2・3姉兄弟~きょうだい~
ハイドとローズの会話
シュルッシュルルルル。
扉が開き、ハイドが入ってきた。
「おい。一応伝えておいたぜ。」
その事を伝えに、依頼主のローズの元を訪れたハイドは、
疲れた様にため息を漏らした。
「そう、ありがとう。キヨちゃんは今、どうしてる?」
「どうしてるもこうしてるも、動揺しまくって気絶したよ。
ったく、こう言うのは本人が気づくべきじゃねえのか?」
ローズは気難しく頬に手を当てる。
「しょうが無かったのよ。もう、時間が無い。」
「だとしても、まだそうだと決まった訳じゃねえ。嬢ちゃんの夢はハゲの嫁らしいぞ?」
沈黙。
「・・・冗談、じゃなさそうね。でも、私にはそう見えたのよここ最近のあの子をみて、だって
あの子毎朝、早起きしてハンモックを覗いてはため息ついているの。」
「キャクタス情報か?」
「ええ、でもね。あたしにも会うたびにダンデチャンの事を聞くの。」
「ああ、俺にも聞いてたな。・・・ダンデは今どうしてる?」
「今はキヨちゃんの所に行かせたわ。事情を話す様に勧めたの。」
ハイドはうんうんと頷いていたが、
ピクリとローズの言葉に反応した。
「事情って、戦争の事か?」
「・・・全てよ。」
!!!
ハイドをローズの机ダアン!と強く叩きローズに詰め寄った。
「どう言う事だ!?まさか・・・ダンデリオンの過去や、呪いもか・・・?」
ローズはふるふると首を振る。
「そこまでかは分からない。あたしは全てと言っただけよ。」
「もし話していたら!?どうすんだよ!あんな過去、嬢ちゃんに受け止められるとでも?」
「・・・分からない。」
「また、ダンデを傷つける事になるかもしれねえぞ。良いのか?
ククア・ローズ。」
ローズは胸元でギュッと両手を握りしめ、吐き出す様に言う
「ハイド。これは一種の賭けよ。」
怪訝な顔をするハイド。
「あたしはダンデが全てを話そうが話さまいがは別に良いわ。
でも、キヨちゃんはきっと全てを知りたがると思った。」
ひゅっと息を吸い込みくっと顔を上げたローズの目には
決意の色が垣間見えた。
「あたしは、キヨちゃんならダンデを止めてくれると信じてる。」
ハイドは眉をひそめ、腕組みをした。
奥歯を噛み締めて、怒りを含んだ声を出す。
「あの弱そうな嬢ちゃんに、何を期待してるんだよ。なあおい、お前のやった
この賭けは相当重いもんなんだ。それを、分かってるのか?
人の・・・ダンデの心がかかってんだぞ!!!」
「わかってるわよ!!!」
凛っとした声にハイドは怯む。
「分かっているわ!ダンデリオンの受けた傷も、諦めたように化け物だと言う眼差しも!
全部、、全部隣りで見てきた!!」
ローズの瞳に涙が盛り上がる。
「全部・・・!だ、から、あたしは、賭けた!だって!だって恋をしたのよ!?
あの、子、が!!!あんっなっにズッ自分を人間と線っを引いてた。
あの子が・・・!人間の、女の子の側に、い、居たいって!!」
「だからあたしは、信じ、てるの。あの、二人を、
キヨちゃんだって、舐めて、かかると分から、ないわよ?
あの子は、いつだって私達の予想を超えて行く。
大丈夫。あたしは信じてるわ。」
ニヤッと笑いかけたローズをハイドは唖然と見ていた。
信じる心っつーのは理屈が通らねえな。。。
ま、こいつらしいっちゃらしいな。
いつもこうと決めたら突っ走るところ。
「・・・二人の様子。見てくるぜ。」
苦笑混じりにそう言うと、ハイドはクルリと踵を返していった。
しんと静まりかえった部屋は
不安を誘う。
一人になったローズはカタカタと震え始めた。
ダンデの心がかかってんだぞ!
分かってるわよ。けど、どうなるかなんて本当に分からないわ。
もし、もし、キヨちゃんがダンデリオンを傷つけたら・・・
【俺はあんたとは違う。】
不意に、あの時のダンデの言葉が脳に過ぎった。
あの言葉は、深く心に突き刺さった。
慕ってくれていた弟からに拒絶。
全てが変わってしまったのだと気づいたあの日。
・・・そう、あたしではあの子を救えなかった。
姉弟なのに、受け止め切れなかった。ダンデの傷。
力も度胸も無いあたしは、その希望をキヨちゃんに託している。
狡い女ね。私も
ふふっと自嘲の声を漏らす。
目を静かに閉じ、祈る様に手を握る。
・・・信じているわ。二人とも。
日が傾き始めて、夕方に近づいて行く。
海が土を濡らしていった。