17.~みんな僕の仲間達~
※当作品は更新停止となりました。
詳しくは5/26の活動報告にて記載しております。
僕たちは森の中を歩く。
向かう先は街――そしてタケミカヅチを討伐しようとしているらしい、三〇〇人余りの武装した人達がいる方向だ。
「主様は我々より前へと出ないようお願い致します」
「そうだぜ。荒事は俺等に任せておいて、大将は後ろでドーンとしておいてくれれば良いんだからな」
先頭を歩くのはプリムラーナとアベルの二人。
アベルは人の背丈ほどもある大きな剣を肩に担ぎ、ガチャガチャと赤いマントがついた鎧を鳴らしながら歩く。
プリムラーナはアベルの剣ほど太くはないけど、長い剣を剣道の正眼みたいに構えて、周囲を警戒するようにしながら歩いていた。
「主の事は私達が見ていますから、二人とも戦闘はよろしくお願いしますね」
「そうそう、ご主人様もだけど、私もあんまり戦闘では役に立てないから~。お願いね~」
先頭を歩く二人に続くのは俺、ティファニア、マナリエラの三人だ。
ティファニアとマナリエラの二人は特に武器を取り出したりすることもなく、僕に寄りそうようにピッタリと歩調を合わせて歩いている。
でも………。
「ちょっと、マナリエラ。何も腕を組む必要はないと思うんだ」
「え~、別に良いじゃない。歩きにくいって事はないでしょ~」
「まあそうなんだけど……」
マナリエラは更に腕に力を入れてギューッと腕を組んでくる。
いや、これはもう僕の腕に抱きついているようなもんだ。
あんまりにも密着するもんだから、マナリエラの柔らかい体の感触とか、暖かい体温が腕から伝わってきて落ち着かない。
僕もこれでも男の子だからね。
「マナリエラ」
「む、なによティファ」
マナリエラの隣――マナリエラを挟んで僕の反対側にいたティファニアが声を上げる。
これは注意するのかと僕もマナリエラも思ったはずだけど、その考えは間違ってしまった。
「あなただけ主に抱きついて狡いですよ」
「じゃあ反対側に回ったらいいじゃない。そっちの腕は空いてるわよ」
こうして僕の両腕にマナリエラとティファニアが抱きつく構図が完成した。
なんだっけこういう状況?
両手に花?
ちなみに今姿が見えないブリッジスとタケミカヅチは、ある作戦のために僕たちとは別行動を取ってる。
スマホを通していつでも連絡が取れるらしいので、しかるべき時に呼び出す予定だ。
「イチャイチャするのもそこまでだな。大将、お客さんがおいでなさったぜ」
アベルが剣を肩に担ぐのを止める。
プリムラーナも剣を構えるだけでなく、何回かみたバリアーを展開して先にある藪を睨み付けていた。
ガサガサガサ。
藪の中から草木をかき分ける音が聞こえる。
そして銀色の何かが藪の中で素早く横一線に光ったかと思うと、その線に合わせるように藪が切り裂かれた。
「――っ!? おいっ! 誰かいたぞ!」
藪の中から出てきたのは剣を片手に持った、鎧姿の男の人だった。
さっき光った銀色の物は、この人が振った剣だったみたいだ。
「武器を下ろせ。我々はミリアス近衛騎士団の者だ。現在この森は許可がある者以外立入禁止となっている。抵抗せず、我々の指示に従え」
最初に現れた兵士の人に続いて藪の中から沢山の人が姿を現す。
現れた人達は全員同じ鎧を着ているので、さっき言っていた『ミリアス近衛騎士団』の人達なんだろう。
僕たちの今いる少し開けたスペースは、合わせて二十人くらいの兵士によって取り囲まれた。
「大将どうするね。こいつらの言う通りにするか?」
「聞く必要はありません。主様に対してこの物言い……許し難い」
「プリムラーナ?」
プリムラーナから何だか形容しがたい雰囲気が感じ取れる。
展開していたバリアーも、薄緑色からオレンジ色に変色した。
「て、抵抗するつもりか。この人数相手に、お前達は五人しかいないんだぞっ」
プリムラーナの雰囲気にたじろぐ兵士の人達。
僕たちを囲む輪が兵士の人達が一歩後ろに下がったおかげで、少しだけ広くなった。
「落ち着きなさいよプリム」
「そうですよ。主はこの方達に危害を加えるつもりはないんですから」
僕の側にいたティファニアとマナリエラが、プリムラーナのことを落ち着かせようとする。
このうちに僕は兵士の人に話しかけることにした。
相手は……さっきから喋ってた人でいいか。
「あの~、僕たち冒険者ギルドで依頼を受けて森に入ってたんです。その時はこの森が立入禁止になんて鳴ってなかったんですけど」
「そ、そうなのか。……ん? そういえばギルドの方から冒険者が一人森に入っていると報告が上がっていたな。確か名前はアラタ・ニイミだったと思うが、それが君のことなのか」
「あ、そうです。それ僕のことで間違いないです。いちおうこれが僕のギルドカードです」
僕はズボンのポケットからカードを取り出し兵士の人に渡した。
