表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

2・4二度目のぬくもり

静寂が漂う。

それは、

水を含んだ雑巾の様な、重苦しく、濁った静寂。


そんな中でふう、と軽い息がダンデから吐き出された。


ダンデは、初めて人に呪いの事を語った

牢での生活も、犯してきた罪も。

それを聞かせたのは小さく、愛らしい弱い人間。


喜代の顔を見ずにダンデは再び口を開いた


「喜代殿。・・・分かったか?俺の真実。」

ドクドクと心臓が鳴り止まない

拒絶されたら・・・・


化け物を見る様に、怖がられたら、俺は、、、どうなってしまうんだろう




いや?

それはそれで、きっと良いんじゃないだろうか?

そうだ。そうだろう。

だって、俺は心置きなく戦火に飛んでいけるし、喜代殿だって、

きっと、この先俺がいない方がいいだろう・・・


話した時は、受け入れて欲しいと願って止まなかった。

だから話した。


でも、


しかし、


やはり・・・・無理だ。冷静に考えてみろよ俺、か弱い喜代殿に何を話した?


血生臭い思い出と罪を背負った男に、心から微笑んでくれるなどと期待するなんて

笑えてくる。


ギリッと胸が締められた感覚がした。


痛い・・・!


こんな痛み、感じた事無い。母さまの時だってこんなにでは無かった。

愛しい者が自ら離れていく事がこんなにも苦しいとは、

自分で殺ったときのなんかとは比べようも無い。


とてつもなく、痛くて、痛くて、悲しい。


喜代殿……



「ダンデ。」

ふわりと体が温められた。

「ダンデ。」

触れられいるのは、手、だけなのに、

「ダンデ。」

鼻の奥がツンと痛む。

「ダンデ。」

「・・・何だ?」


やっとのことで、それだけ言い切る

そろそろと隣りを伺うと、涙に濡れた喜代殿が居た。


視界がカッと開いた

泣いている?喜代殿が?何故?

・・・ああ、喜代殿は優しい。こんな俺に涙してくれるのだから

微笑んでくれる事も嬉しい。

けど、喜代殿が泣いている事もすごく嬉しいと思ってしまう。


「喜代殿・・・。その、ハンカチ、使え。」

おずおずと黒いハンカチを差し出す

伸ばされた腕は差し出したハンカチを横斬り


俺の首にまわった。



何が起こっている?

頭の上では、喜代殿のしゃくりあげる声

耳の横では、喜代殿の温かい鼓動

心地良い、喜代殿のぬくもり

しゃくりあげながら、彼女は掠れた声で、それでも力強く俺に言葉をかけた。





「生きててくれて、ありがとう。」



その言葉に

ふっと一筋だけ、涙が出た。


ああ、なんだかとても懐かしい。そうか、あれだあの時と一緒だ。

牢で兄貴に抱き締められた時、


ローズ、お前も、こんな事を呟いていたのか?

口元が優しく緩む。



「ダンデ、ダンデ、」

「喜代殿・・・ありがとう。本当に、ありがとう。でも、行かなくてはな?」

喜代殿の腕が震えて居た。

「ダンデ、、、好きだよ。」

ポトポトと喜代殿の涙を俺の髪の葉っぱがはじく。

至福の時が過ぎてゆく。


「・・・ありがとう。喜代殿・・・俺なんかを慕ってくれて、ありがとう。

・・・行くよ。俺。」

でも、違うから。俺と喜代殿は。

もう、受け止めてくれただけで十分幸せだ。


「ダンデェ・・・化け物って何さ。ダンデは、化け物じゃ無いよ?」

「違う。」

「っ何が!?」

「この能力も、この髪も、全て人の域を脱している。化け物では無くて何だと言うんだ?」

自嘲していると、ますます喜代殿が後頭部を押さえつけてくる。


「なら人の定義って何さ!!皆、普通普通って言うけど、その基準ってなんなの!?

あたしだって色んな人から白い目とか向けられたりした!

けど、そんなのどうだって良いって思ってる!」


「だってあたしは、自分が人間だって思ってるもん!!」

喜代殿の言葉にダンデは顔を歪めた。


「それは、、、喜代殿が本当に人だからだろ?俺みたいな力も、髪も持って無いくせに!」

「ダンデは人間の方が良いとは思わないの!?」

「良いに決まっている!」

「じゃあいいじゃない!それで!何の不都合があるの!?」

「でも俺は人間じゃない!もう、戻れない!!母さまを殺した奴が中に居るんだぞ!!」



息が上がって、肩を上下に動かす喜代殿は、眉を潜めている

いつのまにか、俺と喜代殿は抱き合う形から変わり

真正面に向き合っていた。



「・・・・ダンデは違うじゃん。」

吐き出された言葉に、俺は絶句する。


「違わない。あの種と俺の身体は一心同体になって、融合されている。」


ギリリッと喜代殿が奥歯を噛んで噛み付くように言った。






「ダンデの心は人間だ!!!!」






「・・・・・・・。」

そう言った喜代殿の目は、吸い込まれそうな位綺麗で、

背筋がゾクッとした。


茫然とする俺の手を両手で握ると、

喜代殿はくっと顔を近づける。


「解こうよ。」


????


「解こうよ。呪い。」

な・・・!

「む、無理だ。あいつのデータからそれはもう明らかなんだ。」

「本当に?」

「あ、ああ。」

「酷い実験ができる程残酷で、兵器として活用しようとする人が本気で呪われた人を助けると思うの?」

そう言われて、ハッとする。


確かにそうだ。いや、しかし、でも、


「もう少し、頑張ろうよ。」

ほどけた様に笑いかける喜代殿。


「ダンデ・・・ダンデは、人間だよ。断言してあげる。

世界中の誰もが化け物だとか言おうとも、あたしは人間と言うよ。

だってそれが事実だもん。」


今度はにへらっと笑う喜代殿に、

酷い脱力感を覚える。

緊張がほぐされてふふっと笑って仕舞う。


もう少し、足掻いてみても良いのかもしれない・・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