2・6喜びに代えて
青々とした草原。
温かい春の風。
握った草から変な汁がでて、手がベトベトした。
「おかーさーん。これヤダー取ってよーーー・・・。」
長い草達に足を取られながらも、トテトテとお母さんに向かう。
「あらあら、喜代ちゃんたんぽぽ摘んできたの?綺麗ね~。」
ほのぼのとした声を出すお母さんはどうやら拭き取ってはくれなさそう。
「ねえ~!手!ベトベトしてるの!!!」
「ふふっ分かってるわよ。ほら。お手手だして?・・・・はい。これで綺麗綺麗!」
「キレ~?」
「うん。綺麗よ。」
サアァッ
風があたしを横切る。
お母さんの長くて柔らかい茶色の髪が靡いて、
とてもキレ~だと思った。
「・・・良い風。・・・元気かしらねえ。あの子」
頬にかかった髪を整えながら独り言の様にお母さんは呟いた。
「??誰が~?」
「ん?あらいやだ、聞こえちゃった?」
「ねえねえ。だあれ?」
しつこく問いかけるとお母さんは笑顔のまま腰を下ろした。
「喜代ちゃん。なんで喜代ちゃんは喜代ちゃんなんだと思う?」
??????????????
「だ、だってキヨは産まれたから。」
「ふふっ違う違う。喜代ちゃんはなんで喜代ちゃんって呼ばれているか、」
「名付けられたからじゃない?」
「どういう意味でか、分かる?」
???????????????????????????????
ふうっと一息ついて、お母さんは柔らかく言った。
「誰かの悲しい心、辛い思いをそっくり喜びに代える人になってほしいから。
・・・・・だって。」
変えるじゃない代えるの。
そのお母さんの最後の言葉はまだ漢字が分からないあたしには難しい。
「喜代ちゃん。喜代って名付けたのは、
あたしの妹なの。貴方が産まれて、あたしの次にお父さんと同じ位喜んでくれた子。
いきなりよ?丁度喜代ちゃんのオシメを替えている時。
喜代が良いって。大きな声で、ふふふっ今も笑えてくるわ。」
その時のお母さんの顔は笑っていても何処と無く切なそうだった。
「ふーん。ねえねえ。その人はどうしてるの?」
「分からないわ。突然来て突然去っていったの。
奇想天外、支離滅裂、ハチャメチャ、意味不明、何考えてるか分からない。
そんな子だった。」
どんな子だよ。
「喜代ちゃん。でもね、貴方への愛は凄く深かった。あたしの次にね?
だから、喜代ちゃんって名前好きになってね? 名前だけじゃ無く
きちんと自分を好きになってね。
誰がなんと言おうと、貴方は貴方と言う存在をを貫くの。」
ポンっと撫でてくれた手が温かい。
「それで誰かを傷つけるかもしれ無いけど、そしたら今度は
貴方がその子を受け止めてあげて。
人と人は、自分をぶつけ合って生きているんだから。」
ぶつけ合って、、、、
また頭を撫でられた。
今度は、なんか違う。
お母さんの温もりとは違う。
ゴツゴツした、
大きな手。
「喜代殿。起きろ朝だ。」
・・・・・もう少し寝ていたかった・・・・
「?どうしたのだ?そんな顔して。・・・ああ、そうか。
しかし、別にもう恋人なのだから、
一緒に寝ても良いと思ったんだ。」
?あ、本当だそういえば昨日はあたし自分の部屋に帰って無い。
確か、えーっと・・・・あ。
それは夕べの事
「ダンデーちょっと疲れた~。」
「ふむっそうだな。では、行くか。」
部屋にむかっていると思った
でも向かった先はダンデのハンモック。
「ほら、グリア星でも星は見えるんだ。
綺麗だろ。」
あの星達は本当に綺麗だった。ぼやけた光を放って優しい夜空。
そうだそうだ、それで、
なんやかや連れてこられて、星を見て、癒されて、おねんね。。。。
「思い出した。」
「お、そうか!今度は思い出したか。じゃあ、グリア星は何まわりだ?」
・・・・・・・・・・は??
「教えたろ昨日。思い出したのだろう?答えよ。時間は30秒。」
いや、知らん!
忘れた!
てか、朝一でいきなり勉強って・・・
「はい終了。何故だ。きちんと教えたのに、、、」
がっくりと項垂れても困る。
だって疲れてたもん。
「よし、ならばもう一度叩き込むのみ!頑張ろうな喜代殿!やれば出来る!」
ダンデのランランとした瞳に蒼白のあたしが映る。
「い、いや、今日はちょっと、、、、」
「喜代殿。記憶した事というのは一日たったらほぼ忘れるものなんだ。
だから復習は大事だ。もちろん予習もな!」
ニッと笑うダンデ。
ううっ言われている事は嫌だけど、その笑顔は・・・・!!!
「・・・ぅう、やります。やりますよ。ええ、やろうじゃないか!!!」
惚れた弱みだ!
「そう来なくてはな!流石喜代殿!じゃあ早速喜代殿の部屋に行くか。
今日は理解を重点的に、歴史も問題集を一冊終了を目標
数学もな?国語はグリア星の文字を全て暗記。ああ、星座もあるから
それも覚えてもらおう。
朝は一番暗記に適した時間だ!」
・・・・・・・・・・・・。
フリーズした喜代に気がつかず、
ダンデはむんずと喜代の腕を掴んだ。
はた、と思い出して
喜代に顔を近づけた。
「まだ朝の挨拶をして無いからな。喜代殿、おはよう。」
そっと喜代殿の頬に唇を付けようとすると、、、、
ドオオオン!!!
突如、喜代殿がタックルをかまして来た。
「!??き、喜代殿!?わっわっ!うわああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
ダンデは真っ逆さまに落ちて行く。
・・・・惚れた弱みでも乗り越えられない壁はあった。
「ダンデ・・・人と人はぶつかり合って生きているんだよ。」
言いながら、いそいそと二度寝に入る喜代。
そういう意味じゃない、、、、
と言う言葉が空から降って来た
けれども
彼女はとうに夢の中であったとさ。。。。
「・・・うーむ、なんとも熱い抱擁だ。これが地球の恋人同士の挨拶か・・・。」
襟が運良く枝に引っかかったダンデは
腕を組みブラブラ揺れながらとんでもない勘違いをしていた。
にしても、抱きしめてはくれなかったのは何故だろう?
・・・ああ、喜代殿も慣れて居なかったのか!
異文化交際は大変だな。。。
幸せな悩みを抱え、ダンデはため息を落とす。
一寸先は乾いた地面。
・・・・まずは、ここから這い上がろう。