2・2人間の身体
固く冷たいベットの上に
僕は寝ていた。
「・・・今、何時だろう。。。」
ここに来て随分になるが、ここには時計が無い。
あるのは、トイレとベットのみ。
外にはたまに出してもらえるけど、楽しい事なんて一つも無い。
いや、そもそも楽しいという感情を忘れてしまった。
何もする事がないから、どんどん過去の思い出が湧いてきて
必ず母さまの死に際で終わる。
悲しいとも最近思わず、ただただ胸が痛くて掻き毟る。
そして、
牢の中で何度も自身を責めた。
何故あの時花なんて見つけたのだろう。
何故早く帰らなかったのだろう。
声が出なくても、何かで母さまを逃がせたかもしれないのに、
母さまは死んだのに、それなのに、
何で僕は、、、生きているんだ。
化け物め。死ね、死ね、
もう、もう死にたい。
その頃僕の中の感情は死にたいという事だけだった。
死にたくて仕方が無かった。
首を本気で締めた事もあるけど、気を失う寸前で
力が入らなくて結局咳き込んで終わりだった。
僕は実験台でもあったけど、
どうやら兵器でもあるようだと気づいた。
何故なら
外に行かせてもらう時はいつも何処かの戦場で、
そこで僕は何人もの人を殺さなければいけなかった。
僕は死なない身体だから。
背中を切られようが、首をはねられようが、生き返る。
そして、身体からたくさんの
ツルを出して敵の首を落とす。
そのサギョウを繰り返す。
何度も、何度も、敵が降参しても、泣き叫んでも。
僕には蠅を潰す事のように簡単に出来た。
死にゆく人間を見て、
自分が化け物という事を思い知った。
そして死ねる事が羨ましく、妬み、更になぶり殺していった。
僕のその能力を鍛えたのは、あの男であった。
父様の命に従い、僕を牢に入れた人間。
母さまの死を僕に伝えた人間。
いずれ殺す予定だった、人間。
でも、殺す必要は無くなった。ある日突然。
僕の牢の扉が壊された。
何が起きたか全く分からなかったけど、
目が痛い位の光と共に
ある青年が現れた。
抱き締められて、その温かさに触れ、分かった。
僕には、人間の部分が残って居た事に。
久しぶりに、返り血以外の液体が
頬をつたう。
青年もどうやら泣いて居て、
その声は何処か兄を思い出させた。
そして彼は何かを呟いて居た。
でも、僕には聞こえない。
だって青年の体温や青年の心臓の鼓動。
そして
僕の心臓の鼓動がうるさすぎて、聞き取れなかったんだ。
冷たい牢に、熱い二人の涙が幾つも幾つも落ちる。
何で泣いているのだろうと思ったけど、
結局分からずじまいだった。
それから僕は懐かしい城に帰ってきた。
でも、帰ってきたくは無かった
僕はもう化け物だし、母さまを殺した張本人でもある。
そして父様も居るから、戻ったら何をされるか分からない。
もう普通の人間ではいられない。
「・・・ダンデリオン。ほら、あそこがお城だよ?
分かる?」
空は夕焼けで真っ赤に染まっている
海の水が足元が浸かる位になって、僕らは舟に乗った。
青年が向こうを指す。
いよいよ怖くなって、逃げ出そうともがくけど
たくさんの男達に羽交い締めにされた
パニックになって
ツルを出そうとした瞬間、
また青年に抱き締められた。
「っダンデ様!落ちついて下さい!もう、父様は居ません!
貴方を傷つける人は、もう、居ません!!」
!!!
その口調は、兄のものだった。
懐かしい兄。ローズの、敬語。
「ロー、ズ……。お兄ちゃんなのに、敬語って変だよ。」
掠れた声で前に言った事を繰り返した。
随分と人とは変わる物だ。あの少年が、こんなにも変わるとは。。
「・・・うん。そうだね。・・・ダンデ。おかえり。」
また、目頭が熱くなったけれど、
僕はただいまとは言わなかった。言えなかった。
ここを帰る場所には出来ないから、
だって化け物だから。
城に着いてから、とにかく色んな事を学んだ
僕が行方不明になってからの城のこと。
先代の王が亡くなって、
ローズが王になって、
本格的に僕の行方を探って居たこと。
あれから、かなりの時を経て居たこと。
そして、これからの僕のこと。
呪いを解く方法は無い。
ローズ達も、僕が見つかって始めて呪いについてしったらしいし、
治る見込みは、あの男の研究データから皆無だという事が分かった。
ああ、あの男は死んだよ。自殺。
罪に問われるのが怖かったんじゃないかな?
僕はたくさん勉強して、
ついでに一人称も俺にして、
成長をした。
召使いの人は優しく、いきなり城に入って来た俺におかえりと言ってくれた。
教育係の人も俺は勉強熱心だと褒めてくれた。
食堂の人達も温かいオニオンスープを夜食に出してくれた。
その度にその髪はどうしたと聞かれるのは困ったけど、
何とか誤魔化して、それを信じてくれる優しい人達。
ハイドという奴にも会った。ちょっと無表情で怖そうだったけど、
案外へぼくて良い奴だと思う。
幸せだと思う気持ちを、思い出させてくれた時間だ。
そして、そんな生活を送っているとある時ローズから
呼び出された。
「ダンデ。君はこれから忙しくなるよ。
私が王座についたから、君は王子になるがその仕事も覚えてもらう。」
いいね?と王室の椅子に座りながら、ローズは念を押した。
「ああ、分かっている。俺の事は皆にはどう言うんだ?呪いの事も。」
「呪いについては、考えておく。皆の者には、伏せておくつもりだ。
けれど、研究は進めて行くつもりなんだ。
今の技術を使えばもしかしたらって事もあると思うから。」
そこで咳払いをした後、ローズは僕の目を見ると
途端にハラハラと涙を流し始めた。
兄の涙を正面から見るのは初めてで、俺は酷く狼狽える
「ダンデ、ダンデ・・・!ごめんね。ごめんなさい。
折角、貴方をあんな地獄から出せたのに、、、!
また、同じ事になろうとしてるの。」
意味が分からず、
問いただすと
「父様の代からの臣下が、貴方を実験台にしようとしている。
何とかして阻止しようとしているけど、何故か実験台賛成派が多くて、
もう、どうしたらいいか分からないの!!」
パシャンっと胸の中で何かが割れた音がした。
・・・ああ、そうか。そうだよな。
皆、呪いの正体が分からなくて怖いのだろう。
もしかしたら伝染るものかもしれないのだ。
そして、呪いを受けているのは俺一人。
しょうがない。
俺は、化け物なのだから。
しょうがない。
「ローズ、ありがとう。いいよ。別にもう。
前と同じ事でも、もう良い。俺は死なない身体だから。
何をされても大丈夫だ。」
ローズの顔がさっと青ざめる。
けれど、これだけは言って置かないといけないんだ。
「・・・俺は、あんたとは違う。」