第3話 類は友を呼ぶ。面倒な友を呼ぶ。⑨
「……何してんだ?」
夕食のあと、風呂に入って身体を休めた梛が自室へ戻ると、綾芽と陽葵が梛の部屋を物色していた。
凜桜と美卯もいるのだが、凜桜は梛の枕に顔を埋めるように抱きしめながらベッドに横たわり、美卯は椅子に座って眠そうに目をこすっている。
梛の部屋のことなど、漁らずとも把握しているのだろう。
「あ、梛先輩。ちょうどいいところに来たっすね」
「ちょっと、梛くん。これ、どういうことー?」
と、綾芽がベッドの下を指さしながら言ってくる。
「どういうことって……何がですか?」
「本棚の裏にも、机の引き出しにもない。もしかして王道のベッドの下に……と思って探してみたのに、ひとつも見つからないんだよ!」
「……何を探してるんですか?」
梛は恐る恐る問いかけた。
聞いてみたものの、探している場所的に綾芽が何を求めているのかを理解してはいるつもりだ。
だが、もしも……宝くじの一等や低人気馬の三連単が当たるような天文学的な確率で予想が外れているかもしれない。
そう思って、一応、念のため、ひとまず、確認してみただけだ。
すると綾芽は、ふっふっふっ、と含み笑いをして、梛をビシッと指さす。
「そりゃあもちろん、梛くんが隠しているであろう『そういう系の』お宝に決まってるじゃないか! さあ、どこに隠したのか白状するんだ。それとも、私たちが来るからってここ以外の場所に移したのかな?」
「……残念ですが、この家に綾芽さんがお望みのものはないですよ」
「いやいやいや。そんな嘘で騙されるほど、お姉さんは甘くないぞぉ?」
綾芽は梛の肩をぽんと叩くと、耳元まで顔を寄せて、周囲に聞こえないほどの小さな声で言ってくる。
「内緒にしてあげるから、お姉さんだけに教えてほしいなぁ」
「だから、ないですって。もし俺が持ってたとしたら、美卯がとっくに見つけてるでしょ」
梛は呆れたように息を吐くと、言ってやれ、というふうに美卯に目配せする。
しかし、梛が問い詰められている面白そうなこの状況で、美卯が援護するわけがなかった。
美卯は静かに笑うと、意味ありげに呟く。
「……まあ、紙媒体のものは見たことないよね。紙媒体のは」
「つまり、梛先輩は電子書籍派、と」
「いや、陽葵の目の前に本棚があるだろ。紙のラノベがずらりと並んだ本棚が。俺は未来永劫、紙媒体派だ」
「またまたー。普段読むものは紙で保存してるけど、そういう系のは電子版なんでしょー?」
言いながら、綾芽が梛の頬にぐいぐいと指を突き刺してくる。
「さあさあ。いい加減白状したまえー!」
「……そんなに疑うなら、好きなだけスマホ見ればいいじゃないですか。下に置きっぱなしですから」
「なるほど、『灯台もと暗し』ってやつっすか。堂々としてれば見つかりにくいっすもんね」
「それじゃあ、梛くんの秘密を暴きにレッツゴー!」
言って、綾芽と陽葵は部屋を飛び出し、階段を下りていった。
台風が過ぎ去ったかのように、疲れ切った梛は床に座り込む。
「……ったく、ないものはないってのに、何を躍起になってるんだか」
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん、どした?」
「……お姉ちゃん、寝てない?」
「……」
梛は無言で近寄り、妙に大人しい凜桜の腕の中から枕を抜き取る。
美卯の言う通り、凜桜はだらしない顔で静かに寝息を立てていた。
ここで寝られても困る、と揺さぶって起こそうとしてみるも、なかなか起きる気配がない。
これ以上やると捕まりかねないので、諦めるしかなさそうだ。
「美卯、あとは頼んだ。姉貴を起こして、自分の部屋で寝るように言っといてくれ」
「いや、自分で言いなよ」
梛がそう言い残して部屋を出ようとすると、美卯は梛の腕を掴んでそれを阻止する。
そして、そのまま凜桜に近づき、ぼそぼそと耳打ちした。
すると――。
「なーぎー!」
ぴくりと動いたかと思えば、凜桜は勢いよくベッドから跳ね起き、梛の胸元に飛び込むかのように抱きついた。
これが嫌だったから、起こすのを美卯に頼んだというのに。
梛はぐりぐりと頭を押しつけてくる凜桜を引き剥がそうと、力いっぱいに押し返す。
しかし凜桜がその程度で離れるわけがなかった。
「……美卯。お前、なんて言って起こしたんだよ」
「別に? ただ、『起きたらお兄ちゃんを好きにできるかもよ?』って」
「何が『別に?』だよ……ああ、もう」
これ以上言っても無駄だとわかっている。
梛は諦めのため息を吐くと、凜桜を引きずりながら階下へ下りていく。
と、梛がリビングに入った途端、陽葵が梛のスマートフォンを突き出してきた。
画面を見ると、「一分後にまた試してください」との表示が出ている。
「梛先輩! パスワードがわからないんで開けられないっす!」
「梛くぅん。あんなこと言って、実は見せる気がないんじゃないのかなぁ?」
陽葵と綾芽は、問い詰めるように梛の前に一歩踏み出してきた。
「あー……まあ、姉貴と美卯くらいしか知らないか」
梛はスマートフォンを受け取り、再び入力が可能になると数字をタップしていく。
「パスワードは姉貴の誕生日ですよ。0327」
「あ、梛の誕生日じゃなくて、凜桜さんのだったんだね」
「そりゃあ、開かないわけっすよ」
「やっぱり梛くんは凜桜のことが大好きだねぇ」
「親に買ってもらってすぐ、姉貴が勝手に設定したんですよ。それから面倒で変えてないだけです」
言いながら梛は、からかうように肘でつついてくる綾芽にスマートフォンを受け渡した。
綾芽や陽葵は、梛が何か隠しているように疑っているようだが、誰に見られて困るようなものはスマートフォンの中にはない。
梛が唯一見られたくない黒歴史といえば、小学生の頃、凜桜と美卯に着せられたドレス姿の写真くらいだ。
どちらかがアルバムを持ち出さない限り、それが陽の光を浴びることはないだろう。




