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第43話眠る記憶は苦痛へと③

 その声はどこか懐かしくて、本来なら覚えていないはずのその声に僅かな温もりを感じた。


「カエデ待つのじゃ! お主一人で行っては」


「聞こえるんですよカグヤさん。俺を呼んでいる声が」


「行きたいお主の気持ちも分かる。しかし、お主が今一人で向かったら」


「すいません!」


 俺は走り出していた。行くべき場所は最初にポチが言っていたあの場所。あそこで誰かが俺を待っているのなら、俺は向かわなければならない。


「ポチ、ミルフィーナ、カエデの事を頼む」


「はい」


「分かりましたぁ。でもルチリアちゃんは」


「妾が責任を持って話す。じゃから二人はカエデを追っておくれ。そうでないとあいつは……」



 この世界に来て、俺は知りたくない事ばかり知らされてきた。それはどれも信じがたい話だったし、それを受け止められない自分がいた。それは今も変わりない事なのだけど、もし俺が今向かっているその先に、答えがあるのなら俺は受け入れていいのかもしれない。自分の出生、この世界でかつて過ごしていた日々。

 そして自分にはもう両親がいない事も。


『楓、ずっと待っていた。あなたがここに来てくれる事を』


 気がつけば城の前に到着。魔物の襲撃で滅びたと聞いていたから、もっとボロボロの城だとは思っていたけど、意外にも綺麗だった。


「待ってくれカエデ」


 勇気を振り絞って中に入ろうとした時、ポチが俺を呼び止める声がする。俺は彼女の声を聞いて、一度足を止めた。


「何だよポチ、あとで行くって言っていたんだから、わざわざ呼び止める必要ないだろ」


「それはすべての段階を踏んだ上での話だ。まだ私達にはお前に話してない事がある」


「話していない事? もう俺は大体の事を聞かされているはずなんだけど」


「まだなんだよカエデ。まだカエデには知らなきゃいけない事がある」


「でもそれもこの城に入れば分かるんだろ? だったら俺は」


 俺は足を踏み入れる。もう逃げるのはお終いだ。


「本当に待ってくれカエデ!」


 これでもかと言うくらいの声で俺を呼ぶポチに、さすがに俺も躊躇ってしまう。


「どうしたんだよポチ、どうしてそこまで俺を行かせたくないんだよ」


「私も……ミルフィーナも、皆お前には行ってほしくないんだ」


「何だよその言い方。どういう……」



 意味ありげな言い方をするので、俺はポチの元へ戻ろうとする。だけどそれよりも先に、誰もいじってないはずの扉が勝手に閉じ始めた。


「カエデ!」


 ただならぬ予感がした俺は、走って出ようとするがそれよりも先に扉は無情にも閉じてしまった。


(誰がこんな事を……)


 勝手に閉じた扉に、何かの意図があるのならそれはもしかしたら……。


『楓。私の血を引くただ一人の子。さあいらっしゃい、この城の謁見の間に』



 ■□■□■□

 一方城の外、カエデを呼び戻す事が出来なかったポチは、一人後悔していた。


(本当は早めに話しておくべきだった。でもそれが怖かった)


「ポチちゃぁん、カエデ君はどこですかぁ?」


 それから数分後、ポチより大分遅れてミルフィーナが到着する。ポチは彼女に今起きた事を説明した。



「それじゃあカエデ君は今この中にいるんですね」


「伝えようとしたんだ。カエデは獣王妃様の血を継いでいるのは間違っていない。だけどその血を継ぐものはこの場所へ来てしまうと」


「カエデ君はこの都市のすべての記憶、あの事件、それらを一度に見せられる、ですよね」


「そしてそれはカエデにとってより自分の出生よりも酷な記憶だ。それを受けきれる覚悟はまだカエデにはない」


 王妃の血を継ぐものだけが行けると言われているこの城の謁見の間。そこには最後の最後までこの城に残っていた獣王妃アイリの亡骸が残っていると言われている。

  未だかつてその地に踏み込んだ者はいないので、確信的な情報ではない。しかしただ一人の人間がその地に踏み入れた時、何かが起きてしまうのではないかと囁かれていた。

 だから何かが起きてしまいそうな予感がしたポチは、彼を止めようとした。その予兆はこの島では既に起きている。これが更に被害が広がり、その原因がカエデになってしまったら、その時彼は……。


「ポチちゃん、ここは信じるしかないですよぉ。カエデ君が、彼が全てを受け入れて、私達の元にまた戻ってきてくれる事を」


「私も信じているさ。カエデは強い人間だからな。でもどうしてか震えが止まらないんだ」


「それは……あの事を後悔しているからですか?」


「分からない。わからないけど私は……」


「ポチ、ミルフィーナ!」


 それから更にしばらくした後、ルチリアを連れたカグヤが彼女達の元へと到着。ポチは一通りの事をカグヤに説明した。


「やはりこれも運命と言うべきじゃな。もうこうなってしまっては妾達には何も出来ぬ」



「カエデ君は……カエデは無事に帰ってくるんですか」


 先ほどまで地面に崩れてしまっていた時とは打って変わって、何かの決意を固めた様子が見えるルチリアが、カグヤに尋ねる。


「それはカエデ次第じゃルチリア。ここからは彼一人の問題じゃからのう」


「だからって、私達はここで何もせずにいる事はできません。私達は私達で何か方法を考えましょう。それが私達がカエデに出来ることだと思うんです」



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