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第4話 苦難は続くよどこまでも⑤

 スイーツバイキングだからといって、スイーツだけを扱っているわけではなく、カレーやパスタ、ポテトフライといった塩味の強いものも多く並んでいた。

 甘いものばかりだと飽きてしまうので、それに対しての配慮だろう。


「……す、すごい混んでますね……」


「自分たちの分が残ってるといいんすけど……」


「なくなったらどんどん追加されてくから大丈夫だよ」


 背伸びして不安げに顔をしかめる陽葵と桔梗に、楓は優しく微笑む。


 休日なのもあってか、店内はかなり賑わっていて、梛たちのように友人同士で来ている者から、一人で食べ放題を楽しんでいる者まで、多くの客が見受けられた。


 と、店員に案内されて席に着くや否や、陽葵と綾芽は荷物を置いて、我先にとショーケースの方へ小走りで駆けていく。

 高校生にもなって、何というはしゃぎようだ。


「なーぎー」


「はいはい、わかってるって」


 早く行こうと言わんばかりに手を引っ張ってくる凜桜に苦笑しながら、梛はゆっくりと先ゆく二人の後を追う。


「ああいうのって初っ端に取りすぎて、早い段階でギブアップする典型的なやつだよな」


「お兄ちゃんの経験談?」


「むしろ梛は、何を取るか悩みすぎて全然取らずに戻ってきたよね」


「そうだな。五分も経たずに食い終わって、またすぐに取りに行った記憶がある」


「バカでしょ……」


 兄のなんとも情けない話に、美卯は憐れむような目を向けてきた。

 そんな美卯に肩をすくめながら、梛は陳列された色とりどりのケーキを見て回る。


 正午過ぎだからか品切れのものもいくつか見られ、目の前で小さな子供に最後のひとつを取られた陽葵が、まるでこの世の終わりのような顔をしていた。


「あ、これ美味しかったよ!」


 と、楓が皿の上に載せたケーキを見せてくる。


「前に食ったやつなんてよく覚えてたな」


「こんな色のケーキなんて、滅多に見ないからね」


「あー。たしかに、こんな派手な色してたら印象に残るか」


 楓がとったそのケーキはラムネ味らしく、全体が水色に着色されていた。

 昔の人が見たら、「こんな毒々しいものを食うのか」と腰を抜かすかもしれない。


 もっとも、今となってはマカロンやチョコミントなど、奇抜な色の食べ物が多く存在するので、そんな珍しくもないのだが。


「楓ちゃんのおすすめなら食べてみようかな」


「わ、私も……」


「んじゃ、俺も」


「おねーちゃんもー!」


 そう言って、美卯、桔梗、凜桜は一つずつ、梛は三つ、そのケーキを皿に載せた。


 載せすぎだと思われるかもしれないが、綾芽と陽葵に強奪される可能性があるので、そこは許してほしい。


 その後も、また楓のおすすめをとったり、気になったものを載せていったりして、最終的に皿の上には色鮮やかなケーキが八つ並んだ。

 少し少ない気がしなくもないが、第一陣ならまあこのくらいだろう。


 梛たちがトレーを携えて席に戻ると、綾芽と陽葵が、まるで「待て」と言われた犬のように、今か今かと待ちわびていた。


「梛くん、遅ーい!」


「そんなもたもたしてたら、おかわりなくなっちゃうっすよ!」


「悪い悪い。けど、別にわざわざ待ってなくても良かったのに」


 梛が言うと、綾芽はふっふっふっ、と小馬鹿にするように笑う。


「わかってないなあ、梛くんは。こういうのはみんなで食べるからいいんだよ。ほらほら、早く座って食べよ食べよ」


「綾芽さんにもそういう配慮ができたんですね……拾い食いでもしました?」


「梛くんってば失礼だねー! でも、そのくらい遠慮がない方が――いい!」


 綾芽は梛に向けて親指を立てる。もちろん上向きに、だ。


「はいはい、そうですね。早く食べましょう」


 梛は適当にあしらって、席に着く。


 綾芽は不満げに頬を膨らませていたが、凜桜とは違って、放っておけば次の瞬間には治っているので扱いが楽だった。


「さて、それじゃ――」


『いただきます!』


 言って、全員が同時にケーキを口へ運ぶ。


「んー! やっぱ甘いものは正義だねー!」


「楓さんが言ってたケーキ、すごく美味しいです……!」


「あとでおかわりしてこようかな……」


「ふふ、気に入ったみたいでよかった」


「梛先輩、それひとつもらっていいっすか?」


 などと、頬を緩めたり、人の皿を狙ったりと各々が騒がしくする中。

 凜桜はケーキの刺さったフォークを梛に差し出していた。


「はい、あーん!」


「……いや、食ってるから」


「あーん!」


「いや、だから……」


「あーん!」


「……」


 梛は呆れたように半眼で見やると、コーヒーで口の中のケーキを流し込み、凜桜が差し出してきたケーキに仕方なくかぶりつく。


「美味しい?」


「……まあ、美味しいけど」


 梛が言うと、凜桜は満足げに満面の笑みを浮かべた。


「まだまだあるよー! はい、あーん!」


「いや、自分のあるから。姉貴も自分の食えって」


「むー……あ! じゃあ、次は梛がおねーちゃんにあーん、って――」


「しないから。自分で食え」


 梛は凜桜を無視して、自身の皿に載ったケーキを口に運ぶ。


 不満そうに頬を膨らませていた凜桜も、数秒後には不満の代わりに、ケーキで頬を膨らませていた。

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