渡す時に少し警戒されたけど、無事相手の手にカードが渡る。
「ふむ、確かに本物のようだ。他の者のカードを確認させてもらえるか。あの二人は召喚師である君が召喚しテイムしたモンスターなのだろうが、そっちの二人は人間だろう?」
「いえ、全員僕が召喚した仲間ですよ」
「なに!? 本当か? ……いや、どうみてもこの二人は人間だろう」
そう言って兵士の人がアベルとプリムラーナの事を指さす。
「普通の召喚師って、人間って召喚出来ないんですか?」
僕がそう聞いたら兵士の人は、顎が落ちてしまうんじゃないかと心配になるくらい大きく口を開いた。
「おいどうした? 何かあったらすぐ報告しろと言っておいただろう」
「だ、団長!?」
「まったく、気をつけろよ。古龍なんかに出くわしたらどうするつもり――ん? そこにいるのはアラタか?」
切り裂かれた藪をさらに広範囲に渡って切り裂いて現れたのは、僕がこの世界にやってきて最初にあったグレガンさんだった。
そういえば自己紹介で騎士団の団長だと聞いた気がする。
つまり、この兵士の人達はグレガンさんの部下だったのか。
「どうも、こんにちわグレガンさん」
「おう、数日しか経ってないはずだけど何だか久しぶりだな。お前が古龍が出た森にいるって聞いた時は心配したぞ。まあこうして無事だったから良かったがな」
どうやら心配をかけてしまったみたいだ。
あと『古龍』という単語が出てきたけど、きっとそれがタケミカヅチのことなんだろう。
「実はこの森に古龍が出たって情報が入って、騎士団と冒険者ギルドが協力して撃退、可能であれば討伐することになったんだ。だから今は一人でも戦力が欲しい。アラタ、力を貸してくれないか」
「団長!? この少年を連れて行くんですかっ」
「ん? そのつもりだぞ。何か問題でもあったか?」
「自分は反対です。どうやら団長の知り合いのようですけど、彼に実力があるとは思えません」
「アラタは召喚師だ。召喚したモンスターを使って戦うからアラタ自身は強くなくても仕方がない。正直に言うと俺もアラタ本人の力じゃなくて、アラタの召喚した連中との力が目当てだ。何でもギルドで実力はあるが迷惑なやつを一瞬でぶっ飛ばしたらしいぞ」
グレガンさんはオブラートに包むことなく、僕は無力だと宣言するので少し心にグサッと来た。
おもわず服の上から心臓の辺りを抑えると、ティファニアが背中をさすってくれる。
「そうでした、実は彼の召喚でお話ししたいことがあるんです」
「なんだ」
「そこにいる二人……人間を召喚したと彼は言っているんです。人間を召喚するなんて見たことも聞いたこともありません」
「そうなのか? じゃあ実はその二人は人間じゃないとかそんな落ちじゃないのか」
「いえ、彼も二人を人間だと認める発言をしていました」
「うーむ。じゃあ人間を召喚する新しい方法が見つかったんだろう。お前はいつもそうだが細かいことを気にし過ぎなんだよ」
「何を言い出すんですか団長! 私は副団長としてこの騎士団を守る為に――」
グレガンさんと兵士の人――騎士団の副団長と判明したその人は、僕たちのことを忘れたのか二人で会話を続ける。
僕はこの場にグレガンさんが偶々だが来てくれたので、事前に考えていた作戦を実行に移すことにした。
「あの、実は僕たちの仲間はまだいるんです。この場に呼び出してもいいですか?」
「――だから、ん? 何だって? すまんがもう一度言ってもらえるか」
「えっと、この場にいない仲間がまだ森の中にいるんですけど、ここに呼んでいいですか?」
「ああ構わんぞ」
グレガンさんの許可を取って僕はスマホに向かって話しかけた。
ほどなくして何かが近づいて来る音が響く。
「なんだ、この音は?」
「突風が吹き付けるような音だな」
「でも風なんか吹いていないぞ」
音の正体を探るため兵士の人達は周辺を見回す。
僕たちは音の正体を知っているのでただその場で待っていた。
「ぐっ、グレガン様! あちらを! 何かが飛んできますっ」
一人の兵士が空を指さす。
空にはチカチカ光る物が浮いていて、だんだん大きくなってくる。
そしてその正体がわかるくらいまで近づくと、誰かが大声を上げた。
「こ、古龍だ、古龍が出たぞーーー!」
兵士の人達は慌てて剣を構えたり、弓を取り出したりと戦う準備を始めたが、古龍はそれよりも早く僕たちの上空へと辿り着く。
僕の背後を囲むためにいた兵士の人達が全員グレガンさん側に行ってしまったので、空いたスペースへとタケミカヅチが顔を地面に近づけた。
「どうもありがとうございました!」
『グゥゥ、グォ』
そして頭の上に乗っていたブリッジスが地面に降り立ち、タケミカヅチにはそのまま待機してもらう。
「紹介します。僕の仲間のタケミカヅチとブリッジスです」
お読み頂きありがとうございました。