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第4話 苦難は続くよどこまでも⑨

「おーい、梛くーん。こっちこっちー」


 と、先に来て待っていた綾芽が片手でタッチパネルを操作しながら、もう片方の手をひらひら振って呼んでくる。


「お姉さんとも勝負しよーぜー」


「なんですか、初心者狩りですか? そういうのよくないですよ」


 言いながら隣のレーンの席に座ろうとすると、綾芽は梛の手を引っ張って引き止めた。


「ちょっとちょっと! お姉さんとも遊んでくれたっていいじゃないか!」


「勝ち目のない勝負はしない主義なんで」


「だいじょーぶ! 私も初心者だから!」


「……じゃあ、それは何ですか?」


 梛は綾芽の膝元を指さす。


 その先には、中途半端に穴の空いたグローブが置かれていた。

 初心者の梛でも知っている、ボウリング用のものだ。


「えーっと、これはね……そう! おしゃれだよ、お・しゃ・れ!」


 綾芽はグローブを嵌めると、誤魔化すようにヴィジュアル系バンドのボーカリストのようなポーズをとる。


「……そんなんで騙される馬鹿がいるとでも?」


「綾芽先輩……さすがにそれは無理があるんじゃないすかね」


「お兄ちゃんでも騙されないでしょ……」


「…………だよねー」


 三人から白い目を向けられ、綾芽は頭に拳を当てて舌をぺろっと短く突き出した。


「いやいや、でもね。やったことはあるけど、過去に二回くらいしかやってないわけだよ。つまり初心者と言っても過言ではない!」


「過言に決まってるでしょ。専用の装備まで持っておいて何言ってるんですか」


 どうやら、梛たちと綾芽とでは初心者の定義が違うらしい。


 熟練者とまでは言わないが、経験者であることには間違いないし、ボールの選び方やパネルの操作を熟知していることから、少なくとも綾芽は初心者ではない。


 もっとも、当の本人は初心者だと言い張っているのだが。


「でもさでもさ、たまにいるじゃん? 見た目から入る人って」


「……つまり、綾芽さんもそうだと?」


「そうそう! そゆことそゆこと!」


「……」


 先輩とは思えないあまりの見苦しさに、梛は姉の友人に向けるものとは思えないほど冷ややかな視線を向けた。


 梛だけでなく、美卯と陽葵も呆れ返っているというのに、綾芽はそんなのお構い無しというふうに言ってくる。


「だーかーらー、そんなに冷たくしないで、お姉さんとも遊ぼーぜー」


「そりゃあ、せっかく来たんだから遊びはしますけど……」


「あ、梛くんの名前こっちで入れといたから、お姉さんと同じレーンねー」


「おい、こら」


 自由奔放――というより勝手すぎる綾芽に少々苛立ちを覚えつつも、梛は嘆息し、渋々同じレーンの席に腰を下ろす。

 と、ボール選びに悩みに悩んでいた楓と桔梗が合流した。


「お、お待たせしました……!」


「ごめんね、遅くなって。どれを選べばいいのかわからなくて」


「気にしなくて大丈夫だぞ。むしろ、遅れた方が幸せだったかもしれない」


「ちょっと、それどういう意味よー!」


「そのままの意味ですよ。ほら、全員揃ったわけですし、やるなら早くやりましょう」


 梛が話を逸らすように促すと、美卯が「お兄ちゃん」と肩をちょんちょんとつついてきた。


「いつまでお姉ちゃんをそうやってくっつかせてるつもり?」


「……俺に聞くなよ」

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