03.~言葉が通じるようになったけど……~
腕輪型翻訳機
コツ、コツ、コツ、コツ。
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ。
僕は今男の人の後に続いてお城の中の廊下を歩いてる。
お城の外見はアレだ、高い城壁に囲まれていて、中に入るには跳ね橋を渡る必要があって、中には噴水がある広い庭があって、外壁が純白のこれぞTHE西洋のお城って感じだ。
今歩いてる廊下には一面に真っ赤な絨毯が敷かれているけど、どうやら以外と薄いようでその下に石材があると感触でわかった。
ちなみにさっきまでいた場所は、このお城から歩いて十五分くらいの場所にある屋外だった。
あの時はすぐには気がつけなかったけど、あの場所からでもこのお城は見える。
というか、あの場所もたぶんこのお城の敷地内だったんだと思う。
だってお城を守る城壁よりは低かったけど、あの場所も高い壁で囲まれていたし、家というか建物も何も建っていなかったから。
「―――***アラタ」
お城の中に入って歩くこと十分ほど。
どうやら目的地に着いたようで、男の人が一つのドアの前で立ち止まった。
そしてドアを開いて、僕に中に入るように顎で促す。
「おじゃましま~す?」
恐る恐る中に入ってみると、そこには女の人が一人いて、こちらに背を向けて椅子に座っていた。
部屋の中にはその女の人しかいない。
「*****。*******?」
「****……**、*****?」
「**ー。***、*******」
「****?」
男の人が女の人に話しかけると、俺の事を何度か見ながら会話をし始めた。
僕は手持ちぶさただったので、女の人や男の人を改めて観察してみることにする。
男の人は大体四十台半ばくらいかな?
短く刈り上げた焦げ茶色の髪で、見てわかる範囲ではすごく鍛え上げられた体をしているように見える。
体には胴・腰・脛・腿・腕と、動きの妨げになる関節部分以外を金属製の鎧で守っていて、腰にはさっき僕に突きつけていた剣をぶら下げていた。
女の人は二十代後半……だと思う。
白近い薄い紫色の長い髪で、時折女の人が邪魔なのかかき上げるが、フワ~っと綺麗に広がる。
何かの制服のような黒っぽい上着とスカートを着ていて、その上から膝辺りまでの長さがある真っ白な白衣を着ていた。
どことなく保健の先生や女医さんを思わせる。
「***アラタ、*******」
「え? 何ですか?」
ボーッとしていたら、いきなり僕の名前を呼ばれたので驚いた。
やばいな~、全然話なんて聞いてなかったぞ。
―――あ、そもそも聞いてても言葉がわからないや。
あはははー。
「*****……。****、****」
僕が笑っていたら、また男の人が冷たい視線を向けてきた。
そして何かを言いながら手を差し出す。
その手はまるでペットの犬に『お手』としている飼い主のようだ。
「え~と、僕にそんな趣味はないんですけど」
僕はそう言ったがもちろん相手には通じていない。
男の人は苛立っているのか、今度はちょっと語尾を強めて何かを言いながら、差し出した手を何回か上下に振る。
「ええ~……じゃあ。わん」
僕は嫌々ながらも犬の鳴き真似をして、出された手に自分の手を乗せた。
何だか一瞬男の人が不思議そうな顔をした気がする。
カチャン。
「へ?」
すると僕が差し出した方の手首に何かが着けられた。
しかも何だか光ってる。
「何だろうこれ? お祭りでよく見る光る腕輪?」
アレよりは遙かに良い肌触りだから、それなりの素材を使っているようだし、デザインも僕は嫌いじゃない感じだったが、いきなりこんな物を着けられたら困る
しかも光っていたかと思ったら、すぐに収まってただのブレスレットみたいになってしまった。
「どうしよう。取っちゃダメなのかなコレ?」
「おお! 本当に言葉が通じたぞっ」
「ふえ?」
「ほらみろ。やっぱり『対話のブレスレット』が効いたじゃないか」
「いや、俺じゃなくても人間に『対話のブレスレット』の効果があるとは思わないだろ」
「まあそうかもしれないね」
突然僕の耳に日本語が飛び込んできた。
しかもその声は目の前の男の人と女の人から聞こえてくる。
「あの、日本語話せたんですか? さっきまで全然通じてなかったみたいなのに」
「ほう? 君が使っていた言語は『ニホン語』というのか。聞いたことのない言語だね」
「俺も聞いたことないな。アラタ、お前どこの出身だ?」
女の人は日本語に興味を示して、男の人も日本語を知らないようだ。
どういうことだ?
日本語を知らないみたいなのに、日本語を喋ってる?
さっきの会話を聞く限り、俺の手首に着けられた『対話のブレスレット』が、翻訳機か何かの働きをしているのかもしれない。
「そうだね。まずは突然言葉が通じるようになった説明をしようか。君がさっきこの男に着けられたブレスレットは、『対話のブレスレット』といい、亜人の言葉がわかるようになるマジックアイテムだ。ちなみに作り上げた魔術師はこの私」
「アラタは人間の筈なのに言葉が通じなかったからな。ダメ元で試した見たんだが、どうやら効いたようで良かった良かった」
二人の話している言葉は確かに日本語だが、会話の節々に聞き慣れない単語が混じっていた。
対話のブレスレット?
亜人の言葉がわかるようになる?
魔術師?
……薄々気付いてはいたけど、あえて気付かない振りをしてたのに……、もう諦めて認めるしかないのか。
皆さん、どうやら僕はあり得ない事態に巻き込まれてしまったらしいです。
俗に言う『異世界転移』ってやつに―――。
お読み頂きありがとうございます。
この世界の人類言語はひとつに統一されています。
他種族はまた別の言語を使っているので、主人公が着けたような翻訳マジックアイテムが存在するという設定です。
狼男みたいな種族とか、絶対に人間と同じ声帯してないはずなので、当然と言えば当然ですかね?
次話は31日の12時に予約投稿します。