第二話 別れと出会い
別れ この時代の別れはそこらの別れとは違うものだ
上の命に従うのが兵隊なのだ
三人集まれば文殊の知恵
人は多いほうがいいのだろう
だが無能が何人集まろうが無能は無能。0に何をかけても0なのだ
少数の、確かな実力をもった男たち、彼らは少ない人数で戦場を駆け回った
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「曹長、君は今日をもってこの部隊から別に行ってもらうよ」
約一週間前、アレンは元いた別の部隊、アストに所属していた。加えてこの時点ではまだ曹長だったのだ
そして、今アレンにしゃべっているのはその部隊の最高責任者、フレムベル大佐だ
その言葉にアレンは返した
「……俺が…邪魔だからですか?大佐」
アレンが鋭い眼光で大佐を直視する。…少なくとも上司を見る目ではない
大佐は鼻で少し笑うと、微笑を浮かべながら
「いやすまん、そういうつもりではなかったんだがな…?
君の実力は他の部隊にも少しは知れていてね…この前の軍略会議で別部隊のナオキ少佐から君が欲しいと言ってきたんだ…」
聞き難さのない、とても男には出せない綺麗な透き通る声が聞こえる。周りで輸送トラックや、たまに戦車が通るというのに、大佐との会話は周りの時間が止まっているかのような錯覚に陥られる
「もちろん、最初は断ったよ。君は僕も認める実力者の一人だからね、それに僕のお気に入りだ」
爽やかな笑顔を向けられる。不覚にも一瞬見惚れてしまったことを考えると、この人はやはり他の人とは違う何かをもっていることを肌で感じさせてくれた
「だが、彼は-ナオキ少佐は昔からのよしみでね、よく互いに世話になっている。だから断りづらくてね…」
微苦笑を浮かべるだけでも、アレンにはすまないと謝罪をしていることがよくわかった。それほど二人の仲も長いのだ
「というわけでアレン曹長、君は今日をもってこの部隊を脱隊、ナオキ少佐が率いる部隊に転属してもらう。…よろしいかい?」
最後まで申し訳なさそうに聞いてくる大佐はある意味意地悪すぎる
アレンは、一息つき
「ええ、わかりました大佐。大佐がそこまで申し、それを望むというのでしたら私は反論せずに承諾しましょう」
「ありがとうアレン。君はやはり僕が認める隊員、いや人物だ」
………この時代での部隊の転属は稀にみられるものであり、一生のうちにあるかないかで終わる
結果、脱退、転属は今生の別れといっても過言ではないのだ
大佐もそれを理解している。だからあまり気乗りしなければ、内心アレンが断ることも期待していたのだろう
・・・・・・
アレンは、大佐の涙腺が崩れかけていることに気づく。この人は涙もろく、感情的だ
だからこそ大佐になれるのだろう。兵の一人ひとりの戦士になみだを流し、焼け野原な戦場を見て涙をこぼす。そういう人なのだ
アレンもそんな彼だからここにいるのだ。そんな彼が上司として好きだからこの部隊に所属しているのだ。だから…
アレン、と名前だけで呼ばれたことに感激していた
「大佐、お世話になりました」
「良い結果を残したまえ、君にはそれができる」
笑みを浮かべながら見送り、アレンは踵を返し歩いて行く
「大佐!」
なにごとかと顔をあげた大佐にアレンは言う。大佐とともに、実現したかった夢のことを
「緑の大地で会いましょう!」
その言葉とともに敬礼をすると、大佐は、遠くわからないが、小さく微笑んでくれた。その笑顔には、期待の眼を付け加えて
これがアレン・ノイシュ曹長が別部隊に所属する理由である
これしきのことで階位が上がったりはしないが、そこは大佐だからであろう
これを期に、アレン・ノイシュ曹長は、少尉になったのだ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お待たせいたしました、アレン・ノイシュ少尉ですね。
奥のテントに向かってください。ナオキ少佐がお待ちです」
装備を抱え、奥の他とは違う大きさのテントへと入った
「失礼します。アレン・ノイシュ少尉です」
と、入った瞬間、アレンは驚愕した
少佐が殺されていた、いやそれより驚いた…かもしれない
アレンが見たものは
部下につっこみをされた少佐の姿であった
(…入る場所を間違えたのか…俺は?)
そう思い踵を返そうとしたところで、
「おや、君がアレン・ノイシュ少尉かね?」
どうやら本当につっこみをいれられてたのがナオキ少佐のようだ
「え?少尉さんもう来たの!?」
「わ、わわ!早くトランプ片づけて!」
「お前が片づけろ…」
「あ、あぁー!少尉殿!!うしろぉ!!」
そう言われて振り返るアレン
その隙に、
「いまだ!片づけろ!!」
「早く早く!!何やってんの!上から二段目の引き出しだよ!」
「ええい!どこでもいいだろうに!!」
くるりと振り返ったアレンが見たのは、息が切れるのを必死で抑えようとしている兵たちだった
(…こいつらの部隊にはなりたくない……)
「あ、あぁアレン少尉」
ナオキ少佐が申し訳なさそうな態度で近寄ってきた
「なんでしょう?」
聞き返すと、肩にポンと手を置かれ
「君にはこの部隊の小隊長をやってもらいたい。よろしいかな?」
(………大佐…)
アレンは、自分で顔が引きつっているのがわかっていた