1・18押せよ
「ダーンーデ!ねえってばー!」
すりすりと寄って来た喜代殿は悩殺オーラをムンムンと放っていて
俺はうっかり過ちを犯してしまいそうで怖くなる。
・・・せめて、はだけた胸元を隠してくれ!
喜代が寄る、ダンデが離れる、、、そんな攻防戦を繰り広げて
遂に部屋の角に来てしまい、喜代がダンデの膝に乗り込んでダンデの逃げ道が塞がれた時にハイドは欠伸をしながら
気だるそうにダンデに言葉をかけた。
「おーいお二人さん。俺もう眠いんだけどさ、もうそろそろ終わりにしない?
ふ、わあ~ぁ、、、いいじゃんダンデぇ、チャンスじゃん。惚れてんだろ?
好きな娘にチッスなんかそうそう出来ねえんだからよお。」
茶化しながら言っているが、実は相当退屈して眠たくて仕様が無いのだよ?君ら。
このハイドの言葉はかなりの効果があったらしく、ダンデはピクリと肩を震わせ、
すっと顔を引き締める。
やっとやるか!!!周りが期待に目を輝かせた瞬間、
「愛しているからこそ、してはいけないのだ。」
決意を孕んだダンデの物言いに、一同はハア?となる。
「きっと、喜代殿は酔っ払っている。それで判断力が低下して、この様な事になっているのだ。
もし、そんな時に貴様らの言うノリとやらでキスを強要されて好きでも無い男からされてみろ。
後できっと喜代殿は、酷く傷つく。・・・それだけは絶対にしてはいけないのだ。」
ダンデの一人ごとのような呟きは、部屋に木霊していく。
余りの 冗談の通じ無さに全員は完全に酔いが冷めてしまっていた。
そんな中、凛とした声が響き渡る。
その声の主は、酔っ払っているはずの喜代であった。
「ヘタレ。
もう、ダンデなんかヘタレだよ!ずうっと思ってたけど、好きになったらそんなにモタモタ
してちゃ駄目なんだよ!思い立ったが吉日なんだよ!
・・・じゃないと、佐々山先生みたいにあたしもなっちゃうかもよ!?佐々山先生はなー、佐々山先生はなー!あんな、仕事熱心な態度しやがた癖になあ!
それなのにいい、こ、こんにゃく者とかなあ!あり得ないっつーの!
ちくちょーう!子どもだからってなんだよおおお!法律がにゃんだよお!そんにゃの、愛の前では、、、むにゃむにゃ…」
それだけ言うと、喜代殿は糸が切れたように俺の胸に頭をもたれ掛け、
すうすうと寝息をたてはじめた。
余りの出来事に重苦しい沈黙が降りてくる。
リビングのご馳走やらなんやらが散乱した状態はひどくこの空気に不釣り合いで、
何処か滑稽にも見えた。
そして、気まずい空気が漂う中だったが、ダンデはそれどころでは無かった。
佐々山先生……とは、
ダレダ…?愛の前では、だと?
喜代殿、だれなんだ。。喜代殿の何なのだ!
誰だ、どんな奴だ!
おい喜代殿!
頼むから、何か言ってくれ
喜代殿! 喜代殿!!! 喜代殿!!!
激しく心の中で問いただしても肝心の御人の呑気に愛らしい寝息しか聞こえない。
手を見ると微かに震えている、、、動揺を隠せない俺は、歯痒い思いでギリギリと
下唇を噛む。脳内にあらぬ妄想が次々と浮かんでは消えていき、さらに自身の心をかき乱していく。
同じ疑問が繰り返し頭に反響して頭痛もして来た。
ダンデのヘタレ!
喜代殿!そうなのか!?おれは、ヘタレなのか??どうしたらいい!?
どうしたら、喜代殿の理想に近づくんだよ?・・・教えてくれ!誰でもいいから!!
そう思い、ぎゅっと目を閉じて懇願した瞬間。
肩にかすかな温もりが伝わった。
おそるおそる頭をあげると、見知った顔が並んでいた。
俺の肩に手を置いたハイドがふわりと微笑む。
目の前に光が差した気がした。
これ程までに頼もしい人間だと思ったことはないぞ、ハイドよ!
そして、今まさに俺を救ってくれるだろう、ハイドが口を開く。
「もう寝るぜ。」
そして、周りの人間もその言葉にうんうんと首を縦にふった。
・・・・そう言う奴らだよ、お前らは、、、
そうして、奴らは早々と会場を去って行った。
・・・ふう、ああもう、なんか毒気が抜かれたからいいや。とりあえず、
今は小さくYシャツを掴んで居る小動物さんをどうするか、、、だな。
はああっと何処か呆れたような、吹っ切ったようなため息をつきながら、
ポンポンと愛しい背中をたたく。
喜代殿、、、俺はまだ喜代殿の理想が良く分からないけど、勉強するよ。勉強は好きだし、
喜代殿はもっと好きだしな。。。
ダンデリオンは二人しか居ないリビングを見渡し、もう一度短いため息をついて、
ぐっすり寝ている喜代を見つめる。
思い立ったが吉日・・・か。
少しずつダンデリオンの顔が喜代に近づいていく、
喜代が額についた唇に気がつくことは最後まで無かった。。。