモカにもあり得るってことなの?」


「はい。ルチリアさんもポチさんも皆があり得ることなんです。だから皆それに怯えながら日常を生きているの」


「でもさっき表には出てないって言ったから」


「知らない、とは言えないんですよ。全員がとは言えませんが、必ずどこかで知るきっかけがあるんです」


「だからモカも知っているって事なの」


「そういう事です」


 まだ私はこの世界にきて日が浅い。楓ほどルチリアちゃん達と仲は良くない。でもこんな辛い話を聞かされたら、黙ってなんていられない。何か救い出す方法はないのだろうか。


「救い出す方法なんて考えないほうがいいですよ。これは私達の宿命なんです」


「そ、そんなこと考えてなんか……」


「それよりも、どうやら皆さんが帰ってきたようですよ」


「え?楓達が?」


 村の入り口から何人かの声がする。どうやら本当に帰ってきたらしい。私はその中から楓の姿を見かける。私は彼の元によって声をかける。


「楓!」


「あ、雫。ただいま、待たせて悪かったな」


「そんな事どうでもいいの。それより楓は大丈夫なの?」


「大丈夫って何が?」


「それは、その……」


 言葉が見つからない。彼はまだ私があの事を知っている事を知らない。だから私はなんて言葉をかければ……。


「サンキューな雫」


「え?」


「心配してくれて」


「で、でも私は」


「俺は大丈夫だから」


 かえって楓に慰めれられてしまう私。何をしているんだろう。辛いはずなのに、何もできないなんて、


 幼馴染として失格だ。


 ■□■□■□

『この城から出てしまう前に、私を……殺してほしいの』


 あの言葉が村に戻ってもどうしても離れない。いやそれ以上に俺の手にはずっと残っている感覚がある。


(母さん……)


 俺はこの先どうすればいい。


「カエデ、入っていい?」


 村に戻ってからずっと部屋にこもっていた俺は、ルチリアの声で体を起こす。そういえばルチリアも話を聞かされたんだよなカグヤさんに。


「ああ、入っていいよ」


「ごめんね、一人になりたいのに」


 俺が返事を返すとルチリアは部屋に入ってきた。今はモカの姿もないので二人きりだ。


「どうしたんだ」


「皆カエデの事を心配していたから、私が様子を見に来たの」


「そんな事言ったらルチリア、お前だって」


「私も辛いよ……でもそれ以上に辛いのはカエデでしょ?」


 優しい言葉をかけられ俺は心が揺れてしまう。彼女だって色々聞かされて辛いのに、俺が弱気になったらルチリアは……。


「我慢していたなら泣いていいよ。その気持ち……私も一緒だから」


「ルチリア……俺……」


 あふれ出る涙。抑えようとしても抑えられない。


「母さんを殺しちゃったんだ。この自分の手で……。どうしようもできなかったんだよ! それ以外の選択肢なんてなかったし、何よりも俺に他に何かができる力なんてなかった!」


「うん」


「だから……辛いんだよ……今ここにいることが」


 同時に、俺の母さんへの贖罪の思いが止まらなかった。

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