05.~スマホの中からこんにちわ~
滅びの呪文?
「じゃあ質問しようかね。その前に、ほら、これを飲むと良い。喉が渇いただろ」
「どうも」
女の人が奥の棚に歩いて行って、木で出来たカップに飲み物を注いで僕に渡してくれた。
「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いちゃってたんですよ」
「そうだったのか。気が付かなくて悪かったね」
「あーいえいえ、そんなこと、んっ! これ美味しいですね~」
飲んでみたらリンゴジュースみたいな味がした。
色は水みたいに透明なのに、不思議だな。
「そいつは良かった。――じゃあそろそろ初めて良いかな?」
「んくっ、はいどうぞ」
コップに入ったリンゴジュース擬きを飲み干して答える。
女の人は椅子に座って膝を組み、その膝の上で手を組んだ。
「さて、まずは私の名前はカーディナ・ネロッツェ。このハミルヴェン王国に宮廷魔術師として仕えている」
女の人の名前はカーディナさんというみたいだ。
そして今僕がいる場所は、ハミルヴェン王国というらしい。
「あと俺はグレガン・コウエンだ。いちおうこの国の騎士団総団長なんてやってるからよ。まぁよろしくな」
便乗するように男の人も自己紹介した。
でも僕が渡した通学カバンを漁りながらの自己紹介だったので、片手をヒラヒラさせながらとっても適当な感じだった。
「ハミルヴェン王国は大陸でも二番目に大きい国なのだけど、聞き覚えはある?」
「いえ。まったく聞いたことがないです」
「そうかい……」
じぃぃぃぃぃぃぃーーーー。
「あの~? 何ですか」
「ふむ。どうやら嘘は吐いていなかったみたいだね」
「え? そうですけど」
「いやすまない。実はさっき飲んでもらったあの飲み物はね、嘘を見抜くために使われるものなんだ」
嘘を見抜くための飲み物?
そう聞いて何となく頭に思い浮かぶのは、映画の中や両親の冒険譚の中で、謎の組織に拉致された時に飲まされたという、自白剤くらいのもんだけど。
「あの飲み物は飲んだ者の好きな味がしてとても美味しいのだが、飲んだあとひとたび嘘を吐こうものなら、体の中から針で刺されたような痛みと体全身が痺れに襲われる、という反応を見せるんだ」
「ちょっとおおお?! なんつーもんを飲ませてるんですか!? しかも黙って騙すように!」
「悪かったよ。この通り」
僕が思わず椅子から立ち上がってカーディナさんに詰め寄ろうとすると、彼女は組んでいた足を崩して深々と僕に対して頭を下げて謝罪した。
そして頭を下げたままピクリとも動かない。
「だがわかって欲しい。君はそれ程までに怪しい存在でもあったんだ。騙し討ちのようだったのはすまないと思ってるけど、逆に、これで君が嘘を言っていなかったと、証明出来たということで納得してもらえないだろうか?」
確かに今の僕は不審者以外の何者でもないけど………。
それでもこの所業はないんじゃないかな?
「盛り上がってるところ悪ぃんだけどよ、ちょっと聞いても良いか?」
「なんだい? 今は私が彼の話を聞いているんだけど」
「いや~、渡してもらった持ち物のほとんどが何が何だかわからなくてな。一つ一つ説明して欲しいんだわ」
「ほぅ。異世界の品々か。それは興味深いね。いいだろう、まずそちらから片付けようか」
「あの、当事者の僕の意見を聞かないで、話を進めないでもらえます?」
だが僕の話は当然のように聞き入れられなくて、カーディナさんは目を輝かせて僕の荷物を手に取ったりして観察し始めていた。
「君、この背負い袋はいったい何で出来ているんだい? 初めて見る素材なのだが」
「えっと、ちょっと待って下さい―――ポリエステルってタグに書いてありますね」
「“ぽりえすてぇる”というのか。やはり聞いたこと無いな。……これは?」
「それは筆箱です。中を開くと、ほら、筆記用具とかが入ってるんですよ」
「おお、これはどうやって使うんだい?」
何だか小さい女の子を相手にしてるみたいだ。
試し書きをするために、適当なノートを捲ってシャーペンでグルグルと渦巻きを書いて見せた。
「こんな風に書くんですよ。ペンの頭を押すと芯が降りてきてまた書けるようになるんです」
説明を聞いていたカーディナさんは次にノートや教科書に興味を持って、『こんなに薄いのに丈夫な紙だ』と感心したり、『異界の文字は複雑だな』と眉をひそめていたりした。
まぁ僕のカバンには日本語で書かれた物の他にも、英語の教科書とか漢文のテキストがあったからよけいにそう思ったんだろうな。
「なあ、この板は何だ? 鏡か? でも黒い鏡面の鏡なんて初めて見たな」
「鏡? そんなの入ってないはずですけど。ああ、それは鏡じゃなくてスマートフォンですよ。えっと、遠く離れた人とまるで目の前で会話しているみたいに話せる道具です」
「ほー、通信用のマジックアイテムみたいなもんか」
どうやらこの世界にも似たような通信道具があるみたいだ。
「これはどうやって使うんだ?」
「ちょっと貸してもらって良いですか」
「ああ、ほらよ」
グレガンさんから手渡されたスマホは電源が落ちてた。
おかしいな?
