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第4話 苦難は続くよどこまでも⑪

 天井から吊るされた大きなモニターに、でかでかと『STRIKE』の文字が表示され、梛はようやく我に返る。


「……え、ストライク?」


「ストライクだー! 梛すごーい!」


 困惑する梛に、凜桜は後ろから抱きつき、まるで初めて何かに成功した子供を褒めるかのように頭をよしよしと撫で始めた。


 すると、凜桜のその声で気づいたのか、隣のレーンの席から美卯たちが顔を覗かせる。


「お、お兄さん、ストライク取れたんですか!?」


「へー、お兄ちゃんストライク取ったんだ。すごいじゃん」


「やっぱり梛はすごいね。私なんて三本しか倒せなかったのに……」


 と、三人が梛を称える一方で、同じレーンの陽葵はうんざりした様子で、疑うように梛を見つめてきた。


「……なんすか。梛先輩も本当は経験者で、初心者のふりして自分を騙してたんすか」


「いや、違う。俺は綾芽さんみたいななんちゃって初心者じゃなくて、陽葵と同じ、ごく普通の初心者だ。疑うなら、姉貴でも美卯でも楓でも、好きに聞いてくれ」


 梛は己の潔白を証明するため、抱きついたままの凜桜や、隣のレーンの美卯や楓に助けを求めた。


 昔からどこへ行くにも凜桜はついてきたし、なんだかんだで美卯と楓も行動を共にしていたので、もし梛がボウリングで遊んだことがあるなら、当然三人も知っているはずだ。


 つまり、三人が今日のボウリングが初めてだと証言してくれれば、自動的に梛の無実も証明されることになる。


「俺も姉貴たちも、ボウリングは今日が初めてだよな? ……あ、ゲームは除いて、な?」


 梛が問いかけると、三人は揃って首を縦に振った。


「そうだよー!」


「うん、初めて……だよね? そのはずだけど……」


「初めてで合ってるよ。――ま、お兄ちゃんは『バイトがある』ってお姉ちゃんに嘘ついてたみたいだから、私たちの見てないところでやってるかもしれないけど」


 ……最後の最後に悪魔が現れた。

 美卯はこの状況を楽しむかのように、いたずらっぽく笑う。


「おい、美――」


「やっぱりそうなんじゃないすか……。自分を騙してたんすね……」


「いや、だから……」


「梛くん酷い! 私たちを騙してたのね!」


 美卯の小さな嘘ひとつで、一気に梛が悪者へと仕立て上げられてしまった。


 陽葵は拾いたての野良猫のように梛を警戒し始める。


 その上、綾芽までもが梛を……いや、この人に関しては、美卯と同じようにこの状況を楽しんでいた。

 どこまでも迷惑な人である。


 わざとらしい演技を見せてくる綾芽の顔をぐいと押し退け、梛は億劫そうに息を吐いた。


「……たしかに、姉貴に嘘ついて遊びに行くこともあったけど、ボウリングについては今日が初めてだ。いやまあ、ゲームでは相当やり込んでたけどさ」


「それなら、ゲームで楽しかったから現実でもやろうってなるかもしれないじゃないすか」


「陽葵は、格ゲーやって楽しかったからって、実際に殴り合おうってなるのか?」


「それは……たしかにそっすね」


 顎先に手を当てて数瞬考え込んだのち、陽葵は納得したようにこくんと頷いた。


 そして、先程とは一転、けろっとした様子で言ってくる。


「ま、梛先輩が綾芽先輩みたいなくだらない嘘をつくはずないっすもんね!」


「ねー、さっきから二人揃ってお姉さんの扱いが酷くなーい? お姉さん、そろそろ本当に泣いちゃうぞー?」


「ご自由にどうぞ。……あ、面倒なので見えないところでお願いします」


「凜桜ー、梛くんが冷たいよー」


 梛が適当にあしらうと、綾芽は慰めを求めるように、梛に抱きついている凜桜へと泣きついた。


 とはいえ、凜桜は梛ファースト。

 梛に「あまりいじめちゃダメだよー?」と優しく言うだけで、それ以上は何もしなかった。


「普通にお兄ちゃんもくだらない嘘はつくけどね。まあ、無駄に罪悪感があるみたいで、すぐ顔に出るからわかりやすいんだけど」


「でも、そういう正直なところが梛のいいところだよね」


 楓がやんわりとフォローするように言うと、美卯は呆れたように肩をすくめる。


「嘘をつけないって、時と場合によっては欠点とも言えるような気はするけどね」


「で、でも、私は楓さんと同じで、正直なのはいいことだと思いますよ! 陽葵なんて、しょっちゅう嘘をついてるので」


「人聞きの悪いことを言わないでほしいっすね。まるで自分が嘘つきみたいじゃないすか」


 陽葵が鼻で笑うと、桔梗は少し間を空けてから再び口を開いた。


「……中学生のとき、お母さんに怒られたくなくて、テストの点数書き換えてたよね?」


「……なんのことっすかね」


 陽葵はそっぽを向くと、とぼけるように口笛を吹き始める。

 アホの子ではなく、バカの子のようだ。

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