弟、青春中
その日は普段となんら変わりはなかった。
春休みに入り学校へ行く必要もないから、家でだらだらと過ごし一歩も外に出ることなく夕方を向かえたある日。
キキイーーッ!!ガシャーーーン!!ガラガラガラ、バァン。バタバタバタ。
「ヤベーぞ!!大変だ!!砂漠になっちまった」
弟が喚きながら帰って来た。
ごろりと横になってたソファーから、チラッと目をやり、無視した。
青春真っ只中な弟は、時折叫び出したり夜中に走りに行ったりと、何かと煩い。
それらを目にする度に、私の高校時代もこんなんだったっけか?と思い返すが、特に何もなかったよなー。で終わり、絵に書いたような青春がちょびっと羨ましくなる。
大好きな相撲中継を見ていた祖父は、チラ見すらなく無視。
夕飯の支度をしてる祖母はキッチンから出てこない。
今いるすべての家族から無視された弟は
「きけやーーー」
タケノコを投げてきやがった。
「さて、言い訳を聞こうか」
厳かに祖父が、新聞紙の上に集めたタケノコを前に正座している弟に問いかけた。
「いやっ、だから、タケノコを投げたのは悪かったよ。でもそんな場合じゃねえって!」
祖父に跳び蹴りされた腹を押さえながらも焦っている弟。顔も若干青い、かもしれない。
「まったくお前は、十七にもなって落ち着きがなさ過ぎるだろ。大体、扉を乱暴に開けるなと何度言えばわかるんだ。反省も感じられんし、そもそも…」
「ストップ!説教は後で聞く。それより聞いてくれよっ」
「…なんだ?」
「冗談でもふざけてもいないからなっ。真剣に聞いてくれよ。……山田のじいさんの畑から向こうが…砂漠になっちまったんだ」
とうとうおかしくなったか。
白けた目を弟に向けていた私と祖父に、キーキーと騒ぎながらとにかく見てくれと、外に連れ出された。
私も祖父もおかしくなった弟に付き合うのが面倒で放置の態勢に入りかけたら、それに気づいた弟が涙目になって訴えたので、渋々と玄関へ行く。
「実穂さーん、ちょっと山田さんとこまで行ってくるわ」
実穂さんとは祖母の名前だ。祖父と祖母はお互いを名前で呼び合い、とても仲良しなのだ。
車に乗り込み、弟が混乱している原因を聞きながら田舎道を走る。
走る。
走る。
走る。
……どこまで走るんだというツッコミは受け付けない!
隣家が見えないくらい遠いんだから仕方ない!
うちがド田舎にあるのは私のせいじゃないんだから!
誰に向かってツンしてるんだか訳ワカメになりながら
弟の説明を、まるっと聞いてなかったのは、
最近タケノコ料理が続きちょっとイヤになってきたなぁ、なんて考えてたからなんだけど。