1・15.小さな異変
シャッシャシャッシャ…
「はあ。」
シャッシャシャッシャシャッシャシャッシャシャッシャ…
「はあ。」
喜代はここ最近物置の掃除ばかりし、
塵一つ無くなった床を未練がましく竹箒ではきつづけ時折、ため息を溢していた。
「なんかあったんスかねー?喜代様。」
「うーん、分からないわ、、、もしかのもしかで、乙女のお悩みかしらん??」
「陛下〜喜代様は元から乙女ッスよ〜?」
「いやん、ち・が・う・わ・よ★乙女のお悩みって言ったら、アレしかないわよ!」
喜代がここに来て一週間が経とうとしていた。
そして、
喜代の所に遊びに来たローズとクレマティスは喜代の異変に
気づき、
こっそりツルの扉の隙間から様子をうかがっていた。
・・・・後ろに迫る影には気づかず、
「喜代殿は悩んでおるのか!?」
焦ったような声に二人は後ろを振り向く
そこには・・・
Yシャツを来て帽子を被った
今日はどうやら仮面をして居ないらしいダンデリオンが大量の本の山を抱えながら
突っ立っていた。
ローズはこれから言おうとしていた言葉を慌てて飲み込む。
非常にダンデリオンには不愉快な内容であったから。。。
「あらやだダンデちゃん!・・・貴方って本当に空気の読めない子ね、何だってこんな時に
そんなんじゃ将来女の子にモテないわよ?」
「現在進行形でモテたことなどない・・・で、喜代殿は何故悩みなど、、!?」
この世の終わりみたいなオーラをしてズンズンと迫り来るダンデに少々閉口しながらローズは
しぶしぶ答える。
「だ、だからきっと恋患い………なんじゃないかな?って、、、
お、女の子のため息なんてそれ以外にないのよぉ!」
ピシリ。
何かが固まった音。
「いや、それ以外にも色々あるッスよ〜。ガムが髪についたり〜、
?ダンデ様?何で動かないんスか?………応答無しッス。」
「・・・あららホント。ダンデチャン?おーい、まあ、しょうが、、、ないわね」
ローズがポリポリと頬を掻いていると
それまで返事も何もなかったダンデはおもむろに
右手を握りしめると何かを呟く。
瞬間。
シュルルルルルルルルルッ!!!
ツタがダンデの握りこぶしから出て来て床に到達する。
さらに何かを呟くダンデ。
ゾルッ!
気色の悪い音がしたと同時にツタから何本もの棘が生える、、、とっても鋭利だ。
「・・・どいつだ、何処のどいつだ、喜代殿のことを誑かすような腐れ外道は!!!
殺る。確実に仕留め火で炙り、目玉をくり抜き、蜂の巣にしてやる!!それから、それから、、」
目が完全にイッっちゃっている。。。
そして、一介の女中と王様でしかない二人は余りの激昂に顔を青ざめさせる。
そしてダンデはギリギリと歯を食いしばりブンブンとツタを振り回し、更なる拷問を
思案している。
すると、ツタが壁にブスブス突き刺さって壁を壊し、城内が見る見る内にボロボロになっていった。
やっと我に還ったクレマティスはボロボロな城を見て、さっと
ダンデを止めにかかる・・・ことは流石に勇気がないので説得を試みた。
「ね、猫仮面様?ま、まだ喜代様が恋患いとは決まってないッスよ?
第一、相手だって分からないんスよ?お願いッスから止まって下さい。頼むッスよ〜。。。
・・・・・喜代様は、散らかす人は嫌いって言ってましたよ。」
最後の一言でカチーンと音がするくらい固まったダンデを見てクレマティスは
驚きを遥通り越して最早呆れた。
ダンデはだらりと腕を垂らし、重いため息をつく。
「・・・もし、喜代殿の好きな男が、俺と正反対だったら、、俺は、、どうすれば、、、」
ぼそりと重々しく落とされた言葉と片手を顔につけたダンデにローズもクレマティスもすこし彼を
哀れに思った。
ローズは失恋しているかもしれない(一回フラれているのでもうしている)
弟に何か慰めの言葉をかけようと口を開いた。
「ダンデちゃん、、、まず、そのツタをしまいなさい。
女の子の前ではいつも紳士でいなきゃ!あと、可能性は0じゃないんだもの。。。
せっかくの恋なんだもの、精一杯やって、玉砕するならスカッとよ!
