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四華物語2

作者: WAIai
掲載日:2026/09/03

「ーよし、市場に行くか」

邸の厩舎の前で、王貴珠は仲間にそう告げた。

貴珠の邸は大きく、父親の王清康の手腕ぶりが表れている。

「お嬢、ついて行きます」

「おう。俺も行きます」

二人が言い出したので、貴珠はうなずく。

暴れ馬だったのを、貴珠がならせて、今では良馬になっている。

「よーし、よし」

馬の首を撫でてやると、気持ちが良さそうだった。

その他にも馬がおり、貴珠の家はこの界隈では、有名な家だった。

ー任侠の家だからな。

他人を警護したり、自分達の領域をおかしたりする者を倒したりすることなどで、金を得ていた。

貴珠はもう十六歳なので、家のことは分かるようになっていた。

普通は女だと襦裙を着るのだが、貴珠は嫌がり、男装している。

このほうが身軽だし、いざという時のために、動けるからだった。

「頼むぞ、相棒」

馬に話しかけると、ヒヒーンと鳴く。

貴珠は飛び乗ると、邸を出る。

後ろには二人の護衛がついていた。

紅粧の街は碁盤目となっており、整理されている。

馬を市場へ向けて走らせてやると、他にいざこざがないか見て回る。

どうやら皆、貴珠達の姿に礼をする者や、白い目を向ける者など様々だった。

ー人間とは、面倒くさい生き物だな。

自分の感情を出すだけ、他の動物よりも阿呆かもしれないと、冷ややかに見返す。

どうりで、街の人達が貴珠達に対して、色んな感情を抱くのは、目立つ存在だからで、どうしようもなかった。

ー俺は俺のやることをやるだけだ。

貴珠は自分のことを俺と言っており、本当は男になりたいのだった。

「お嬢、市場ですよ」

「おう。…どうどう」

馬の速度を落とすと、仲間に手綱を渡し、市場の中へ一人で入って行こうとする。

「お嬢!! 一人では危ないです!!」

「大丈夫だ。ちょっと見回ってくるだけだから。心配してくれてありがとうな」

そう言うと、貴珠は仲間を置いて市場へ入る。

各国ーここは春華という国のなのだが、他にも三国あり、夏華、秋華、冬華と花びらの形をしていた。

その三国とは貿易があり、色んなもの、珍しい生き物から食べ物、衣服が並んでいる。

通り過ぎるのも一苦労なくらい、皆、市場に集まっており、楽しそうな雰囲気だった。

ーこれなら、大丈夫そうかな。

ふうと息を吐くと、腰の剣に触れる。

いざという時のために、さげているのだが、本当はあまり使いたくなかった。

ーいつも仲間相手に練習しているから、腕前はそう悪くないと思う。

そう思いながら、商品と人の波を見ていると、「きゃあ!!」と悲鳴が上がった。

何かと思えば、男二人が喧嘩していた。

「何? どうした?」

二人は取っ組みあっており、顔が怒りで真っ赤だった。

状況を若い女性が教えてくれる。

「どうも商品を盗んだとか、盗まないとかで、その、最初は口喧嘩だったんですけど…。段々と酷くなっていって…」

「そうか。ーちょっと失礼」

貴珠は人の間をくぐり抜けて、二人の間に入ろうとする。

「ーやめておけ。皆の邪魔だ!!」

「…何、お前。誰だ!!」

「そうだ!! 邪魔するな!!」

二人に反論されたが、貴珠は冷静で、二人に近づいていく。

驚いたのは、二人のほうで、貴珠をまざまざと見る。

「何の用だ? どけ!!」

「いや、どかない。ーえい!!」

一人の腹を蹴ると、「うっ」と油断していただけあって、深く入ったらしい。素早く動き、もう一人にも蹴りを食らわせると、男二人は怒りの形相で、貴珠を見てくる。

「おい、俺らが何なのか、知っているか?」

