2、錬金術の材料
「キビキビのしっぽかー…」
テクテクと歩きながら、黒猫ドミノが何となく似たような物を捜す。
うむーっと近所の庭に侵入して、裏手の石垣を眺めた。
「確かここらで前に見たけど…いたばいっ!」
チョロチョロと、虹色のトカゲが舌を出しながら高速で走っている。
ドミノに危険を感じたか、シュッと石の間に逃げ込むのを、ドミノはピュッとしっぽを伸ばしてその後を追った。
「むむむ、待て待て、むー、」
ジイッと、集中してしっぽを動かし、石垣の間にどんどん伸ばす。
「つかまえたっ!」
しっぽの先でガッチリくわえて慎重に、スルスルとしっぽを縮めると、プッと軽い衝撃の後で軽くなった。取り出せば、トカゲのしっぽがチョロチョロ動く。
「キビキビのしっぽゲットばい!次はあー、ドラドラの根っこか」
トカゲのしっぽはゴクンと飲み込む。
ドミノは腹の中に、何でも直し込めるのだ。
さて、次のドラドラは大きくて綺麗な花で、大きな木に寄生して木を枯らしながら花を咲かせる。
しかしそんな花、こっちで見た事もない。
ため息混じりで歩いていると、何か大きなビニールの部屋が目に入った。
「おや?なんか中にお花が見えるばい。こんな所に隠してあるなんて、珍しか花やろか。」
ビニールを爪でびりっと破いて無理矢理中へ入ってゆく。
中はとても暑くて、いい香り。
クルリと見回すと、棚の上の植木鉢に立派なランの花。
「おお!ドラドラちょっとそっくり!」
トトッと登り、鉢を押し倒して下に落とした。
ガチャン!
大きな音に、新聞を見ていた家人がおやっと腰を上げる。
それも気づかず、ドミノは割れた鉢の土をバババッと掘りまくっていた。
「あっ!こればいこれこれ!なんか違うけど、良く似とるばい。」
根っこをブチブチ千切ってゴクンと飲み込んでいると、突然人間が現れた。
「あーっ、コラーッ!しっしっ、ああ!ああああ私の大事なランの花が……」
爺様が、ガックリしくしくと泣いている。
ヤバイとその場を逃げ出し、次のケンドーラのよだれを探しに出た。
「なんか、楽勝ばいねえ。結構有るじゃなかね、この世界も。
えーっと、ケンドーラ…」
テクテク歩き回り、隣町まで足を伸ばす。
いい加減疲れた頃、ブーンッと耳元を一匹の虫が飛んで行く。
それを見たドミノがパッと目を丸くした。
「小さかけど、ケンドーラにちょっと似とる!全然違うけど、黒と黄色のシマシマは同じじゃなかね。
ラッキーじゃ!」
ダアッと、それを追いかける。
するとその虫は一軒の家の軒下の、大きな蜂の巣へ入って行った。
「ケンドーラのよだれも、木にぶら下がった袋に入ってるけん、そっくりじゃなかねっ、取るぞ!」
ヒュッと軒下までしっぽを伸ばしてゆさゆさ巣をゆらし、ブチッとちぎり取る。
ブワーーーーンッ、ブワンブワン!
いきなり巣の中から、無数の蜂が出てきた。
「ギャアアア!何ね、これは一体何ね!いたっいててて、刺すばいっチクチク刺すばいっイタタタタッ」
チクチク刺されながら、ダアアッと巣をしっぽで巻き取ったまま町中を走って逃げる。
ワゥンワゥンと大きな蜂の集団がその後を追い、とばっちりの通行人も悲鳴を上げて逃げ出した。
「ヒーッ、助けてーっばいっ」
「きゃあ!蜂よ!」「助けてえ!」
一目散で逃げ回り、蜂を町中にまき散らして、ドミノの行く所には人々の悲鳴が響き渡った。