・・・・ガンバんなさいよ!!」
バッシーン!とダンデの背中を力強く叩き、喜代の部屋の前に
立たせる。
「行って、聞いてらっしゃい。何故悩んでるか、そんでもって力になってあげて
株をガーンと上げて来なさい!!」
グッと親指をたてるローズはとても逞しい。
「・・・兄貴、「殺されたいかしらん?」、、、姉貴。ありがとう。」
まさに姉弟愛!!
クレマティスは感動の涙を滝の如くドードーと流す。
ダンデは深呼吸をした後、真顔になって、
ノックをした。
「・・・はあい。。。」
やはり、喜代殿は何か落ち込んでいる。。。
うん、自分の失恋よりも今は喜代殿のことだ!!!
シュルッとツルが完全に開くと喜代殿のクリッとした目に射られた。
そしてその目は大きく見開かれ、
顔は口を真一文字に結び、覚悟を決めたような表情になった。
「・・・遂に来やがったな。・・・さあ、あたしは逃げも隠れもしない!
殺るなら早くやってくれい!!!!」
意味不明な言葉を吐いた喜代殿はその場で正座をする。
・・・殺る?
随分と物騒な話だな。。。
自分はその数百倍物騒なことを言っていたのだがダンデは覚えがないらしい。
「喜代殿?あの、どういうことだ?全く話がみえない、、、」
すると、喜代殿はすっくと立ち上がりキッと俺を睨む。
若干ウルウルしていた。
・・・・キュン。
只今ダンデの胸中で不穏な音がしたがあえて無視しよう。
喜代は息を短く吸うと、
「もういいじゃん!こんなに一週間も地獄のお勉強時間がいつ来るか、いつ来るかって
悩んでいるのもういやなの!どうせ後にも地獄先にも地獄なら早いほうがいいのーーーー!」
という悲痛な叫び声をあげた。
じたじたと地団駄を踏む喜代に
一瞬ポカンとしてしまったが、ダンデはああ、とどうやら納得したらしい。
直ぐに喜代に説明をする。
「喜代殿、すまない。何分資料集めや仕事が忙しくてこんなに空いてしまったのだ。。。
だがもう大丈夫だ。今日から始められるよ。」
そういうとよっこらしょと扉の前に置いておいた本の山を持ってくる。
バサササーーー!!!
その量に言葉をなくす喜代。
「そうか、そんなに心待ちにしてくていたのか、、、悩むくらい・・・!!」
歓喜の声を漏らすダンデは喜代が恋患いじゃないのとダンデの授業を待っていてくれたのだと都合よく解釈をし
ダンデは嬉しくて嬉しくて、今にも頭から薔薇を飛ばそうとしていた。
「あ、喜代殿、問題集も沢山用意しておいた。一緒にぜんぶやろうな。
・・・う、嬉しいか?」
もじもじとハニカミながら出されたざっと厚さ1mはあるであろうそれに
喜代の顔は引き攣る。
・・・地獄なんてもんじゃなかったな。。。
ニコニコと微笑むダンデと苦虫を噛み潰したような顔の喜代をみていた
ローズは自身の王様になるためのマナーなどをダンデに教わった時の事を思い出す。
・・・・キヨちゃん。お愁傷様。ダンデチャンああなるともうダメなの。。。
心の中で喜代に合掌。
「では、早速やるか!まずは、、、ん?喜代殿ちゃんと、席につけ。・・・ほら。」
ぎゅっと手を握られ席に導かれる喜代。
笑顔のダンデの瞳にひたりと射抜かれる。
・・・トクン
あれ?
・・心臓がはねた気がした。
・・・握られた手が熱い気がした。
・・・・ダンデの笑顔が眩しい気がした。
その小さな異変の正体に喜代が気づくのは、
もう少し後。。
だああああ!
できたあ!風邪なのに!明日卒業式なのに!!!
まあ、いいか。ちなみに教師マンなダンデのモデルは母だったりします。
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