「それがどうした? 早く言え」

「俺達はな、王家の任侠なんだよ。強いんだぞ」

「何…!!」

かっとなったのは貴珠のほうで、勝手に名乗られては困ると、剣を取り出す。

八つ裂きにしてやるつもりだった。

「ふざけるな!! 王家の名前を語るんじゃない!!」

剣を振りかざすと、悲鳴が上がった。

しかし貴珠は気にせず、器用に身体を動かすと、剣を鞘の中にしまう。

「へっ。俺らが怖い…わ!!」

袍が斬られ、男達は恥ずかしい姿となる。

血なまぐさいのは好まないので、貴珠は軽く斬ったつもりだった。

「ー阿呆。王家の人間とは俺のことを言うんだよ」

冷めた口調で言うと、男二人は「え」ともらす。

貴珠は本当は名乗りたくなかったのだが、周りが誤解しても困るので、堂々と口にする。

「ー王貴珠だ。俺の家の者が、市場で喧嘩するわけがないだろう」

呆れたように言うと、貴珠は腰に手を当てる。

男二人は急激に青ざめ、貴珠を見てくる。

「王貴珠…? …まさか本当に?」

「本当に、本当に、本物だ。勝手に王家を名乗るな」

吐き捨てると、男二人は素早く袍を回収すると、喧嘩のことなど忘れたかのように逃げて行く。

貴珠はやれやれと肩を竦めると、皆に言う。

「安心しろ。もう喧嘩はおさまったから。ゆっくり買い物をしてくれ」

皆、最初は顔を見合わせていたが、そのうち拍手が小さくあかる。

「よくやった」

「ありがとう」

など、好意的なものが多かった。

ー買い物の時くらい、ゆっくりしたいものな。

家でのことや、街でのことなど忘れ、純粋な子どもに戻ったかのように、好きなものを買って欲しかった。

貴珠は皆に一礼すると、市場を更に歩いていく。

良い香りが漂ってきたが、すぐそこで喧嘩いたとは思えないくらい、人々は談笑していた。

ーそれでいい、それで。何もないのが一番だ。

貴珠もちらちらと店を覗いていく余裕ができ、足を進めていく。

しかし仲間を待たせているので、ある程度で戻ることにした。

「お嬢!! どうでした?」

聞かれて、貴珠は正直に答える。

「喧嘩の仲裁に入った。二人の袍を斬って、撃退したけどな」

「お嬢、危ないことは…」

「大丈夫。俺も一人前にならないと」

「ですが、俺達がいる意味がないでしょう? もっと自分を大事にしてください」

待っていた仲間に口酸っぱく言われ、貴珠は「はいはい」と答える。

しかし、心配してもらえるだけ、自分は愛されていると、反省する。

「今度はお前らも連れて行くから」

「お願いしますよ、お嬢」

二人に頭を撫でられ、貴珠は腹を立てるどころか、安心する。

「ありがとうな、二人とも」

「ほい。次はどこに行きますか?」

「そうだな…。目立ったみたいだから、街を一走りしてから邸に戻るか」

「そうしましょう。全く、喧嘩の仲裁なら、俺らに言ってくださいよ」

「分かった、分かった。…あ」

二人に伝えている途中で、頬に冷たいものが当たった。

それはにわか雨らしく、ゆっくりと小粒が降ってくる。

ーわ。綺麗だ。

にわか雨は絹の糸のように流れてきて、三人を包み込んでいく。

織物にしたら気持ち良さそうだと、考えていると、虹が出てくる。

「おい、あれ!!」

貴珠が指差すと、二人も同じ方向を見る。

とても美しい光景に、天国に来たのではと思ってしまう。

ー今日は良いことがあるな。

表面上は冷静を保っていたが、心の中では胸が速く打っていた。

口を開けて雨を受け取ると、甘露のようだった。

「ーよし、行くか」

「はい!!」

貴珠は馬に乗ると、仲間二人と走り始めたのだった。


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