こっちの世界に来ちゃった時に勝手に落ちたのかな?
「まずここのボタンを長押しして電源を入れるんです。でも電源点いても電波がないと通話はできなんですよね~」
僕はとりあえずスマホの電源を入れた。
三秒くらいして真っ暗だった画面が光ってきて、それを見ていたグレガンさんがちょっと驚く。
そして教科書にかぶりついていたカーディナさんもスマホに気が付いて、興味津々な様子で覗き込んできた。
「……あれ? おかしいな」
「どうした?」
「いえ、何だかホーム画面に移らなくて。もしかして壊れちゃったのかな?」
「“ほぉむがめん”が何なのか知らないが、そのマジックアイテムからは若干だが『魔力』を感じるな」
「え?」
スマホから魔力を感じるって一体なに?
カーディナさんにきこうと思ったその時、スマホの画面が真っ白になった。
「なんだこれ?」
真っ白の画面には僕のよく知る物が映っていた。
それは僕が登録しているSNSのソーシャルゲーム“ファンタピア”のタイトルだった。
そしてタイトルの下には《PUSH》という文字が書かれていて、チカチカと点滅していた。
「ん? 魔力の量が徐々に増えてきている? いったいそれは何なんだ?」
「“すまぁとふぉん”という通信マジックアイテムの様な物らしいぞ。なんでも“でんぱ”がないと通信出来ないらしい」
「“でんぱ”がないとということは、それは我々でいう魔力みたいな物なのだろうか」
そんな二人の会話を耳にしながら、僕は名にも考えず《PUSH》の部分をタッチした。
ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン。
え、なになに、何なの一体!?
いきなりスマホのバイブレーション機能が大暴れし始めたんだけど!
「君! 何をしたんだ! それから魔力が溢れてきているぞ!?」
「なんだよこれっ、普通じゃねぇぞ!」
「いやっ、僕も何が何だか!?」
三者三様に慌てていると、スマホの画面から白い光がポワンと出てきた。
野球のボールくらいの大きさのそれは、僕の目線と同じくらいの高さまでフワフワ上昇して、ピタッとその場で止まった。
ピカーーーーーーン!
「うおっ! まぶしっ!?」
「この光は、一体っ」
「ぎゃあああ! 目が、目があああ!」
いきなり目も眩むような光を放ったそれは、次第に形を変えていって、そして―――。
「――はじめまして、我が主。こうして直接お会いできて、このティファニア、とても嬉しく思います」
光は形を変えて、天使となった。
純白の鳥のような翼を持ち、見る者を魅了するような優しい微笑みを浮かべる。
「いたたたたっ! 涙が、涙が止まらないーーー!」
まあ僕はさっきの光のせいで涙が止まらなくて、全然見られなかったんだけど。
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次話は4月1日の12時に予約投稿しました。
ようやくソシャゲの仲間が一人登場しました!
今後まだまだ仲間の人数は増えていきます。
もしソシャゲの仲間のアイデア、こんなのを出して欲しいという要望がありましたら、感想やメッセージなどでお申し付け下さい。




