第4話 苦難は続くよどこまでも⑥
そうして、美味しいケーキに舌鼓を打ったり、なかなか補充されない旬のスイーツに悲しんだりと、一喜一憂しているうちに少しずつ時間が過ぎていき、皆が二周目終盤に差し掛かった頃――梛は、ふと異変に気づいた。
一周目より多くとったので、数が多いのはわかる。
だが、食べても食べても一向に数が減らないのだ。
いくら味わって食べていたとしても、さすがに時間がかかりすぎているし、なにより皿の大きさに対して食べたケーキの量が多い気がする。
と、梛が紅茶を口に運んで一段落していると、梛の皿の隅に、いつの間にか一つケーキが増えていた。
梛は正面に座る綾芽を半眼で見やる。
「……なんですか」
「んー? なんのことかなー?」
「いや、今、綾芽さんと陽葵以外みんなケーキ取りに行ってますよね。置かれた位置的に綾芽さ――って、おい陽葵」
「んー? どうしたんすかー?」
とぼけながら陽葵は、梛の皿の上にしれっとケーキを載せてきた。
それに便乗するように、綾芽がさらにケーキを載せてくる。
「あんたら……」
「違うんすよ。さっき、梛先輩から水色のケーキもらったじゃないすか? それのお返しっす」
「そーそー! 決して、甘いのに飽きてきたとか、そういうのじゃないよ!」
ポテトフライをつまみながら、陽葵と綾芽は悪びれもせずにさらにケーキを載せてきた。
梛は載せられたケーキを見つめながら大きく息を吐く。
「……恩を仇で返すって、知ってます?」
「梛くん、これはホワイトデーみたいなものだよ。ほら、梛くんからケーキを一つもらったから、そのお返しにって」
「ホワイトデーのお返しって、あっても三倍返しですよね。さっきからずっと置かれてますけど、三倍返しどころの話じゃないですよ」
梛が皿のスペースを空けるたびに、綾芽と陽葵が次々と載せていた。
かれこれ、六個ずつは載せられてる気がする。
「自分で置いといてあれっすけど、よくそんなに食べられるっすよね。甘いのばっか食べてて飽きないんすか?」
「そろそろポテトみたいなしょっぱいものが食べたくなってくるんじゃないかなあ? ほれほれー」
さすがに申し訳なくなってきたのか、陽葵が心配そうに訊いてくる一方、綾芽は申し訳なさの欠片もないようで、まるで催眠術でもかけるかのように、梛の前でポテトを左右に振る。
「正直に答えれば、分けてやらんこともないぞぉ?」
「いや、自分で取りに行けばいい話ですし」
梛は載せられたケーキを口に運びながら続ける。
「……別にそんな苦じゃないですよ。姉貴や美卯と同じで、甘いのは好きですし。まあ、さすがに結構キツくなってきたんで、あと一周したら俺もカレーとか取りに行こうと思いますけど」
「キツいとか言いながらもう一周するんすね。梛先輩の胃ってどうなってんすか……」
「いや、正直めっちゃキツい……けど、せっかく来たんだしな」
梛はそう言って最後のケーキを頬張ると、少しつらそうに腹を摩りながら席を立つ。
もう一周するなんて言ってみたものの、そろそろ甘いものにも飽きてきて、身体が塩っ気のあるものを求めていた。
自分でとって、凜桜に食べさせられ、綾芽と陽葵に皿へ載せられ……軽く見積もっても、もう三十個は食べているので、それも仕方のないことだろう。
最後は少なめにして、そろそろしょっぱいものを食べよう。
そんなことを考えながら梛がショーケースに向かおうとすると、戻ってきた凜桜たちがとんでもないものを見せてきた。
「梛ー! あっちにアイスあったよー!」
「色々種類があって、ケースの前ですごい悩んじゃった」
「あ、ラムレーズンだけ、私たちでちょうどなくなっちゃった。ごめん」
「……アイスもあるのかよ」
梛は引きつった笑みを浮かべ、冷や汗を垂らす。
そろそろ限界だというこのタイミングで、まさかこんなところに伏兵が潜んでいようとは……。
ここで食べねば無作法というもの。
梛は腹痛に悩まされること覚悟で、ゆっくりとアイスケースの前に足を運んだ。




