02.~身振り手振りでコミュニケーション~
異世界間交流
「どうしようかな」
さっきから何を言ってもわかってもらえず、途方に暮れていた。
まぁこの人と違う言語で話しているのだから、理解されないのも仕方ないか。
「そうだ。こんな時の為の対処方法を教えられたじゃないか。今こそそれを使う時だっ」
トレジャーハンターで世界を飛び回っている両親も、相手の言葉がわからなくてこっちの言葉も伝わらないんだったら、身振り手振りで表現するればえば大体八割は上手く行くって言ってたじゃないか。
お酒が入ると毎回聞かされる冒険譚も、役に立つもんだな。
そうと決まればやってみよう!
「えっと、僕っ! 僕は」
人差し指でトントンと自分の胸辺りを指さし―――、
「ここっ! ここが」
地面を指さし―――、
「全然わからな~い?」
両手の掌を上に向けて、外国人がするみたいな肩を竦めるポーズをする。
「どうかな……伝わったかな?」
僕は周りの人達の反応を見てみた。
「………」
「………」
「………」
「「「………」」」
しーーーーん。
「おぉ~うの~ぅ」
さっぱり何のリアクションも無いじゃないか。
まさかの無反応で、辺りの音が一切しなくなっちゃったよ。
「―――」
「―――」
「―――」
「「「―――」」」
あれ~?
おかしいな~?
それどころか、何だかみんな僕のことを冷たい視線で見ている気がするぞ~?
「***……」
シャララ、チャキィーン。
おお!?
でもとりあえず目の前の男の人は剣を鞘に納めてくれたぞ。
相変わらず死んだ魚みたいな目に加えて、無表情で僕のことを見ているけど。
「荒太、荒太」
僕はすかさずたたみかけることにした。
さっきみたいに自分の事を指さしながら、名前を繰り返し言って自分の名前だということをアピールする。
「ア、アラタ、アラタ?」
おおやったぞ!
男の人が『荒太』って言ってくれた。
ちゃんと僕のことを指さして言ったから、名前だとわかってくれたのだろう。
「そうそう! 荒太!」
僕は嬉しくて何度も頷いた。
自然と顔も笑っているのがわかる。
すると男の人も無表情から、少し感情の見える表情に変わった。
「******、アラタアラタ、*****?」
んん?
前後の言葉は相変わらずわからないけど、言葉の間に僕の名前が入っていたのはわかった。
けどなんで二回続けて名前を言ったんだろう?
………あっ、もしかしたら勘違いしてるのか?
「違う違う。あ・ら・た」
首を横に振って自分を指さしながら、今度は一回だけ名前を言った。
たぶんこの人はさっき僕が二回言ったから、名前を『荒太荒太』だと思ったんじゃないかな?
「***、******、アラタ?」
今度は一回だけ『荒太』と言ってくれた。
「そうそう」
僕がまた笑いながら頷くと、男の人も少し笑ってくれた。
いつの間にか周りを取り囲んでいた狼男さんたちも、武器をしまっていてさっきよりも幾らかリラックスした様子を見せていた。
「***アラタ、********。**********」
すると男の人が僕のことを手招きして、背中を見せて歩き始めた。
僕がどうしたらいいのかわからずその場に立っていると、少し離れたところで振り返ってもう一度手招きしてきた。
とりあえず『着いてこい』って言ってるんだろうけど、これは従っても良いんだろうか?
「****? ****、*********」
悩んでいたら男の人が両手を開いて僕に向き合う。
そのようすは、何だか『何もする気はない』って言っているように思えた。
「***! **********!」
次に男の人が周りの狼男さんたちに、大きな声で何か言った途端、取り囲んでいた狼男さんたちは武器をしまって、離れた場所へと移動していった。
「**、********? ******」
そして男の人は、今度は自然な笑みを浮かべて、僕のことを手招きした。
「まぁ~なるようになる、かな?」
たぶん普通の一般人が今の僕みたいな状況に陥ったら、僕みたいに楽観的な考えは出来ないんだろうな。
最悪の場合、最初の剣を突きつけられた場面でパニックを起こすかも。
僕の場合、何事においても普通じゃない両親の影響を受けすぎて、僕自身何事においても一般的じゃないということは自覚している。
だけど、今だけはそんな風に育ててくれた両親に、ちょっぴり……本当ーーーにちょっとだけ感謝してもいいかな。
僕は男の人の後に続いて歩き出した。
お読み頂きありがとうございます。
この作品は軽いノリで進んでいきます。
普通じゃない臭がプンプンの主人公の両親の話は、するとしたらまだまだ先で。
今のところ予定はありません。
次話は31日の0時に予約投稿します。